表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/33

第肆話 ①

「凜乃、そろそろ出かけようか」


 はっと、環腕凜乃が目を向けると、紅矢が微笑んでいた。


「今日はイタリア料理でもどうだい」

「えっ!?誘ってくれてるの、紅矢…くん」


 いつもの反射ではなく、すらっと喜べる自分に違和感。


「結婚してまだそんなに経ってないのに、そんなに不思議かな」

「!!!!???…そんなことないわ、準備します!!今すぐ準備します!」


 そうか、私、結婚たんだ!

 幸せで顔が恐らくとんでもないことになっている凜乃は、幸福の絶頂で右も左もわからず大声の返事。

 かといって、興奮で動くこともできず、服をつかんでハアハアするばかり。


「凜乃…」

「は、はい!」


 紅矢が凜乃の肩をがっしりと掴む。

 こ、れ、は!

 まさか、まさか、あの恋人同士の…!


「お嬢様…」

「紅矢くん…」


「お嬢様、凜乃お嬢様、着きましたよ、お言いつけのマンション」



「……んん?」




「お嬢様、お眠りですか?ここ駐車禁止なので、ずっと居られないのですが…」

「…んぁ……紅矢……何言って……るの…」


 はっ!

 凜乃、お目覚め。


「で…出てけ!!今すぐ出てって!!出てけ出てけ出てけぇぇ!!!!」

「無理です凜乃お嬢様!出たら最後駐車違反です!」


 いつも通りな環腕凜乃に無事戻り。


「ここが例の女のハウスね」

『間違いありません凜乃様』


 手元のヘルメスに確認する凜乃。

 インターホンを紅矢の友達とごまかし入場した先は、というと。


(とうとう変なの来ちゃった…)


 家主、儚樹 想。


 その彼女として、それは想定する中では最悪の客の登場だった。

 さすがにイメージビデオっぽいのはまずかったか…。

 アクセス稼ぎには色気で釣るしかないと、年齢はちょっとアウトだが色々やらかして結果。

 こうなるのは流れとして当然とはいえ。


「お、お菓子お好きです?」

「ダイエットしてますので」

「お飲み物は何がよろしいでしょうか?」

「そこまで長くいませんので」


 取りつくしまがない。

 プレッシャーで小学生に完敗である。

 沈黙がちょっと続いた後は、もう一気に。


「警察だけは勘弁してくださいっ!!未成年画像を使ったのは魔がさしたんです!だから、どうか、警察だけはぁぁぁっ!」


 なにいってんだコイツ。

 犬の仰向けより容赦ない服従の意思だろうか。

 でも、下手に出てくれるなら尋ねることもハードルが下がる。

 そのままにしたほうがいいかも、と凜乃は考えた。


「紅矢くん、は、ここでいつも何をしているのかしら…」

「ええっ!その、その…犯罪はしていません!!」

「白状しないとなんかその、怖いわよ」

「本当なんです!信じてください!!明日雄くんにはかわいくてつい、抱き着かざるを得なかっただけで!!」

「あーふといのはどうでもいいですわ」


 ひどい。


 この後もいくつかの質問と脅しが飛び交う室内。

 涙すら枯れ果てるかという数の問答の末。


「ま、まあ、白ってことにしといてあげます」

「よかったぁ、私、生きていける…」


 性格なのか後ろ暗さがあるのか理解できない凜乃には、実質犯罪者っぽい裏でもあるのかと勘繰りたくなる怯えようだが、そこは深く聞かない。


「とにかく、私は何もしていないんです!信用の証や対価が必要というなら、できる限りで私は甘んじて受けます…」


 そっと居間の奥に行く想。

 がらっ。


「さあこい!!!」

「紅矢くんにそれやったら警察の前に東京湾に沈めてやりますわよ!!!!」


 もうやったんだよなあ。





 そのころの、紅矢たち三人組はというと。

 久々に環腕凜乃の呼び出しもなく、雨でもない天気でもあるという好条件に誘われ。

 サッカーで存分に体を動かしていた。

 部活の人たちに入れてもらい、人数が足りてないところに入ってパス練習や玉拾いなどなど。

 たまにはいいものだ。

 そこを。


「おい大丈夫か?なんだその姿?!」


 和やかさを破る声がする。


「おい体験入部!お前に用事みたいだぞ」

「え…」


 該当者は本日、紅矢と蓮のみ。

 慌てて駆けつける。

 そしてさらに驚く。


「この間の…」

「車にでもはねらてたっすか先輩の人」


 ボロボロのマントと、汚れたズボン。

 引き裂かれたような見た目がなかなか壮絶な、先日のバトルの上級生、参光勇我その人だった。


「び、病院とか必要な…?」

「いや、傷はない」

「でも見た目がすごいですよ」

「昨日の夜、予備のマントを手で裂いてダメージを作っただけだ、傷は本当にない」


 じゃあむしろ、なにやってんのお前。

 いわれると確かに、その中のおもちゃタダTシャツにまったく汚れがない。

 本当に汚れた衣装を演出用に作ったんですねパイセン。


『すまない、これには理由もあって…』


 懐からゲンブ、甲龍殻も飛び出す。

 こちらも無傷…。


「てっ、てて、手がない!」


 ではない。


「すまない、甲龍殻は武器がメンテ中なんでね」


 武器パーツが腕に見える部分丸ごとだったということか。

 そういえば対戦で腕にダメージが通ってないと紅蓮多が言っていた。

 そしてどこに仕舞ったのだと思うだけ武器があったのも、片腕自体を武器にしていたなら成程うなずける。

 終わった後のこんな時に、相手の謎が解けるとは。


「そんなことより、覇天椥紅矢…君は狙われている」

「「…は?」」


 割と周囲が一斉になんだその発言と小首をかしげる。


「俺をこんなにして敗北させたアイツが、君を狙っているのだ…それを知らせに来た…」


 自分でやったって言ったよね?

 じゃあ誰が来る予定なわけなんだ。

 全体的にみんな、意味がわからない。


「ご伝言、ご苦労様」


 ここにいる空気でない、そんな雰囲気の声がその時少し離れたところからした。

 サッカー部員たちを含め、まさに一斉に振り返った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ