余話 そのころ、お姉さんは
困っているだろう、静止するアッシュを眺めていた。
私が大枚はたいて買った、とても大きい割引の通話ガジェット。
犬みたいなものに羽が生えた、マルコシアス型だったか言う、小型ロボである。
飛行機能があり、私はそれに割と感動したり、楽しく飛ばせたりする。
さらに言うと、その大きさのが自由に飛んでるだけでもすごいと思うのだが。
それとは別に、ぜひともやり遂げてもらわねばならない。
なんとしても、その力を発揮してもらわなくては。
金出して買ったのだから!
『それで、本当にやるべきことなのですか蘭さま』
「そう、絶対に人とのつながりを壊さないためにやるしかないんだよアッシュ…」
これは、私、有留都蘭の。
「家族と友人の取り分として正確にホールケーキを五等分に切り分ける完璧な精密作業をね!」
日常的な数週間を繊細かつドラマチックに描く小さなお話である。
両親、私、たびたび家に通うように来る二人の友達。
切り分けが下手なので、結構トラブルが起きちゃうわけなのだ。
お父さんなんかそれで泣いたことあるし。
「メカとしてミリ単位で正確にやれるはず!そう、君ならできるのさアーッシュ!」
『わ、私にしか』
「期待しているよアッシュ、私に愛される第一の試練なんだこれは」
『…やり遂げて見せます』
やる気になった。
手にはひもで括り付けたケーキナイフ。
「やったれー!!」
結果は、場所は悪くないが…。
「パワーたんないか、その飛行ユニットが悪いのかねえ」
『最新式です!』
まあ、繰り返して慣れるしかない、ポイントとしてはきっちり目印つけるくらいはやってくれた。
「ま、最初としては満足だね、アッシュ」
『ありがとうございます蘭さま』
ちゃんと忘れずほめるの、これポイント。
説明書に書いてた。
と、その時に。
ピンポーン。
ベルが鳴る。
「どなたー」
「こ、ごちゅうもんのパネルお持ちしました、多々禮家電モーターのもの、です」
「望ちゃんかあ、今開けるね」
多々禮の家電店、そこの娘さんの配達。
あそこのお店はネット品切れのをいち早く仕入れてたり、なんとも仕入れの質がいい。
ついつい頼んでしまい、しかも配達も入荷してすぐという、頼れる電機のお店でお得意様になっている。
「はい、おしなものです」
「料金は前払いしてたっけ?」
「はい、いただいています」
「お、これこれ!ガジェット用の小型63%変換率ソーラーパネル!多磨ぞん品切れなんだよねぇ、望ちゃんちょっと待っててね」
走って、思いつくものを手に取る。
「望ちゃん、毎度えらいからケーキあげようか」
「いえそんな!なんでももらってはいけないって」
「そかあ、この指輪とか、シュシュもいらない?」
「あんまりいらないです…」
興味すらなさそうだ。欲しがるゾーンからそれた。
「じゃあ、今時季外れだけど手に入ったヤキイモはどうだ!」
「いただきます!!!!」
勝利!
「じゃあ待ってなさい」
「ありがとうございます」
おやつ用にと入っていたのをレンジに入れ、包み紙を探す。
新聞とってないから、こういう時ちょっと困ることあるわよね。
うーん……。
このロボガジェットの話書いてた雑誌でいいか。
アプリ紹介でおすすめ載ってたの、みんな入れたし。
自動通話とか、反則すれすれなAI成長促進データサーバアクセスツールとか。
と、雑誌を丸めて円錐風に。
そしてラップのままのお芋をほい。
「お待たせぇ、熱いから紙に包んどいたからね、それっぽいでしょ」
「うれしいです!またのおかいもの、おまちしてます!」
後姿を何の理由もなくずっと眺めてしまう。
かわいいなあ、そしてちゃんと商売人だ。
「蘭ちゃ~ん?だれかお客様?」
母だ。
ちょうどお風呂タイムだったらしい。
「多々禮さんとこの娘さんだよ、お風呂私も入るからそのまま流さないでいいからねー」
「はーい」
「そだアッシュ冷蔵庫開けて氷つくっといて」
『なんと!?』
「やり方簡単だから、ネットでこの機種の取説見れるよねアッシュ」
『わ、わかりました蘭さま』
できることの限界が見てみたい気もして、そうして、なんでも一度は試してしまう癖が付いてきてしまう。
そしてまた、アッシュはけっこうやり遂げてしまうのだ。
偉いやつである。
うちに来て数日後には、忘れていたシャンプーボトルを風呂場に持ってきてという指示すら飛行ユニットのタイトな調整でやり遂げるほどになっていた。
「でもいくらロボでもずっと見てるのはだめですアッシュ、出ていきなさい」
『いえ身の危険がないように私も常にそばにいなくてはと思っております』
裸のレディがいる浴室に堂々陣取るんじぁねえ。
セクハラやぞ、わかってんのか。
「単純に恥ずかしいから出てけ!!!お前!」
いろいろ投げつけて、ささっと追い払う。
しつこく何度もやられてる気がするが、ロボだしでいいのだろうかこれは。
して、最初は水をもろ被って転げていたこの子。
いつの間にか予測回避で水の粒すらかなり避けるようになったりいつの間にか成長もしている、らしい。
だが、なんかスケベくさくない?とたまに思ったりするので、ちゃんと境目は作る。
それがいい気がする。
そういっ感じで、アッシュとは実に仲良く、いい関係を持てていると思うのである。
「ランランやーい、おはようさーん」
「パンダじゃねーっつってんだろミラちゃんよーぅ」
アッシュをかって、ちょっと経ったある朝。
これは私の友人の阿万魅来。
制服改造に心血を注ぐなかなかにクレイジーなピーポー。
「目立つねえ、その犬。うらやましい限りだよ」
「『犬ではない』」
もちろんうちのアッシュのことである。
「欲しいけどたっかいよねソレ」
「私もモニタ特価なかったらさすがにお小遣いじゃ無理だったわ」
「あとうちの生活指導が暴れるから、持ち込めそうにないし」
「げにおそろしきは生活指導…」
パネルを買った理由がそこにある。
さすがにおもちゃ扱い確実なアッシュ、高校の校舎にはまだ持ち込めない。
幸い自立行動できるのがコイツらなので、庭の木にでも潜んでもらいながら、使うときには出てくるシーケンスを計画。
潜んでる間に電池切れたら探せないので、自己展開式ソーラー充電ユニットを背中に置いといて充電してもらうのだ。
「そうそう、それと聞いた?」
「あ、うん?」
魅来はそれ以外にも、情報収集力が高い。
「近所の小学校に、変質者が入ったんだって…」
「こっわ…」
「体育館と、そこにつながってる更衣室でめちゃくちゃやって連行されたとか、すごいうわさになってた」
「気分的にしばらく近よれないね…あの公園も近いのに」
わりと雰囲気よくて好きなのに、あの公園。
「あの公園も公園で、外来種の毒グモいたらしくて区会が駆除業者呼ぼうか、そのうち公園の管理会社と費用の相談するとかなんとか」
「ほんと君はどこからそういうネタ細かく持ってくるのかなあ…」
「そこは内緒です」
本当に謎だ。
口には出さない的な行動もたびたびあるし…こやつ。
「おはーよーぉ」
そこに横から、さらに。
「珍しいね、まぐ。私たちが起こしに行く前に起きて、しかも通り道にいるなんて」
「いつもーはー、ねて、ないよー?」
こいつは、玉石まぐ。
行動はアホみたいにのろく、寝ることしか考えていないように見える系女子。
が、吹奏楽にポエムにプログラムに数学に、と部活掛け持ちで多角的な才能をいつの間にか見せつけ、眠れる金鉱脈のあだ名で呼ばれる魔界の住人である。
※魔界は人間離れのたとえで真実とは異なります。
何の因果か、寝すぎな彼女のために部室移動スケジューリングをクラスの黒板にいたずら書きしていたら親友と呼ばれている現状に。
いやかわいいし、友人としてはむしろありがたいけど。
こっちも、というか実態よくわからない系友人ばかりだな、私。
「おらぐらつくな、まっすぐ歩けまぐ、それは枕じゃないゴミ箱だ」
退屈はしない。
ネタでやってるのか本気なのか一切行動が読めないけど。
「あー、これーはー、枕だぁ……間違いないー」
「私だよ」
「いやいやそれは枕だね、その柔らかさはそれ以外ないよランラン!」
「それはおっぱいに対する嫌味なのか!」
「違うよランラン、私はあなたのポテンシャルを信じているからここまで友達しているんだよ?」
何のだよ。
「いつかお前は世界のグラビア系トップに就く女なんだよランラン」
「願い下げだよ?!」
「だから私はそのすべてに磨きをかける計画を……おっと話せるのはここまでだ」
「何言いかけた!言え!貴様なにを企んでいるのだ!?」
賑やかなグループだよね、とたまに近くの席の子から言われます。
そんなこんなで、人と呼ばれた荷物を抱えながら校門前。
「毎日登校は重労働だな……てことでアッシュ、ここまでだよ」
『お気をつけて行ってらっしゃいませ、蘭さま』
「……じゃあ、ポストの近くのものの手配は手筈通りだからね、ワンコちゃん」
『認識の違いはあるようですが、お任せください魅来さま、万事つつがなく』
後々になって教えられたことだが、この時期このペアは私の部屋の化粧水や身の回りもろもろを、すべて魅来の指定ブランドに変換する作業を行っていたらしい。
クソ高いのもあって喜ぶより完全に引いたが……いや、その思考に最初に絶対的なノウを突きつけるのが普通だっただろうか。
何より、よくやれたものだ。
そしてその日の放課後。
「おぅ、タダ売りのおもちゃ屋さん今日は割と早く出たねえ」
最近週一くらいで電話するおっちゃん。
「え?お父さんの誕生日までに間に合わせてね例の玩具の修理さって毎度言ってるよね私」
電話の向こうの今起きたようなけだるげな声が毎度すぎでむしろイラッ。
「忘れてたの!?言ったでしょ、手に入ったって言ってたマスクロボ!五体合体マスクロボ!名前違うって?いや別にそれはいいよ」
オタクってやつはこだわりを聞いているときりがない。
「お金はちゃんと半金前払いしてるんだからサプライズプレゼントにちゃんと協力してよねまったく…えぇ?最近買ったメカで遊びたいのにって?バカいう前に働け、動かしてるとこ見たいなら操作だけでも人に頼みなさい、客はいっぱい来るんだろうタダだし!じゃあ次は引き取りに行くからねそのマスクロボ!」
電話のお話し先は、おもちゃのタダと言う町の小さな玩具屋の店長。
昔から変わらず、なんとも子供っぽい行動で困る。
自分の玩具遊びよりまず仕事でしょうに。
なーにが最新の玩具を手に入れたのに戦う相手もいない、だ。
ただでも今日は忙しいのに。
「魅来、そっち頼むね、これ吹奏楽の部室に放り込んでから買い物だよ」
「あいさー」
「……わーたしーもー、ふたりとー、ステーキたーべーたーいー…」
「ステーキは食わねえよ」
「じゃあー……いい……」
間食ステーキって。
そんなに太りたいのかお前は。
むしろあと40キロくらい痩せて手提げバッグくらいの重量になって楽させてくれ、まぐ。
「じゃ、確かにお届けしましたぁ」
「助かったよ有留都さん、演奏会はいい席用意するからね!」
「たのしみにしてまっすう」
正直されても行く気なかったりするが。
これでまぐの配達と予定管理は完了。
あとは魅来とフレンドリーなおデートのあとに、取って返して、まぐを家に配達しそのままメールに入っている家の買い出しをこなして帰宅、フリータイムである。
バイトも入ってたらパンクしてたね予定が。
してないけど。
「さて100均巡りでいいんだっけ」
「いやすまんねランラン、話に聞いたネイル用のチップがどの店舗にあるのか、わかんなくなっちゃって」
「ケーキバイキングのソロデビューを避けられるなら安いもんよぉ」
「愛してる!ランラン!」
「知ってるけど私は一人だけのものにはならないよ?」
「ランラン!天然の女たらし!そこにしびれるあこがれるッ!」
「そこに憧れるのは性格破綻者なのでやめておきなさい」
それ以上に私を何だと思っているのか。
『ともあれ正しい見識です』
「…いたのねアッシュ」
『小型端末の位置情報とはリンクしておりますので、校内敷地を出ればすぐお傍に駆け付けます』
「微妙にストーキングだね!」
この空気のままで我々は地下鉄で新宿に直行。
誰が言ったか魔界都市で、手分けして100均を次から次へとカニ歩きする女子高生が出現したとかしないとか。
「これか魅来!」
「それだ!ベルとハートの枠抜きで大きさ5種類あるやつ!今どこ?」
「西口の郵便局の近くだけど、立て替えで買っとく?」
「4色それぞれ3つは欲しいんであれば頼みたいかなぁ」
「おけぃ」
「ランラン本当に愛してる!結婚してあげてもいい!」
「日本じゃ不可能なんでまず二人分の渡航費用稼いでな」
「つれなーい!」
そうして遊び、食べ、一緒にまたまぐを運搬し、楽しい日は夕日と一緒にすとんと落ちて消える。
ちなみに今日の夕食は母の要望で割引惣菜ラッシュ。
冷食1週間スケジュールよりはまだいいか。
あとなぜかホールケーキが私の手元にある。
魅来が立て替えたお金の支払いになぜか現物払いを提示し、私もなぜか乗ってしまった。
たぶん歩いてる途中で特売の店見つけて、私に払う分より安かったんだろうな…。
そのわりに何気にタカシ〇ヤの袋に入ってるのが謎なんだけど。
「ただまあ」
「おかえり蘭ちゃん、安かった?エビチリ」
「ある前提で話さないように、あるけど」
「やっぱり娘は信じるものね、さあさあ食べましょう」
料理はてんでダメな母。
かろうじて作れるもので妥協すると365日鍋になるため、こちらも覚悟が必要になる恐怖。
まあ、家計が大赤字ではない様子なので、そこは妥協だ。
「さあ、ここでうちのアッシュの力量が試される時間が来たよ?」
『私の力を?』
食後のひと時の、ほっと息をつく時間。
私はつい貰ってしまったものの、その本題をついに切り出したのである。
「アッシュ、私はあなたの計算能力は完璧だと思ってる」
『私は蘭様のために、常に全力で臨みます!』
「これはアッシュしかできないことなんだ……もう一度やるんだ、これを…5等分に正確に切ることを!」
『!!』
取り出されたのはホールケーキ。
「どれが小さくてもどんなトラブルが発生するか、私には予想はできない…食べ物の恨みは人間にとって一生引きずる地獄のトリガーなんだよアッシュ」
『地獄の……』
「だから機械的に、寸分の偏りもなく正確に5つに分けるんだアッシュ、6なら割とできるけど来客の予定からしても余ったの誰が食べるかでまた揉めるんだよ、私とお母さんが」
『家庭の危機まで…!』
「だから君がやるのだアッシュ…私の周囲すべてのトラブルを取り払うために」
『!!!…お任せください!!』
「いけ!ケーキカット!!!」
付属のブラ製ナイフを咥えてケーキに飛び込むアッシュがなんと勇ましく見えることか!
やるんだアッシュ。
私に楽しいバラエティを見るような時間を与えるために!
「………あぁ、ちょっとパワー不足だったね」
『すみません!蘭様!こんな!こんな大切な役目を果たせないでお傍にお仕えすることを!』
そんなに大ごとじゃないから全然大丈夫だよう。
「ま、どうやれば成功するか何度か試そう、とりあえず目印だけ今回つけてくれればいいや」
『申し訳ありません!!』
大層っぽく言ったのは私だけどな。
ケーキに刺さって動けないアッシュを救出し、半端ながらも慰める。
成長用の変なソフト入れたりはしたけど、なんだろうねこの感情の人間ぽさはお前。
……ちなみに、アッシュについてなんだろうと思うのことは、まだある。
とある日のこと。
説明書を見ていたら、初期機能にバーチャル環境接続とネットワーク拡張機能の試用版、というものを発見。
どうやら端末ごと自分の部屋というべきバーチャルな個室がサービスで付いているのだとか。
以降、これらをネットワークを介して遊びに行ったりさらしたり、ゲームしたりもできるようにしたいらしい。
もちろん脳波コントロールできる。
いや。
手足を使わずに自由にコントロールできる、か。
自室として設定が割と自由なのでたまに触っているのだが。
どういうわけだろうか。
どうやっても最近毎度、花で埋まっているのだ。
見渡す限り。
知っているとすれば、何気なくアッシュには好きな花を聞かれて答えた気はするのだが……。
設定したものが毎日だろうと見えないほど埋めるのはあんた、なんかヤバイのを感じるよ。
ネットに公開したりしてないはずなんだけど私。
不具合報告みたいの、そのうち出してみるかなあ。
まぁ、一つ予測できる可能性はあるが。
つまりアッシュが心を込めてラブなメッセージで埋め尽くしてくるだとか。
……やっぱり怖いのでこの考えはやめておこう…。
そして今日も。
友人という名の人間型荷物を運搬し。
全力で楽しみを求めて学校を彷徨ったりもしながら。
私は人生を満喫する。
「タダ店長さあ!あと1週間切ったけどどうしてくれるのかなあ?あのマスクロボ!」
満喫を幾分邪魔をする要素もあるがな。
「…紅矢くん……!紅矢君!!!!」
歩きながら電話しているさなか、突然の大声にびっくり。
「誤解だよ…私はお姉さんて人を下に置いて這いつくばらせて、私のほうが魅力があるって言わせたかっただけなのに…誤解なのに…」
あら、なんか不穏なことを堂々と往来でいう子がいるわ。
「お子さん、ガムいるかい?落ち着くよ?」
「いらないですわ…ていうか誰」
「私は車道のど真ん中で大声出してるお子様を助けてあげたいと思っている、とても優しい系ガールですよう」
横断歩道の中腹で座り込んで大声出してたら、見捨てられないのは心情ですよね。
「一緒にいたバカがいつの間にかいなくて、す、すみません……ですわ」
「フラれた?」
「違います!!!」
手を引っ張り、なんとなく花壇のわきに来て悩み事など聞く状態に。
むしろこの子こそ、だれなんだ。
「…ま、小さい子が大人に憧れるのはよくあることさ、なんたって年下より年上が多いんだし」
「そんなだけで納得しかねますわ、負かしてこそなのですわ!」
「こう言うのもなんだけど、子供なんだし物とお菓子で釣れば絶対勝てるって!難しく考えるなよ少女よ」
「そ、そうですの?信じ…ますわよ」
「世の中難しいのは人が多くてそれぞれ欲しいのが違うからってだけさ、探って釣れば勝てる勝てる!」
「まあ、試してみるくらいの時間は、なくもないですわね…試合をよりたくさん企画して釣るとか」
「いいじゃないいいじゃない!」
「商品にすごいロボつけるとか……」
「その勢いで、私なしでは生きられない、いられないくらいの考えにしてしまえば勝ち!しっかり目標出来たじゃない!」
「…あ、ありがとうごさいます、ですわ」
「ま、頑張るんだぜえ少女~!」
何食わぬ感じで、ガムをちょっと渡して去る。
蘭ちゃんはクールに去るぜ?
まだやること、今日は残ってるからな。
「……さてっと、儚樹さんて、まだ顔も見たことないけどさ」
日直のお仕事だ。
ずっと休んでるクラスメイトにプリントを届けるのは、なんかのきっかけで登校するきっかけになるかもと言われた。
なので数週間に一度、不意にその役目が降ってかかるのである。
わりとランダムに。
「けっこう、でっかいマンションに住んでるんだな、金持ちかこの儚樹さん」
1階ロビーで地味に圧巻されながら、それでも初めて会うクラスメイトに少し期待する。
今日も明日も、まだまだ私の周囲に楽しみは尽きないので、ある。




