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第参話 ①

「大がかりなことして、そんなに会いたくなった?」


 会っている状況の台詞ではないように感じたが、言い返す必要は特にない。


「うれしいなあ、お姉さん。確かに女冥利に尽きるというか」


 紅矢の手をぐいぐい握りながら、あのお姉さんが紅矢の頭をなでていた。


 また夢だ。


 だがそんなことには関わらず、うれしい。

 顔を寄せ、笑ってくれるその温かみが、何も考える必要がなくなるような満足感になる。


「…でも…」


 くるり。

 手を放し、お姉さんがふっと後ろを向いた。


「よわよわだと、会うのが恥ずかしくなって来ちゃったりするかなぁお姉さん」

「え、えっ」

「やっぱり自慢できる人と一緒がいいよね、お姉さんのタイプは理想も実力も高い人~」

「ぼ、ぼくは…?」

「好きだけど、どうかなあずっと一番かなあ?」


 少しの悲しみ。


「強い人が気になって、気にならなくなっちゃうかも?じゃあねえ~」

「!!!」


 ぴょんぴょん跳ねながら、遠ざかっていくお姉さん。

 行かないで、と思いながら。

 自分は動けない。

 それにお姉さん、そんなミニスカで飛び回ってその、その。


 見え……。




 ばっ!


「寝てたんだ…」


 不安で少し考え込むあまり、授業中に、うとうとしていたらしい。

 紅矢の不安がそのまま語られたような、そんな暗めの気分。

 不安のもとはと言えば、少し前にあった上級生からの呼び出し。


 これは怖い。


 時や場所、年代を問わず、上の立場の意味不明な行動というのは無意識の怯えを誘発するもの。

 体育館に、というのもそれ系の定番なので不安さはさらに倍。といったもんである。

 サッカーつながりの知り合いはそこそこいるものの、みんなで戦ってくれと言えるほど一蓮托生な親友かと言われれば…。

 どのみち遠慮が先に来る。

 紅矢はそんな人物らしい。


「一人でと言われなかったんなら、当然行くから気にすんな」


 蓮の無償の絡みは心強い。

 だが本当にそれでいいのか、紅矢はそこもちょっと悩むほどだった。

 そのまま思考の堂々巡りを続け。

 気付けばそのまま放課後。

 もう行く時間である。


-移動。


 足取りは重い。

 それは気遣ってくれる仲間の有無にかかわらず、どうしようもない。

 仕方がないのだ。


「本当にいる……」

「怯えんな怯えんな、紅蓮多よこせだの喧嘩しようだの切り出したら明日雄もガジェット越しで聞いて先生呼ぶから」


 さすがの連携。

 たしかに紅蓮多は電話としての機能もあるので、隠れて虐める的行動の抑止力にはなりえる。

 思うに、紅矢抜きでもやれることをやる計画の一端だったのだろう。


「来たか、早かったじゃあ、ねえの」

「は、あ、いえ…」

「早く来い」


 上級生の彼は、実に雰囲気が尖っていた。

 命令口調と言えばいいのか、言葉の切り方の粗さというか。


「で、ご用件はまだですか」


 蓮が臆面もなく食って掛かる。


「言われないとボンクラには通じないから困る」

「さっきから…」

「まあまあ」

「さっさと来い」


 ぼく関係ないのか?

 そう思うほどの火花の散らせ方に、逆にすこし落ち着きが出る紅矢。

 体育館の中、ど真ん中のいい位置に上級生は立ったままだ。

 腰にかかるくらいの短めのマントが少し大丈夫か感を抱かせるが、突っ込める空気でもない。

 ただ独特な趣味嗜好をお持ちなのはわかる。

 海賊とか好きでしょ、たぶん。


「じゃあ、ロボ出せよ」

「やっぱりカツアゲ!?」


 むしろその用語は今も変わらず通じるのですか?


「呼び出された要件、聞く前にそれもどうかと思いますよ」


 必要以上におびえる紅矢もよくはない。

 上級生相手でも全くぶれない蓮は逆にどうかと思うが。


「決まってんだろ」


 上級生がマントに隠した手から、取りだす。

 それは。


「あ、それって」

「俺のだ」


 ガジェット。


 紅蓮多やヘルメスたちと同じようで、ずいぶんと体形が違うガジェット。

 胴が大きく、腰くらいの位置から足が出ているようなその姿。

 重そうで強そう、そんな人間型ロボである。


『よろしく頼む』

「はい…というか、その」

「言いたいことがあるなら言え」

「その…」


 歯にものが詰まったような、ちょっと歯切れが悪い空気。

 紅矢だけでなく蓮も全く同じ反応。


「その、いきなり言うのも何なんですが、その」

「その盾は何かのポリシーかご自宅で…?」


 取り出されたそのロボ。

 買ったそのままとは、たぶん違うだろう点に二人とも興味が持ってかれっぱなしである。


「スポンサーだ」

「「すみません、わかんないですねえ」」


 盾に大きく書かれたそれ。



      おもちゃタダ



 いきなりそれを見せられて意味のすべてを理解できる子供は少なかろう。


「4丁目にある店だ、おもちゃの徒」

「あ、「の」がその小さいとこ書いてたんですね」

「店の親父さんが趣味で買ったが、使って戦う時間ないからと最強の客に貸し出す大会をやったのが昨日のことだ」

「…うちからかなり遠いところで全く知らなかったです…」

「つまり俺は学区内で一番強い、だからこいつが手元にある」


 まじで!


「戦えハタラキ、この俺と、最強の証明として」


 ばっとマントが翻る。


 そして飛び出すかのようにあらわれる中に見えるシャツ。

 それも、もちろん。


 特注の大きなロゴ入り。


 おもちゃのタダ、何のためにそんな執拗に名前を!?


「いや名前違って…」

「そしてお前のネット中継に乗っかった店の宣伝のため」

「変なアプローチ来ちゃったよ!これ!!!」


 相手の狙いが、とてつもなくしょうもないことに、二人は戦慄した。

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