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第漆話 ②

 突然家にタイミング悪くかかってきた電話。

 母が取り次ぐわけだから、取材や知らない人のいたずら電話では、まずないだろう。

 が、紅矢の家の固定電話には、今時普通に紅矢宛の電話などかかってこないはず。


 通話受信機能付きのガジェットである紅蓮多がいるのだから、当然近しい友人はそこにかけるわけはないのだ。


 ではいったい? 


「もしもし……」


「…!…あっ…あ………あのっそ、そのっ」


 ガチャン。

 通話が切れる。


 ……今の、何?


 呆然として受話器を置くと、その数秒後にまた電話が鳴った。

 自然と紅矢がすぐ取る。


「あ、紅矢くぅん?わたしわたし、あなたを愛する、永遠の恋人倉木戸玻璃ちゃんですぅ」


 知っている人だ。

 よかった。


「いまさっきのも…ですか」


「あぁ…ちょっとちがうねぇ、隣にはいるけど過呼吸で死にかけて…」


 誰だ、隣の人って。

 紅矢にはさっぱりだが、玻璃が自由にできる範囲に行ける人、そして紅矢と会話で興奮しすぎる人はたった一人。


 そして、そんな謎によって生まれる空白が混ざるその間にも、気が付くと、ちょいちょい、じゃりじゃりとしたような音が混ざる。

 なんだろうか。


「今変な音、しませんでした?」


「そこは気にしないでぇ、コルトパイソンの銃口がこめかみゴリゴリしてる音がちょっと入っただけぇ」


 大丈夫ではないような。


「ごめん訂正されたわ、コルトグリズリーだって」


「言わないといけないのは正直そこではないと思います」


 余裕はありそうなのでこれは遺言ではなさそうだ。


「そう、で、横の人が話したかったことだけどねぇ、大丈夫?昨日今日で変わったこと、嫌な事は起きてない?」


「学校にカメラ持った大人がいっぱいきたり、裏口から逃げ帰ったりしたくらいで、そんな嫌な目には遭わないですが」


「ほうほう、メモメモ」


 さらに奥で何か叫び声っぽいものが一瞬聞こえたが、紅矢は何かしら不穏を感じスルー。


「趣味でやってるバトルのほうはどう?」


「…あ……」


「みんなの見る目が変わったりはしてない?みんな同じように変わらず付き合ってくれて、遊べてた?」


 少し何かを引き出すように、重ねて言われているようなものを感じもした。


「…えと…」


 が、だからと言ってうまい切り返しはできない。


「あと、紅矢くんのページのコメント、あった?」


「…それは……あとで…その」


「その反応、見ちゃったね…」


 わりとノリで書かれた、遊びも含めた子供への罵詈雑言。

 実際思っていることもあれば、思っていなくてもそれを見た反応目当てで過激にものを書いたりもする。

 それを見分けられるかどうかなど、わりとどんな人間でも立場が違えばわからない。


 そんなものである。


 ネットで注目をことさら一気に浴び始めたそこには、そういったものもことさら集まるものだ。

 それらは環腕凜乃の直接の指示によって、そして儚樹想の手によって、本来即座に消去される。


 しかし。


 一気に凜乃がとある案件の報酬を渡してから、管理者が動くその動きは鈍い。

 とても鈍い。


 今までは書かれて数分でチェックが入るのが常だったのが、こともあろうに溢れた上にとうとう紅矢たちの目に入ったわけだ。



 どうやらアレは、まとまった金を渡すと即座に堕落するタイプと実証されたようである。



 そこから語られる。


 いけなかった学校の様子。

 紅矢のそういった日常へのマイナス影響。


 たぶん「なんですって!」などという叫び声が電話の近くで途切れなく上がっている。

 何なら、ちょっとだけなら漏れて聞こえている。

 

 それは実際、仕方ないともいえる。

 ずっと好きと思い続けている人間に、自分が原因で引き起こしたマイナス要素がのしかかりつつあるのだとしたら。

 それらを、ひとつとして、絶対見過ごせないものが、玻璃の隣にいるその人物である。

 話をするのも困難ながら、その確認だけは、どこまで忙しくても確認が必要だった。



 そこまでを第一優先にする人物。



 まぁ、言うまでもない。


「そのへんは色々あるし凹む気持ちがあるなら一気に凹んじゃうといいよ紅矢くん」


「…でも、気にして今と変わってしまっても、いけないって……」


「馬鹿だなぁ紅矢君、無理したって同じままに見てなんてくれないよ、わかっちゃうんだから」


「でも…」


「怖かったり、辛かったりしたら倒れるくらい悩み倒しちゃいなさい、そしてダメだった自分に何があったらイイかまで悩み倒して、誰か来てくれたらその人に寄りかかっちゃいなさい」


「でも…」


「まだ子供だってこと、忘れてるよ紅矢君は…」


「…でも………!」


「心から心配してくれるいい人が傍にいればそれに気付いて幸せになれる、だめなら荒れ散らかすでいいんだよ、発散できれば落ち着くこともすぐ出来て、落ち着いたら反省して修正したっていい、それは子供の特権だから利用していいの」


「でも!」


「一度はやっとかないと、できないで大人になって、誰も居ないまま後悔するのも一人になるんだよ、紅矢君…落ちるときは落ちる経験して……あなたは、いい大人に、ならなきゃいけない」


「……」


 なぜだろう。


 紅矢が納得もしていないのに泣いていた。

 理解できていたとしても、できていなくても、遊びではなく心配されていることに泣いたのか。

 それともただものが言えないほど畳みかけられたからなのか。


 きっとそれは、かなり先になるまでわからない。


 それを急いで理解しないのも、この今が幸運だからと理解することも。


「自分が悪いと思っていることでも、それを理解して一度何したいかくらいは近くの人に吐き出してごらん?今起きてることは絶対に解決するから」



 もはや押しかけでお悩み相談に来た挙句最後には口説きである。


「あー、そろそろちょっと痛…命の危険があるから切るねぇ…あの噛むのちょっとおかしくない?おかしくない?じゃあねぇ」


 受話器の向こうは、いったいどんな宴会場なのだろう。

 その余韻を残しつつ、嵐のように去る、玻璃。


 いったい…なんだったのだろう。


 だが、まぁ。


 変化があった事のいくつかが辛かったことなどは、そのあと、母親だったり友人だったりに話すことにした。


 結果は、もちろん言われた通り。

 みんながみんな、しっかり聞いてくれて、自分が役立てる範囲を考えてくれた。

 いわゆる、時に悪意をありえないほど集中して浴び続けることをテレビの表舞台に立って体感した女だ。

 その稀有な経験を生かすとこうなるのは見えているということなのだろうか。

 なんというか、彼の目から見る限りはただ一言、すごい。

 ただ、体育館占拠などの大っぴらなことは控えられることになる。








 

 それからは、玩具屋の中や自宅のそばなどで楽しく紅蓮多と遊びながら数日が過ぎていく。




 報道の人間も、凜乃がずっと激務とのことで学校に来ていないコメントを逐一出していることにより、ほぼ姿を消していた。


 凜乃の執拗な管理者への電話により、今はサイトの悪意のある書き込みもおさまっている。

 だいたい凜乃が紅矢のために次々カードを切ったおかげである。


 気付くかどうかに関わりなく、覚悟の甲斐もなく平穏は訪れていた。





 が、そんなある日のこと。





「これなんだろう……」


「なんだろうな……」


「わからない……」


 例の、紅矢たちにわりと縁のある会社。

 ちゃんとした企業活動は、まだ開始していないと思われる会社。

 絶対に見るべき発表がそこからあるので、揃っておくようにと、想に連絡があった。


 らしい。


 と、言うわけで、例によって休日に儚樹宅に集合。



 少しまとまった金が入って腑抜けと化した想とともにそれを見始めた。

 その途中なのであるが…。



 見知ったクラスメイトのファッションショーのような、婚活でもしてるかのような。



 小学生ですが。



 これは、何と言ったらいいのか、なんなんだろう。

 それがみんなの正直な意見だった。

 たぶん本題の前に、すでに三度ほど着替えタイムがあり、撮影がひたすら進む。


 何を見せられているんだ。


 周囲がそれなりに乗って、催促までしているのが子供達には本当にわからない。

 隣に何やら場違いなメイド姿の女性もいたり、大人だけの空間に一人だけ知ってる顔がいたり。

 世界そのものが違うところにいる以外の感想がひねり出せない。


「…ま、このへんでいいですわね」


『よろしいと思います』


 テレビの向こうの知った顔がそこで、ふっと空気を切ったのを見た。

 横のメイド服姿の何かが、すかさず凜乃とその他の間に一定の距離を作るよう周囲を移動しながら人の再配置を行う。


 これだけでなんと手早く見事なことか。

 すかさずのち、メモを凜乃にそっと手渡す。


 メイド姿のかたの胸のブローチがえらい発光しだしたように見えたのがかなり気になるが、タイミング的に見ないものとする。


「では、このたびわが環腕マイクロメガジェットの発表会にお集まりいただき、ありがとうございます」


 環腕凜乃のちょっと遠くを見ながらの挨拶が始まる。

 言い終わりには、すかさず英語通訳をメイド服の存在が行い、何か見たことのあるものを思い出したりもする。


「MACROPS社の販売代理店として、先から営業を開始すべく社内の整備をおこなってまいりましたが、変更点も多く、公開できる情報の発表を本日までお待たせすることとなったこと、この場を借り関係者様各位にお詫びいたします」


 多少噛みながら。

 あとお詫びのわりにむしろ誇るかのようにふてぶてしい子供社長。


「なお今回ですが、店舗設置の日程は後日当社ホームページでの公開となります」


「「えっ」」


 その場も、中継を見ている紅矢も面食らう。


「そして当社は営業に先駆け、本日系列会社資本による増資を行い、MACROPS社株を大口株主との直接交渉によって63%取得、噂の出ておりました公開買い付け予定を前に子会社化したことをご報告いたします」


「「「えっ!!」」」


 もうスケール的にどれだけのことをやらかしたのか意味がわからない。

 親会社の増資などを追加で受けたとしても、それは数十億の資産という実弾とさらに別会社を取り込んで、かなりの大会社になったのを意味するのだが。


「もうひとつ、これによる事業の見直しと新計画を並行して実行し、さらにメガジェットユニットの対戦世界大会を開催することをお知らせします」


「「「「えっ!!!!」」」」


「各国リーグを開催、日付変更などを考慮し日本をスタートとし開幕セレモニーと記念試合も同国で行います」


 せめて、分けて発表しろ。


 あれもこれもといきなりぶち込みすぎる発表会に会場もどれから聞くべきか混乱状態である。


「開幕記念試合は先から対戦動画で有名な覇天椥氏など数名に参加いただき、勝者にシード権、敗者に審判サイド移行のお願いなどをしていくつもりです」


「「「「「え!!!!!!!」」」」」


 ここのあたり、環腕凜乃が意地になって必死にねじ込んだアイデアの結果である。

 周囲のせいで遊びができないなら、どこまででも巻き込んでそれを正しくしてしまいたい。

 そのために急ごしらえした結果が世界大会。


 何を考えているのか、本人と家族とヘルメス以外は、まず、わかるまい。


 いや、広く解釈すればもう一人、いるか。

 巻き込んで餌で釣って、というアイデアを出した、ある日の相談相手という謎の人物が。


「賞品は、ツアー総額500万ドルと優勝者に現在活躍中のバーチャルアイドルである染井吉野ハナを中身ごと差し上げます」


「「「「「「は!!!!?????」」」」」」


「どこにいても、私でしか満足できない体にしてあげますわ!!」



 言い方!




 ひとつ大きくぶち上げて、ここで実は紅矢への愛の告白がしたかった環腕凜乃。

 ものすごい勘違いが巻き起こる発言でもう収拾がつくのかつかないのか。

 その後もそのまま、どうしようもない混乱だけでテレビは終わった。

 なお。




「………景品にされ……た……の…私」



 優勝賞品はその時、まったく、事前情報を漏らされていなかったという。

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