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少年は恩人の巨乳お姉さんに会うためミニロボバトルに絶対負けられないのである?  作者: くるま


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第陸話 ①

 一人の少女が、誰にも触れあわないよう、ぽつんと立っていた。


 その子には見覚えがあった。

 俺が嫌いな髪形をしている、そんな子だ。


 その少し離れたところに、小さな子がいるのも見える。

 知っている子たちだった。

 また女の子が怒って、大声を出している。

 たぶん、男の子が何かくれると言ったのを照れていらないと言い出したのだと思う。



 いつものことだ。


 そしてまた、後で涙目になって、遠くに一人でいる子に何かをもらいに来る。


 いつものこと。


 その男の子は、断られたのを持って帰らず、だいたい離れたところにいるその少女に手渡して帰るから。

 病院内の温室は同じ年代の子がほとんどいないので、その少数の子たちの行動がただ繰り返され…。

 今日も同じことが案の定、繰り返されたに過ぎない。

 少女は、にこにこ笑って近寄った少年から、断られた何かをただ受け取る。


 特に言葉はなくても、いつものこと。



 そして去っていく。


 その少年はとても元気で、明るい。

 その表情が、なんとなく少女は苦手だったんだ。

 言わないが、伝わっていたと思う。


「あの子が、あなたの命を救ってくれたのよ?もっとちゃんと、お礼言わないと」


 少女の母親が言ったことはもっともだ。

 居眠り運転との接触事故で入院していた大声の少女と、遠くに行くその少女。

 それぞれ思うところがあるし、心の傷はある。

 でも、いつかこの笑顔に見合うお返しはしたい。

 二人ともそう思っては、いたはず。

 あっちの子は、ずっと素直になれず、それでも大好きを伝え続けているようだ。


 こっちの子は……。

 俺の嫌いな見た目をした、この子はいったい今何がしたいのだろう?


「ずっと、守ってあげられたらいいなって思っているんでしょう?」


 !!!







「夢……か……なんか、やな夢だったな……」


 蓮は、寝ながら涙目だったのに気が付いた。






 ここのところ。


「ねぇ、もういいでしょう?そこの銭湯いこうよ紅矢くぅん」

「何もしていないので…」

「お前は自分の学校に行け!!!」


 げし。


 容赦なく玻璃を蹴り飛ばす蓮。

 そう。

 最近、蓮が行動からも結構、さらに攻撃的なのである。

 元から辛辣な突込みは多いので、あまり気になっていなかったが…。


「だいたいなんで帰り時間に合わせて校庭に侵入してんだ!通報すんぞおばはん!」

「ちゅうがくせいですけど!」

「とにかく出てけ!!」


 元から絶つ風の姿勢はなかったはず。

 パッと見、何も変わらないようにも見えるが。


「じゃあ、また明日ねぇ紅矢くん」

「おいデブ塩まいとけ塩!!」

「どこに…」

「今日の対戦が……」


 アザゼルとの真剣勝負は今のところ、まだ達成されていないまま。

 戦闘バカ状態の紅矢の最大の注目点がそこにあるのが、さりげなく癒しにすらなりつつある。


「だったらあれだ、上級生に圧勝できるくらい成長できてるか試しに行くのが今日でいいだろ、ほら行くぞバトル脳」

『それはそれで、悪くないと私は思うぞ紅矢』

「なかなかいい時間になりそうだよね紅蓮多」

「……まじかー」


 迷いなく素直に乗ってきちゃったよ。

 蓮も、言った手前引けないが気乗りして言ったわけでもない。

 なぜなら居場所を知らないからだ。

 上級生なのは背が高く同学年なら顔くらいは知っている自信があるから雰囲気で呼んでいただけで、実のところクラスすら知らない。

 しかも名前も覚えてはいない。


 ひどい話である。


 ま、上級生なのは正解はしていたのであるが。

 なら、どう探すと見つかるものか。

 言い出しっぺの蓮は、内心かなり頭を抱えた。

 何をヒントに…。

 考える間にも、そっちのけで戦いができるとウズウズしている紅矢の視線を感じる。


 正直、うざい。

 とてつもなく今のこのタイミングはうざい。


 ヒントと言っても……。


「あ」

「どうしたの蓮」

「おもちゃの徒…」

「上級生さんがどうしたの」

「あいつの名前はとりあえず『おもちゃの徒』ではなかったはずだ」


 人間名におもちゃってなかなか付けませんね。ひらがなで。

 上級生の、メカにでっかく貼っていた広告のことである。

 おもちゃショップの徒。

 ヒントと言うより、よく立ち寄る場所そのものを堂々と書いてたわけで。

 

「いくぞ、多分その店行けば本人いるかヒントはあるだろ」


 今日はちょっと、いつもと違う移動。

 なにかあれば言ってきそうな環腕もいない。

 ちょっとづつ変わる気配の放課後が始まった。

 

 



「ここだな」

「初めて来た……気がする」

「多分中学だと学区違うっぽいくらいは、うちらの遊ぶようなエリアと離れてるもんなここは」


 目の前には、実に古めかしく、舞台セットの駄菓子屋かなとすら思わせる店構え。

 自動ドアでもない一部だけガラスな引き戸。

 ふと目に留まる戸の横の飾り棚っぽいスペースには、日光で色あせたうえ熱で変形したソフビが無残な老体をさらしている。

 人除けかな?これは。

 そんな、入る前から様々な難所を食らわされつつ、店内に抵抗感を感じつつ侵入する小学生三人組。


「「「こんにちわー」」」

「らっしゃ…い…」


 辛気臭っ!!

 入り口で待ってればよかったかな?


「あー、営業してませんでした?体調がいいときに出直したりできますけど、聞くことだけ聞けたら」


 買う気ある客じゃねえアピールになっている蓮。

 突っ込みに冴えがない。

 興味がないだけ、とも取れるが。


「へぇ、JSアンサンブルがフルセットで売ってるんだここ、ちょっとすごいな」

「デブ、長居する覚悟いらない」


 明日雄に対してはそれなりに切れ味あるが。


「す、すまないねぇ、ちょっと声出しにくくて……奥に難しいお客さん来ていて」


 ルーペを頭につけ、工具を手に、忙しそうにカウンターの中で作業をしている男性。

 間違いなくこいつが店長だ、噂の。


「店長さんですよね、ロボの話聞いてます」

「ロベルトだ」


 ………?

 どう見たって、五代前までアジア系人種の血しか入ってないぞ系の日本人顔ですけど?


「外人なんですか?」

「しっ!紅矢聞いちゃいけません!」


 何のコントか。


「んー、洗礼名かな…あぁ、ガジェットの話なら僕も後でしたいから、上がって仏壇のお菓子つまんでいいよ」


 洗礼言いながら間違いなく仏教徒の濃度100%な居間の話をしたな今!


「上級生の、ここのシール貼ったあの人も奥にいるんですか?」


 目的を一人だけ忘れず、的確な質問をかっちり行う明日雄。

 お前だけは常に冷静だ。


「なるほど勇我を探しているのか、今日は来る予定ないなおそらく」


 がっくり。

 どうしよう、この流れ。


「どうだい勇我の調子のほうは?僕のマシンを生かして楽しそうかい?」

「僕はとても楽しいです、戦わせてもらって」

「そうかそうか」


 意外に店長と紅矢は相性がいいらしい。

 ただ。


「じゃあ出よう、お世話になりました」

「あれ早い?!」

「おや、バトルは私も見てるからいろいろ話した…いやそれしてると怒られるから奥の人の注意をそらしてくれるとよかったんだけど、内緒の話…」


 小声の店長。

 怖いのかい、その人。


「それとこれ、頼んでおいていまだに名前すら覚えないっていうのが一番僕は悲しいのだよ、これはマスクロボじゃないんだよ?戦隊の名称を用いないことで特徴と独自性を併せ持つ、とても歴史的な超合金なんだって、君わかるかい?」

「わかります」


 ずいぶんマニア知識に興味持つじゃないか明日雄。

 足を引っ張る気ではなかろうな?


「じゃあ分かり合えたところで今日は失礼します!」


 そんな雰囲気を含んでか何なのか、蓮はより早く強引に、他二人を連れて立ち去った。

 直接な理由は、ある。

 奥に上がる入り口の前の靴に、女物が複数あったから、である。

 割と衝動的な、そんな理由。

 もちろん二人は知る由もない。

 それぞれ心残りな要因に、主に注意が向いているから当然と言えば当然である。

 だが、それから、どこに向かおうかとなった時。

 現状は、無常であった。


 当然、目標がないわけで。

 

 ひっかきまわして、そのままただ解散となってしまう。


「そのうち埋め合わせはするよ……」

「悪くはない日だったと思うよ?」

「見識は広がったよね、たぶん」

「いい友達だよなぁ、デブと馬鹿だけど」


 蓮は調子がいいのか悪いのか。


「んじゃ、またな」


 少しため息をついて別れる。

 なんというか、自己嫌悪でのため息であった。

 




 そんな別れをした、おおよそ一時間後。

 紅矢に電話が入る。


『蓮からの着信だが、紅矢、出られるか』

「取るよ」


 なんとなくでまた学校に戻ってきてしまった紅矢に、ちょうど入った連絡だった。


「紅矢か、これから勝負する相手見つけたぞ」

「すごいね!?探してくれていたの?」

「俺だよ、全力でも勝ち目がない圧勝してやるから覚悟しとけ」

「……………へ?」

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