第陸話 ③
「はあぁぁぁぁぁぁぁ…何だろうね、落ち着かない!」
公園の中にある橋で、蓮は柄にもなくため息と一緒に気を吐いた。
他人にむやみに当たらないだけ、まだマシだが、それも時間の問題かもしれない。
何とは言えない、心の中に、もやもやと燻ぶったものがある。
普段通りに周囲が接してくれる今を保ちたい時に自分が何をしているのか。
わかっていても、我慢ならない。
『自己嫌悪ですワね』
「うわ??!」
頭を掻きむしっている中、急な声に驚いて跳ねる。
見ると、見覚えがあるものが浮いている。
そう、儚樹さんところのガジェットだ。
今までも普通だったから、何となく突っ込めなかったが、いまさら起きる疑問が一つ。
常に独り歩きする個人もち通話メカって、どうなんだ。
普通なら、すでに疑問を抱かないわけがない。
「おまえも不思議な奴だよな、お前の主人は電話とかしないの」
『私は役割が多分、違うのですワ』
臆面も悪びれもなく、命令通りすればいい奴はいいよな。
「通話とネットと、ちょっと便利なこともできるガジェット…だよなあ」
『私の場合は違います、それも明確に』
「へえ、いいね、条件分岐で悩みとかないロボは……こっちは何ともなく、心のありどころで大変だよ」
『ワタクシだって、そうそう単純ではないのですワ、主人に愛されるために何をしたらいいか考えたり、悩みはありますもの』
「へぇ…あの変人ぽい人のねぇ」
何をロボとマジ語りしているのか。
蓮は……内心ちょっとあきれていた。
だが、話しやすいからなのか、少しでも吐き出せば落ち着く気がするからなのか。
自然と友人のように会話が進む。
多少主人に関して、言葉のズレがあるのは内緒だが。
『本来は内緒なのですが…』
「何よ」
『ワタクシ、AI設計は人格コピーによって構成していて元のプログラムなんてほとんど残っていないのですワ』
「……へ?」
何を言っているのか?
まさに今、いや、それ以前も、妙にパターンのような受け答えではないようには感じていたが。
『ほとんどが想の記憶と技術で掘り出した、とある誰かの記憶と人格のコピーで動いているのです』
「やばくないかそれ」
『ヤバヤバですワよ?どこまで追及されても、そのためにやったことは、決して言えないくらいには』
「えー…」
ちょっとした町中の会話で、闇なのか犯罪的なのか、とにかく何を知ってんだおれ。
蓮は、また別の何かに心をかき回されそうになる。
『死んだ人は生き返らない、それでも心が落ち着く何かのためにはどうしようもない…』
「あぁ」
『そのために全力で打ち込んだ結果、そういうのもあります、だから私はそのために頑張りますし、人のそこの気持ちだけは感じているつもりです』
「大人だし、俺みたいな感情は乗り越えてきた、と…会話の誘導上手いね、お前」
『いーえいえ、改良の成果ですワ、感情をぶつけられるのに慣れっこになってしまったせいでしょうけど』
「あの人も言わない大変ななんか、イロイロ持ってるってか」
『持ちすぎている気はします、私を得るためにやりすぎて、今役立っているかに関してワタクシ自身が不安を感じる程度には』
「お互いやり場に苦労してんなぁ」
『まっっっ…たくですワ』
思ったより意気投合してしまう。
人間相手には言えない、気軽さが手伝ったのか、別の重ならない何かで悩んでる者同士、共有できる何かを見たのかは、まったく定かではない。
が。
「でさ、そういうのが溜まった時、お前の場合は…なにかしてんの?」
思ったよりマジ質問をぶつける。
少し会話が止まったが、その空白に見合う答えは…。
『誰にぶつけても、思い切り一度に吐き出す、全力で!それが一番ですワ…想がワタクシを生み出したように、ネ』
「なるほど!!」
一度だけの全力タッグ。
お互い持ったモヤモヤ解消をパワフルに行う、その答えが誕生した瞬間だった。
「こんな…」
思わずそんな言葉が出た。
紅矢から。
『ここまで接点のない戦いが起きるものなのか』
紅蓮多も、いら立ちの感情を覗かせるかのような反応を見せる。
「さぁぁぁぁぁ!!!これは意外!!!!!圧倒的!!あまりに一方的!!!!」
「これはなんていうかぁ…塩試合☆彡ってゆ~かあ☆彡」
解説も困る。
二人ともどうしたらいいかに困る。
『悪夢、それは予告しておりましたワ、お二人とも』
そして、メタトロン型。
ホーが悠然と、余裕で話しかける。
そんな試合。
展開はまさに一方的だった。
メタトロンの。
「情け容赦なく、が、ここまで徹底されるとはなぁ…弱点として提示たのは俺だけど」
蓮すら若干引き気味だ。
内心はちょっと、すっとしているが、それでもやりすぎ感は多少あったりもする。
さて、ここでこのロボ対戦に関してだが。
これらには、いまだ、公式ルールがない。
そこは説明が過去にもあったかもしれない。
フィールドの概念と設定はすべてマイルールとローカルルールしかないことも、これは間接的に意味している。
言ってしまえば、ないのだ。
上空の、おもに「高さ」の制限が。
『まだまだまだまだまだまだのまだ!!!!』
空圧弾がホーから降り注ぐ!
宙に浮きイオンクラフトの浮力をファン等いくつかの機構で散らせているメタトロン。
その空気の流れを一部流用して打ち出す圧搾空気弾は、浮いている電力ある限り実質無限である。
特に背面翼ユニットでそれを独自に行っているメタトロンは、打ち出せる量も他とは比較にならない。
雨のように打ち出す大小の弾は敵を動くことすら難しくし。
さらに、相手の近接射程には全く寄る必要すらないのだ。
体育館のセンターサークル内、対等な殴り合いになるギミックも設置などはされない。
そう。
手出しする手段がない、紅矢紅蓮多にとって不公平この上ない戦場なのである。
唯一の救いは、時間制限がないこと。
ただ時間稼ぎで終わる試合にはならないこと。
いや、むしろそれこそが悪夢か。
「どうしたらいい!?」
『心配はない、紅矢!上空からの攻撃には限界がある!』
『冷静なことで』
「ま、相手が計算できるからには、な」
上空であることがミソだ。
『一定の角度からの攻撃であるなら、足にも体にも正確に死角を作ればエンドにはならない…終わりにはならない紅矢!!』
紅蓮多は飛行タイプが相手ということに対し、最初から警戒していた。
背面、脚部には被害がないよう、できる限り温存しながら上半身を盾にする。
指示がなくとも、これを初めからしていた。
動き回り、いわゆる上からの表面積が増えることは狙いどころを与えるだけ。
それを繰り返すことで、勝負が、すぐさまつかないように。
…ただし。
これは好転を生む策と連動してはいない。
相手に打撃を与える手段は、紅蓮多にもないのだ。
「まさに!!これは手も足も出ない!」
「卑怯な羽虫になんて負けないで、がんばって紅矢くーん☆彡」
『そういう偏った実況は素人のすることですワ!!マルドゥークを心地よくいたぶるのに水を差すことばかりしないでくださる?』
「なんかひどいこと言われましたけど~☆彡」
感情。
詳しく知る人間が見れば、おそらく結構な違和感を覚える、この感情。
『あの時の、羽をむしるようにして働いた乱暴狼藉!!今回泣かせるくらいでは、まだ忘れてやりませんかラ!』
『恨みを晴らすため、これをすべて計画したみたいな言いようではないか!』
『ある意味利用はしましたワ!同じように溜まりに溜まった気持ちというものは、ただの数列なあなたと違って理解できますものでネ!!』
『どれをとっても、私には測りかねる!だが真っ向から受け止めはしよう、勝つことで!!』
『ネジまき式の頭で私の気分を害することだけは、相変わらずお上手なことですワ!!』
「やれメタトロン!!」
『名前で呼べと!!』
瞬間。
推力の限りぶつける速度で全力降下し、わざわざ紅蓮多の眼前に降りるホー。
降りるまでの間も、降りてからさらにその反動で浮き上がるまで、弾幕は一切緩めない。
ずっと全力を崩さず、瞬間でホーが紅蓮多がつくっていた死角に攻撃を見舞う。
まさにこれが、蓮が予測し、指示した手。
紅蓮多はいつまでたってもプラズマガンの命中が上がらない。
射程外から徹底して、降りるのは一瞬で全域から一気に殺す。
背中にセンサー設定されていなければ一度で終わる。
されていたらチャンスを見て二度。
まさに紅蓮多用の、どうしようもなくなる手だ。
「守りに入ったらお前は八割がた負ける、言ったろ」
「…言われてた……気もする…ね…」
紅蓮多用の対策を踏まえたとはいえ、子供の知恵がここまで圧倒する。
メタトロンがそこまでに強いのか?
強いのだ。
初期型としてバトル用を想定していたか怪しいものながら、強烈に強い。
その強さは「時間制限ともう一つを合わせてメタトロン相手にしたらバカ」が定説なほど。
ただ、それのせいで戦闘評価としてのメタトロンの順位は低い。
それは。
またあとで。
「突っ込んできたと思ったら!!なぁんと!!なあぁぁぁぁんと!!!マルドゥークのヒットマークシグナルが残りひとつ!!」
「見た見たみんな今☆彡あいつ地面にぶつからなかったかしら☆彡」
一気に動いたことに、周囲もやっとご満悦。
ただし、紅蓮多は瞬時にかばっていた心臓、ハートシグナルか背中が残り一つであるることも確定。
後などもう、ない。
「どうするマルドゥーク!紅矢くん!相手が無傷でもう絶望を感じざるを得ない!!!」
「やはり暴力☆彡暴力がバトルを解決するっ☆彡」
着眼点は全く違うが、実況は実況。
「触れないと…最低でも触れないと…」
一方、その空気とは交われない紅矢の焦り。
「まぁ、お前対策だから悩んでくれないとな」
蓮、こちらも、それなりのご満悦。
「…本当にずっと見ててくれただけある…」
『やってくれるものだ、さすがと言うべきだな敵としての蓮は』
「だからって負けても仕方ないとは」
『そう、思ってはいけない、紅矢!』
紅蓮多にハッパをかけられる紅矢。
言われなくとも、あきらめは一切ない。
『そして、見ろ、紅矢』
「うん?」
『やつの安定性が、とうとう危うくなってきた』
やつ。
当然、敵のメタトロンだ。
「ブレてるってこと?」
『勝てそうと、思えてこないか?』
「勝つのは決まってるだろ紅蓮多」
「……そう、だったな!」
お互い、周囲と関係などなく激を飛ばし。
高めあう。
彼らは完全に、一体となった戦友だった。
二、三回ほどショートメッセージで示し合わせ、作戦のすべてが完了。
あとは相手を待つだけ。
「さぁぁぁぁぁ!!動きがまた止まった!!!マルドゥーク!何かする気だ!!」
『当ててみろ!最後はここだ!』
言い、紅蓮多が両手を下げた。
つまり、最後の急所を心臓のポイントだと挑発して見せたのである。
『ここにきて、まさか馬鹿にしてくるとワ!』
感情。
本来ないものがあることに、過剰にそれは揺さぶられる。
それが本当に正解でなくとも、やらざるを得ない環境が整う。
当然、さらなる弾が降り注ぐが。
「胴体にすら当たらないのか…」
『ああぁぁぁん!!モぅッ!!』
感情が逆なでされて命中しなくなっているのではない。
それもわずかな一因はあるだろうが。
「ふらっふらだよねえ☆彡疲れたのかしらね☆彡」
「疲れたといえば疲れましたね!!!!イオンクラフトユニットが、ですが!!!!」
「あの羽疲れるらしいよみんな☆彡」
「正確にはイオンクラフトの消費と性質です!!!!」
メタトロンのイオンクラフトは巨大で過大だ。
それを各所のファンと羽根内部にある攻撃用の圧搾弁などで逃がしつつ、方向を制御しつつ飛んでいるわけだが。
逐一それに左右過大な電力を与えつつ制御するのは、実はとても難しい。
攻撃用の圧搾空気弾を一気に大量に飛ばすのを同時にやりつつだとなおさら。
つまりは、メタトロンの飛行は何もなくても空中には静止がほぼできず、攻撃しながらだとさらに顕著になるのである。
このあきらかな「欠陥」は設計時から確認されており、要は狙い撃ちではなく散弾しかできないとされていた。
さらに、この小型ファンや圧搾弁に使われる一連の装置は、仕方ないが相当加熱する。
これら諸問題はアップデートにより徐々に解決し、のちに攻撃用装置は撤廃したマルコシアスのユニットに結実するが。
AIの根本を非合法にいじったホーはこの恩恵に容易にはあずかれない。
アップデート通知は受け取れるが、受け取り以外はダミー情報を返して手動のすり合わせを弄り回した想に託すのみ。
結果、ほとんどやってねえ。
ホーの経験と意地で、何とかできるところはやっているが…。
無理は来るのだ。
そして今、そのボロが隠せなくなっているわけである。
メタトロン相手にやってはいけないこと。
時間制限と、そして、あと一つは、全シグナル表示設定のうえどこにあたっても一撃死の仕様で試合をすること。
である。
羽根に搭載された空気弾では貫通能力もなく、増設武器があっても細かい狙い撃ちは難しく、継続的な飛行は無理があり、実は本体のパワーも低い。
ホーが撮影をやれる理由の一つであるカメラを追加搭載しているのも、追突などを避けるために周辺の把握を最優先でやるため。
それだけ飛行による衝突、故障を念頭に置かなくてはいけない初期課題があったことの証明に近い。
戦闘評価が低いはずである。
それでも、ホーは経験を生かして空中静止もある程度して撮影できるし、定点を狙った撮影ができる。
攻撃機能を封印すれば滞空時間も一試合分は維持できる…これはホーだからではないが。
「まぁ!!つまり!!ホーさん時間かけすぎたか頑張りすぎましたね!!!ということで!!!」
『身内っぽくなれなれしい解説でさらに落とすとか何様ですノ!!!!!!』
「すいませんね!!!!!ホーさん!!!」
『だから馴れ馴れしい!!!』
過去には息が合う解説を毎度していた二人も、立場が違うと衝突するらしい。
珍しい光景。
これも最初で最後となるのか否か。
『ま、でも…勝ちを少し勿体ぶっただけですワ』
とはいっても、だ。
調節に難が出ているのであって戦闘にダメージがあったのではない。
電池残量の限りはあるがメタトロン、ホーの優位は変わらず、紅蓮多に変わらず有効打の糸口などない。
与える必要もないのだ。
メタトロンは悠々と上空を旋回する。
上空をエリアいっぱいに使い、たまにフェイントで降下の仕草だけを行い、攻撃も断続的に。
だが当たらない。
紅蓮多も、躱す自信があるのだろう。
言い切った自分の最後のマーカーは隠さない。
メタトロン、ホーはそこが何より癪に障った。
臆しもしない、その姿に。
あきらめもしない姿に。
そして何より、過去に味合わせされた美的もくそもない屈辱を思い出させる姿のすべてに。
ー故。
「ホーさんこれはまさかぁぁぁ!!!!」
「見て見て☆彡さっきの浮いてるやつの真似☆彡って……?」
『…そうだよな』
視界から消えた瞬間、紅蓮多は確信した。
旋回していた上空から外れ、視界に滑り込むようにする動き。
降下していくその瞬間を、二人は確信していた。
「『…待っていた!!』」
わざわざ見せつけた心臓部のマーカーは嘘申告、または囮だと怪しむ。
しびれを切らせて降りてくるとしたら、隙と死角を探して狙う。
そして、なにより、絶対に。
感情に走るなら、物理的に自分の腕で止めを刺し、その気持ちを晴らさなくては気が済まない。
『掴んだワ!!その頭地べたにこすりつけてマーカー潰した後もしばらく足蹴に…ッ』
『すまないな、今私が勝ったところだ』
『なにを………ぶべらっ!?』
頭ではない。
つかんだのは余裕をもって差し込んだ紅蓮多の手のひら。
つまりは、掴まれたと言うべき状態だった。
それからは早かった。
そのスピードを利用されて振り子のような見事な投げ。
羽根に接触異常を起こさせて飛行能力の喪失。
からの、足で押さえつけ、探りながらイレイザーブレイドによるセンサー潰し作業。
攻めに転じてからの、実に十二秒。
紅蓮多は、お返しとばかりに全力でへし折り、見せつけ、決着を付けた。
「なんという!!!なんという一度のチャンスからの目をも離せぬスピード決着!クラッシュレッド・マルドゥークの勝利!!!!です!!!!」
『ほんっとにもおおおおお!!!!』
「ま、抑えてやらないとというほど意思の疎通はできてなかったってわかりやすいオチで、終わりだったな」
「でも、なんてか…すごかったよ二人は」
「くっそ皮肉くせぇなぁお前はいっつもさ」
「……ごめん」
しゅんとする紅矢。
勝者の割に、態度はまるで逆と言わざるを得ない。
「ま、でも」
「『やり切ったぶんで気分はだいぶ晴れたかな』」
『…てこと、デ』
うまい具合にホーも言葉を重ねつつ、相手側も勝ち負けは別に目標を達成。
わりと、すっきりできたようだった。
「俺らしくもなく、なんとなく年上相手にニヤニヤしてるようなお前みて、らしくねえとイラッとしてたんだよなぁ、まったくまぁ」
「…いやぁ、だって、お仕事クビになって落ち込んでるようだったから、なんか慰めてあげる人がいないといけないんだなと思ったし……」
「哀れみだけか、お前の脳内…」
それはそれで、相手がさらに悲しく見えてくる。
と、言うかだな、あっさりすごい内情拡散しているぞお前。
蓮としては、むしろたしなめようかと思いもしたが、長引かせる話ではない。
それゆえで、そのまま切ることにした。
なんとなく余計に安心も、した。
「ありがとうな、メタトロン」
『きっちんとホー様くらいで呼んで貰える事はしたと思いますけど、まあ、いいですワ』
自分にも利益があったから。
というのは、とりもあえず伏せておく。
何はなくとも自分の力の程度を一度は測ってみたいのは人情というもの。
それに日々いろいろとストレスも溜まる。
ホーにとっても、いい発散だったのは確かなのであった。
「て、あれ☆彡終わってるのかなもしかして☆彡」
自分に寄せられたレスを処理しているうち、大事なところを見逃していた系アイドル、ただいま復帰。
そこで。
「あらあら、よくお集まりですわねぇ私のために」
勘違い野郎、遅れて合流。
環腕凜乃が何を目的になのかやってきた。
「お前はなんでこんな時間の放課後に学校戻ってきたんだ環腕」
「…こんにちわ」
「こんにちはですわ、覇天椥くん」
いつもと違う。
こんな面と向かって、紅矢と受け答えができる環腕を誰も今まで見たことがない。
何が一体、おきているのか?
「ちょうど五時、わかってますわね」
「はぁい!!!凜乃お嬢様!!!」
謎のお兄さんが、ボタン一つで体育館の壇上の投影スクリーンを起動。
(あれ、五時でいいんですわよね最初に流れると電話で言ってたの)
(大丈夫ですあってます)
ちょっと小声でやり取りしながら、スクリーンにはBSのテレビ番組が流れ出している。
いいのだろうか、これは。
何かの前振りなのだとは思われるが…。
して、ほどなくその五時。
ニュースが当然のように流れ出す。
ー五時のニュースです。
通信大手OQQYCは本日、連日株価のストップ高を続けている小型機械のベンチャーMACROPS社と業務、および資本提携を行うと発表し、同時に日本のMACROPS社商品の専属契約を取り交わした環腕グループの新会社、環腕マイクロメガジェットと日本での業務を一部提携、最終的には統合を目指すと発表しました。
なお、新会社の社長は環腕凜乃氏が就任。
環腕グループの通信事業参入を初めて公にした発表でもあり、株価も明日から大きく反応していくものと思われます。
次のニュースです。
南米での…
「……いま…なん……」
聞きなれた名前をアナウンサーが読んでいたようないないような。
蓮も紅矢も、いつの間にか来たくせに玩具屋から帰ってからいろんなものの価格調査に集中してしゃべることすらなかった明日雄も、聞き違いに違いないと、一様に思った。
「はいはい☆彡聞こえたかなボーイズアンガール?☆彡実は本日、私新しくスポンサーがついたんですよぅ☆彡拍手拍手~☆彡」
お前それの関係者なのかよ!?
「て、ことで☆彡前振り長くなったけどスポンサーとしていろいろ使ってくれる社長さんの環腕凜乃ちゃんで~いっす☆彡また拍手~☆彡」
「明日から就任の挨拶だなんだとするらしくて、ちょっと会えなくなるけど、応援してねみなさん」
緊張してたからか。
今も残る環腕凜乃のこの違和感は。
と、言うより、どこまでがこれに繋がる仕込みだったんだと。
そういえば、ホーが驚いてないわこれ。
「CMキャラなんかで私でるっぼいから期待してねみんな~☆彡」
まぁ、そっちはともかく。
クラスメイトがこの日、通信インフラの一端を担う資本金数億の会社の社長になった。
…………らしい。




