第陸話 ②
予想外の一言に、紅矢も思考が止まる。
「あれ、蓮いつのまに買ったんだっけ」
「買ってねえよ」
「あれ、体が縮むから紅蓮多とは戦えるんだっけ蓮」
「俺が人間じゃない何かになってるなぁ、それ」
「あれ、生身で戦うの?なんかそれ用の武器ある?」
「いやだから、お前はどんどん曲がっていく予想図を修正しろ」
「でも…」
「用意したから、体育館こい」
通話が切れる。
『どういうことだろうか紅矢』
「わかんないけど、大丈夫だと思う」
『蓮だからな』
「蓮だしね」
二人でしか通じそうにない納得を確認し、指定された通りに向かう。
「さぁぁぁぁ!!!!!やってきた!!!ディフェンディングチャンピオンがまさに、今!!!!!」
あ、聞いたことある。
……ていうか、聞きなれすぎている。
「待ちかまえられてたわ」
体育館の中央にいた蓮が、呆れたようにつぶやいた。
意図的に呼んだわけでないのは、そりゃ紅矢も承知だ。
そしてさらに今日は。
「紅矢君見てるう?負けたら私の部屋に一泊だからねぇん!」
「余計なこと言うな!」
玻璃もいる。
「さて私も準備、っと…あ、これは違う」
取り出したのは狙撃用なのかと突っ込みが入るような仰々しい装着型暗視スコープ。
…なんでそんなものを。
変わって取り出したのは、長方形の箱、グローブ、何やら某スカウターっぽい装着ディスプレイ。
箱は開くと、中に逆さにした三角錐のようなものが入っており、展開した外側は液晶が取り付けられているっぽい。
「装着おっけい。今回の定点カメラはここ、あのガジェットの設置した置きカメラは私見えないところに配慮してくれてるのよね?話通り」
むしろいつの間に。
そして、それはそれとしても、玻璃は何をしているのだろう。
「スイッチオン、通信確認…ほい」
言葉の直後、置いた三角錐に浮かび上がるのは、アニメ風な少女。
三角錐の中できれいな立体として浮いている。
「はいほーい!今日は街に飛び出し出張版!玩具バトルの実況やってみた!急発進でみんなを置いてっちゃう~ゾ☆彡」
喋っているのは玻璃。
ただし。
合わせて、三角錐の少女も過剰なポーズできびきび動き、まるで彼女がしゃべっているように反応しだす。
「ということで!その他の声に惑わされずに私に集中してほしいな☆彡」
(それ私のことですよね…)
解説の大人が内心ちょっと悲しんだ。
だが、だからと引っ込むわけには、いくはずはない。
「それでは今日も、生粋純正系バーチャルアイドル、染井吉野ハナの応援よろしくと念を押しながら、くるっと回って~…センキュ☆彡」
それっぽいキメポーズで、映像の少女は何かの変身バンクアニメで見たような演出を決める。
なんだかんだ言って、根性はまだカメラに向かうプロ根性を失わない玻璃。
左手のオーバーアクションは映像の少女の動きそのまま。
右手は小さな台の上に置き、指で細かな操作っぽいことを。
おそらくは、足や向く角度などはそっちなのだろう。
「ということでぇ、今日はお若いお友達同士がガチ殴り?熱気を割り増しで、お届けしちゃうカモ☆彡早速の投げ銭は後でまとめて読み上げしまぁす☆彡」
軽快に番組進行をする玻璃、もとい今はハナ。
とは、いえ。
正体まるわかりの位置で実況するのは問題ないのか?
と、そう思わなくもないが……。
なるほど、いつもの解説のお兄さんはみんな避けて近寄らないから、横にいれば誰も間近で見て気づく人はいないのだ。
少女の浮かぶ装置自体は反射の映り込みがないよう数か所の遮蔽が。
そして、彼女自体は自分を気付いてほしいから自分が出ることは構わない。
細かく聞かれて生中継がバレなければいいのだ。
それも横がやかましいからこそ、確認するほど長く聞き取れやしない。
考えてやっているのなら、よくやってる。
「さて、そうぅぅぅれでは!!!!!気を取り直して!!!対戦者同士によるルール決定ののち、カウントダウン、そしてバトル!!!!!行われます!!!!果たして!事前にもどのようなバトルが行われるのか!!!」
「はいここで先に質問コーナー☆彡ってガジェットに関して全くみんな興味ないのね~☆彡」
それぞれ趣味だか遊びだか、わからない世界を並行しながら。
「最近見ててお前さ、脳死くらいの勢いでフルカウント多かったよなぁ、だから今日は、ちょっと早足にするか」
「…いや、だからさ…」
「なんだ紅矢」
「蓮が…自分で戦うの?」
怪獣プレイか何か?
「あ、気が付いてなかったのかお前は。相変わらず目が周りに向いてねえな」
言うと。
蓮は片手を持ち上げ、肘から上腕を水平に構える。
そこに、一つの影が姿を現し。
止まる。
「………!」
大理石のような、そして雲のようなその色、その繊細で雄大な姿。
「一度だけ、だ」
「『まさか君が!?』」
戦いをするときには常に居たのだ。
だから、気が付かなかった。
『そう、最初で最後』
「頼むぜ俺のメタトロン」
クラウディマーブル・メタトロン。
そう、過去に公園で一度、ルール無視ではやりあっても試合形式では相対したことのない、撮影担当のあいつである。
『本気でこのホーが戦う姿を味方サイドで見られる幸運、大事になさることですワ』
「どうなってるの…」
『これはまた、願ってもない相手が来てくれたものだ』
『こっちのお二人は、敵サイドならどれほどの悪運か、これから泣き出して理解することになるでしょうけど、ネ』
「言わせてやるよ、まぁ俺が勝たせてやるわけだが」
にやりと笑いながらにらみつける蓮。
たっぷりと、そして確実な自信が、その目からあふれていた。
「そぅぅぅぅれでは!7シグナルアウト!!フリースタイル!!フリーエントリー!バトゥル!!以降は双方合意と準備完了とみなします!アーユーレディ!?」
「なんか決まってるんだけど!?」
「でも出来るんだろ?」
「センサー優先度は入れてたね」
「クラッシュレッドマルドゥーク!ヴァーーーサス!クラウディマーブルメタトロン!」
「スリー!ツー!ワン!!レディ、ファイト☆彡」
「いくぞ紅矢!!」
「遠慮しないでね蓮!!」
試合、開始!!!




