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第一話 ①

 話は、少し巻き戻る。

 6月某日。


 少年はただ戸惑っていた。

 テレビで見るような雰囲気の女性が呼びかけてきて、手渡しでその手に触れながらプレゼントをくれて、幻のように立ち去って行ったのだ。

 それは、少年にとって現実味がない衝撃である。



 嬉しかったのか楽しかったのか、はたまた恥ずかしかったのか。

 少年には現状の理解など数年先に放り投げる以外ないような出来事が、一気に降り注いだ。

 少なからず、今は、そうとしか表現しようがない。

 なので少し棒立ちをして、何も考えずに家に向かって歩くだけであった。




 我が家が見えたころ。

 ようやくそれ以外のことを思い出す心の空き領域が生まれだす。


「よっ、今日はボールと友達じゃないんだな珍しい」

「蓮…」


 少年のごく親しい友人、賽南司さいなむし れんの声だ。

 サッカー仲間であり同じクラスであり登校も最近は合わせてくれている。

 好きなものの会話でも意気投合できるなかなかの親友具合であった。


「蓮はロボ好き系かい?」


 唐突な少年の切り出し。


「なんか変だなおまえ…目とか話の脈絡のなさとか」

「まあ変なんだけど」


 認める。

 自分でも、それに本当に興味があったか疑問が出てきたので、友人経由でそれを確認したい気分だったのかもしれない。

 箱の中身は確認していないが。


「むしろ最初に、その話を人に聞く理由が気になるよ」


 おもに頭のな。

 そう言わんばかりの視線だが、いつものことなので少年は気にしない。


 そして家に戻り。

 やっと観客随伴の元で箱を開封。

 ……すると。


「あ、えっ」

「これ…」


 同時に絶句する。


「すごい高いやつじゃなかったっけこれ」

「ドロドロコミックに出てたあれ、で、あってるの」

「たぶん…」


 高級感あるブリスター。

 外国語で読めない分厚い説明書。

 雑に放り込まれた付けきれるか怪しい武器のてんこもり。

 そして、赤を基調にした二つ目の力強いフォルムの人間型ロボット。

 十センチ前後のそれは、ちょっと昔に少年たちが買ってもらった組み立て玩具ではなく、自由に自分の考えで動くのだ。

 雑誌の通りなのであれば。


「け、警察に届けるべき案件なんじゃないだろうねお前さ」

「いや確かにもらったんだけど…そんな軽く受け取ってよかったのかちょっと怖くなってきた」


 確認作業。

 通話専用の少年の小型ガジェットは、小学校の指導で外出中はマイク録音するように推奨されている。

 怪しい勧誘や誘拐などから青少年を守るためという名目らしいが、ちょっと詳細はわからない。

 その録音を追いかけると。


「…うん、まあ、キョドってて怪しい…」

「でもまあ、あげるよ、とは言ってるな」

「ほら、間違ってなかった」

「後からこの代金を払えとなんか言ってきたら、警察いこうな」

「蓮は一切容赦ないね…」


 そりゃ、世の中に警戒心のない子供の相手を長くしてりゃな。

 と、蓮は即答したが、それを口にはしなかった。

 何はなく、それを言うのは気恥ずかしかったので。


「それはそれとして、せっかく手元にいいおもちゃがあるんだし、遊んでみないとな」


 そんな感情ゆえなのか、口にしていないのにごまかすように話を変えだす。


「…動くんだよねこれ」

「うごく、はずだなあ」


 待っていたら動くのか?

 光を当てたりするといいのか?

 スイッチがあるのか?

 二人は悩んてみたが、わからない。

 小一時間ほど、なに一つの進展なく悩む遊びを堪能した少年二人。

 解決方法は…。


「「電気屋呼ぼう」」


 ふたりぴったり一致した。

 電話で何とか救援を要請。



-それからおおよそそれから10分経過。



「紅矢ぁ、ロボ持ってるってマジかあ?」


 ちょっとぽってりした少年が部屋に乱入。


「望、いらっしゃい」


 多々たたれし 明日雄あすお。町の電気屋の跡取り息子の登場である。

 電気と機械関連ではまさに本職なので強い。

 同級生のこの三人は、前からそれなりの付き合いがあった三人だった。


「なるほどなるほど、じゃあまず充電して、そうすると外部接続要求してくるはずだからタブに送って…」


 事情を聴くや否や、望は仕込みかと思う勢いでいじり倒す。

 一緒に入っていた意味不明な何かを専用充電キットと即座に特定し、それを電源に接続してからはもう目に留まらないほどに動く速いデブである。


「なんだこれ…」

「すげえなデブ」


 見たことがない望の挙動に二人は圧巻以上の反応ができない。

 何分かで二人の何日分の作業をこなしたことだろうか。


「紅矢、本体に付属品エラー出てるからそいつに鎧つけてやってくれよマジすぐに」

「あ、おう」


 言われるがまま。

 だが、なんとなくわかる。

 少年、紅矢の持ち物なので出来そうなところは譲る配慮の精神。

 友達の心意気といったところだ。


「それ肩だろ、そこつけるな」

「蓮の持ってるそれも足じゃないと思うよ、腿のところこう付かない?」

「じゃあこれか?これ先じゃないとつっかえそうだな」

「ほんとだほんとだ」


 和気あいあいの工作作業。

 そんなしばらくの楽しみを経て。


『名称入力、着信通知を最初に行いますか?』

「「「しゃべった」」」


 感動の瞬間が訪れた。

 もう夕飯になりそうな時間にはなったが。


「名前なあ」


 紅矢が起動したロボをじっくり眺める。

 こいつにつけたい名前。

 実際考えたことが今まで一瞬すらなかった。

 失念の極みである。


『名前なあ、これを上位権限所有者の名称に設定してよろしいですか?』

「「「違う違う違う!!!!」」」


 そっちか!


「まあ、全員の持ち物みたいな主張は考えてない、紅矢そのまま入れろ」

「えっ…なんかコードネームだったかそういうの入れる感じでいいの」

「ログインネームのことかな、いや電話機能あるんらしいし名前そのままだ、たぶん」

「そ、そっか」


 迷いながら考えながら、着実にデータ入力。

 こうして夕食を三人で食べたその一時間ほどを費やし、入力作業は終わった。


『では、紅矢、これからよろしくお願いします』

「ああ」

『入力項目はすべて完了しました、これよりサポートさせいただくクラッシュレッド・マルドゥークと申します。名称変更をされますか?』

「決めてあるんだ、君の名前」

『変更後の名称を、お願いします』

紅蓮雄くれおって言うのどうだろう」

「「そのオスどうやってひねり出したの!?」」

「いやだって、持ち主は僕だけど、名前は三人分いれてみんなで楽しみたいなって…」

「だからって雄はいらねえよ…考え直そう、な?」

「そんなに必要じゃないから気持ちだけでいいよ…ありがとう紅矢、やめて」

「でもなあ」


 紅矢は譲りたくない気持ちで見てくる。

 優しい子だよ、でもお前のセンスは俺たちを苦しめるんだよ。

 蓮は正直に言いたかった。

 しかしまあ、落ち込ませる必要はない。


「じ、じゃあ、デブに一文字付ける権利やるってことで妥協しよう」

「デブとか言うなよ」


 ごもっとも。


 思ったことはちゃんと心の戸棚にしまってから、状況に合うよう取り出しましょう。


「まあ…それなら…」


 結果。

 思考時間、実にそこから五時間。

 お泊りの電話が必要な時間すら過ぎてもう全員寝たい気持ちしかない日付が変わろうという時刻。


「……じゃあ、多だ、もうそれでいいだろう」

「一人だけ苗字は…その妥協は…」

「いやもういいよそれで」


 デブ、折れる。

 明日雄もいろいろかっこよくなる名称は提案した。

 だがなぜか、すべて却下される。

 紅矢のセンスなのか、みんなでといった考えからの拘りなのか。

 それは誰にもわからない。

 ただ、そこだけ珍しく、どうしても折れないのだ。

 真、王、玉、人、青、超、魂、君。

 色々出してどれも、紅蓮とくっつけるのには適切だと二人には思われたのだが。

 どうしても何かが足りないのだと言ってくる。

 そして今、やっと根負けという形で決着を見つつある。


「じゃあ、わかった…紅蓮多ぐれんたで…」

「「よかった」」


 心の底から思った。


『では設定いたします、紅蓮多の呼称で当機は以後命令を受け付けます』

「じゃあ、ちゃんと充電しててね」

『了解です、紅矢』


 三人にとって、わりと記念すべき時であったはずながら、眠気でそれはすべて流れるように消えて行った。

 思い出すその時が来るまで、紅蓮多も、それはじっと記憶に静かに仕舞い込んでおくのである。

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