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少年は恩人の巨乳お姉さんに会うためミニロボバトルに絶対負けられないのである?  作者: くるま


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終 話 ②

「到着しましたねおふたりとも!!それでは、両側でいつでも開始できるよう、スタンバイをお願いしますよおおおお!!!!!」


 いつものお兄さん。

 設置作業も終わっている、らしい。


 何度か紅矢の見たことがある市民の憩いの場の空き地が、怪しい機械の展示場になっていた。



 正直、こわい。


「紅矢っくぅぅぅぅぅぅぅん!!!」


 試合場に気おされている紅矢に、その時異様な大声が浴びせられる。

 そして同時に、物理的衝撃も襲い掛かる。

 ぷにっとした感じの。


「会えた!もうなんでもいい!抱きしめて!罵って!動けなくなるまで踏んでほしい!!愛してる!」


 アスリートかと思う速さで紅矢に女性が抱き着いた。



 ここ一か月。

 完全な監禁とプライベートを殺された生活、仕事としてのAI教育に配信と様々なものを詰め込まれた彼女、その名を倉木戸玻璃。


 溜まったストレスに、外に出られるというテンションと目の前の紅矢を前に、ついに壊れたらしい。


 設置の応援として駆り出されたようだが、もはや作業着を脱ぎだして法の破壊すらもくろみ出すその所業。


「ステイ」


 が。


「ぐが!?」


 玻璃には首輪がつけられており、環腕凜乃の引っ張った紐で引き離される。


「あれ、隔離しといて頂けますか」

『承りました凜乃様』

「愛して!!束縛して!!押さえつけて抱きしめて!もっと強くだ!!囁きながら!」


 錯乱としか聞こえない謎の叫びをスルーし、メイドがとりあえず車に、玻璃を引っ張っていく。

 手際と容赦のなさを見るに、どうみてもこれ、初めてではない。


 果たしてあの出会いからの一か月ちょいで何があったのだろうか……。


 想像を絶するいくつもがあったのだろうが、明かされることは、たぶんないだろう。

 きっと。

 


「あの姉ちゃん、出てくるたび犯罪じみたこと山盛りだな」

「あれで、辛いことみたいなのもいっぱいあるみたいだし……そっとしておいてあげたほうがいいかも…」


 紅矢なりの、相談に乗ってくれたりもした相手へのそれなりのフォロー。

 にはなっていない、悲しみ。


「…て、蓮だ」


「こんだけ話してから気付くわけか、お前」


 開会式に呼ばれていたのは紅矢なので、特についていかず、昨日激励をもらった友人。

 近所なので、普通に今、そこにいる。


「開会式、ずっと見てるって言って…?」

「真上にヘリ飛んでる音したら、それどころじゃないだろ普通」

「たしかに」


 かなりヘリを下す際も周囲がにぎやかだった様子が思い浮かぶ。

 結果、周囲は駆け付けた野次馬の子供が帰ろうとしない。

 おそらく、そのまま観客として放映のオブジェとなることだろう。


「セッティング、そのままで行くか?」


 明日雄もいる。

 持っている武装、入れるアプリなど、今までも陰ながらずっと実質のアドバイスなどはされていた。

 そして今回、これがベストという形を少し、紅矢の提案で変えてきていた。

 そのまま、というのは、まだ戻せるぞということである。


「大丈夫、いってみるよ」

「じゃあ、勝ってきてくれ」

『世話をかける明日雄』


 そして、二人とも少し離れた位置から声援を送る位置へと下がる。


「いい友達を持って、彼は幸せだな」

「いや、なんでそこを上から目線なの上級生…」


 目立つようになってしまってからの、メイン対戦相手だった参光勇我。

 俺が育てたといわんばかりの感じで、これもいつの間にか立っていた。


 まぁ、確かに役には立ってたが。

 本編には役に立たないところで。


「おまたせ」


『まぁいいよ、始めよう』


 間を持たせてくれた、元会場の第一試合は終わっているらしい。

 設置された、投影ディスプレイやステータス表示、状況ステータス表示などがモリモリに付けられた移動試合場。


 それも満を持して稼働し始める。


 環腕凜乃が見せたかった、急ピッチにして渾身の、ある意味愛の結晶がここに動き出したのだ。

 満足げに、自慢げに。


「開幕第二試合!ご準備できましたかしら!」


「え、あっ……お嬢様がやられるので……」


 お兄さん、やる気満々の仕事を一つ取られるのに言えない不満を吐露。


「私が本来出っぱなしでやる式だったの、忘れてるわけでは、ないですわよねぇ」

「アッハイ」


 逆らえる気はしない。


「準備、いいよ」

『開始してくれてよいですよ、小さい社長』



「「それでは、試合、開始ぃぃぃぃぃ!!」」



 待ちきれないとばかり、戦闘開始。


「あとでお前、始末書ですわよ」


 小さい一言、重い。





 一方の、試合に挑む二人と二体。


「紅蓮多!先制するよ」

『まかせろ紅矢!』


 紅蓮多の武装増加仕様。

 いつものイレイザーブレードと、凜乃に以前もらった加速ユニット…ではなく。

 最初から入っていたものの一つ、インパクトカノンを背中に装備。

 キャノン砲仕様とした。


 これはお姉さんからもらった時に乱雑に入れられた、本来のマルコシアスの武装である。

 元来、紅蓮多にとって苦手分野だった射撃と、その行動予測にさらなる訓練をさせるため取り付けられた。

 が、当然のように当たらない。


『早速言うのもなんだが、初手はつまらないな、紅矢くん』


「そう簡単でもない、ジャンくん」


 インパクトカノン。

 要は、衝撃波発生器だ。

 当たればそれなりに広範囲にダメージが与えられるが、小型化は反動の抑えにさらに技術が必要なので、概して命中率はさらに下がる。

 扱いがずいぶん難しい部類の遠距離武器というわけだ。

 当て勘のあるないを見られて苦言を言われるのも、ある意味仕方ないとは思うが……。


『僕はね、君が見せていたアレを、手に入れるのを目標にしてやっていたんだ』


 翻訳機を通して、微妙に感情が漏れている気がする。


「あれ?」

『オーバーブーストだよ、僕より先なんて、いないと思っていた……なぜなら、経験値スキルのためにこのボーグは、本体4体以上をすべておんなじAIで同調させて強制的に成長させているんだから』


 昔のロボ使い続けていない理由は、それか。


『それなのに、初心者丸出しの君が、なぜあれを引き出したのか、どうしても知らなければ我慢できなかったんだ』


「戦いたかったから、じゃなかったんだ……ね」


『勝負になんか、たぶんならないとしばらく思っていたよ…』


 ジャンの持つ同型マルドゥーク、ボーグはその間も、プラズマガンも絡めた遠距離攻撃を飄々とかわしている。

 攻撃しないのは、おそらくは明らかに余裕。

 



「完全になめられてるな、紅矢」

「それは当然だな……あの彼は、世界で最も戦闘経験が多いプレイヤーと言われている」


 勇我が解説班のように語りだす。


「いや上級生、なんで常に上からなんだ、あんた別に勝率高く……」

「最強なのは変わらない」

「あれ目の前にして言うかね…」


 蓮は年上にも突っ込みの手を抜かない。


「彼は強いと思えばそれを買い、自宅環境と同調AIで対戦と機体の長短を調べ上げられるのだ」


「それ、なんかズルくない?」


「それを初手でやってアクセス稼ぎまくって、さまざま戦術を公開しながら遊びに国内有志大会荒らしをしてきた、だから最強のプレイヤーと言われているんだよ」

「経験値、なぁ」


 一日ほぼ一度は戦っている。

 その紅矢を見ていて十分に思ってきたのが霞むほどに。


 本気というのは、怖い。

 蓮も、なかなかに悪い予感を感じだしていた。




『一撃が怖い程度、それならタイミングを誘発することで勝ちがある、そうだろう?』

「僕のこと、それだけ見てたわけだね」

『何度見ても、君がそのブレンダーを最高まで成長させたきっかけがわからない』


 名前、そんな風に聞こえてるのですか?


『だから必ず対戦して、どうしてそれが出来たか聞き出したかったんだよ、押さえつけてでも!』

「なら、僕が勝ったら、紅蓮多の名前をちゃんと覚えてもらうってことで」

『そんな程度で本気になれないだろう?』


 にやり。

 ジャンが、割と端正な顔を一気に変貌させる悪い笑みを浮かべた。


『ちゃんと負けた時にあの力のことを話してくれるなら、こちらは僕が取った北米最大ゲリラトーナメントのタイトル王座をこの場で賭けてあげるよ紅矢!』


 いった瞬間。


『うわぁぁぁぁぁ!!!』


 紅蓮多が吹っ飛ぶ。


「紅蓮多!何をされ…!?」


 吹っ飛んだ足元には、瞬間移動をしたようなボーグの姿。


「あぁぁぁぁっと!!静かな立ち上がりから一転、最初のヒットはジャン君が取った!!!!!!」


 解説お兄さんのうれしそうな声。

 試合場も、逐一減ったマーカーの表示をリアルタイム映像で出したり、選手アップや即時リプレイを流したり、派手である。


『ヘルメスと同じ手だ紅矢、ただ機体パワーの差が大きすぎる!』

「距離詰めた時の有利がない、怖いね紅蓮多」

『たのしいだろう?紅矢』


「……うん!」




「メカの名も特徴もSF映画由来らしいし、挑発も欠かさない……悪役ムーブが好きなんだな、対戦しているあの子は」

「そういう解説まではいらねぇが」




『早速で悪いが、つまらなすぎるんだよ!命乞いをさっさとしてもらう!』


 ジャンがさらに吠える。


『ジャン!』

『ファイト!!』


 掛け声に合わせて、さらにすさまじい速度でボーグは試合場を走りまくる。

 そして。


「これは……」

『しまった…!』


 ワイヤーに絡められ、紅蓮多は、中央で動きを封じられていた。


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