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第弐話 ④

かくして。


「ぅあんたらぁ!!!何でそんな卑怯な手をさらっと使うようになってんの!」


 環腕凜乃の声が、今日も響く。

 ここ数日、挑むたびに負けるが続いて溜まったものもあるのだろう。


「よくわからん大型加速用パーツだの次々取り寄せてるやつに言われたくないが!」


 そんな凜乃に紅矢より早く、蓮が互角に言葉で返す。


「あと、なにその最近ふわふわ浮いてる飛行型!わたし知らないんだけど!」

「ああ、それは近くのお姉さんと知り合いになったら協力してくれるって言ってくれて」


 うっかりすらすら。

 明らかにちょっと、な発言が堂々紅矢からとびだす。

 反応はもちろん、そうなる反応であり。


「お姉さん!!!知らないうちにお姉さん!!どういう関係で、どのくらいあってるのか、じっくり私があったら聞かせてもらいますわ!!」

「探偵か!」

「愛…じゃない勝者の権利よ!」

「その権利、人権を明らかに踏みにじってるが!?」

「知ったことではないですわ!んなもん!」


 完全に理性が吹き飛んでいるような。


『こういうの放送に乗らないようにちゃんと分けてやってほしいですワ…手間ですワ』

「ボウフラみたいにしてるそっちのもうるっさいんですわ!なんでみんな私に隠れていろいろしますの!!」

『ボウフラなどとあまりにひどい!』


 先日初登場した、飛ぶアイツのことである。


『すみません、凜乃様の失礼は紅矢様がらみでは止められませんので私からの謝罪でどうにか』

「きっこえてますわよ!」

『もうしわけありません凜乃様』


 ヘルメスは戦闘と別の方向にずいぶん進化を見せている模様。

 メカなのに無駄に世渡り上手くなってそうである。


「て、か、なんですの放送って」

「あぁ、実は…」



-----------------------



「なるほど、それはなかなか豪快なお話だね」

「まえ、すごい金額言ってましたもんね想さん」


 公園騒動からちょっと後。

 儚樹想のお宅に3人がちょいちょいお邪魔するようになった。


「実際、普通に買っていくらなんだろうな」

「まあ~、それはそれでおいといて」


 だいたいを言うより自分の払った金の思い出を蒸し返すのがきつい。

 この話題は時期を問わず流したい想。


「すっかりおなじみになってるよね…」

「お菓子おいしいです」

「そっかそっか、明日雄くん正直ですもんね~」

「すっかり気に入られてる」


 平机の前でカップケーキなんぞを食べている明日雄に後ろから抱き着いて体重をあずけるようにしている想。

 前とはうってかわって幸福顔である。


「このふんわり暖かい体温とふんわりと柔らかさが病みつきになる実力あるよねえ」

「そういうののために来ている覚えは実際ないんですが…」


 蓮は呆れた顔で眺めるばかり。

 何度か来ているのは、主には害虫対策にどう訴えたらいいかの話の打ち合わせ名目なのだ。

 毎度出てくる手作りお菓子となぜか必ずある激甘ペットボトル目的では断じてない。


 はず。


「今は幸せだから、その作成は後でいいかも~」

「だめです」

「それもそうだし、紅矢くんのお姉さん探しも私が協力してもいいんでしょう?」

「してくれるんですか!」


 素直な紅矢。

 あまりいい顔をしない蓮をみると、裏があると思っているのだろう。


「いろいろ出来ることはあるよ~」

「ほほう」

「近くの無線環境を歩きながらジャックして怪しいの引っかかるまで識別情報を盗むとか」

「却下」

「市役所サーバー一度ダウンさせて疑似的につなげたデータバンク使ってこっちで独自に顔と戸籍情報マッチングさせてくとか」

「却下」

「偽の公衆LAN環境作って引っかかった端末にウィルスしかけてカメラ情報送信させて顔情報一覧を…」

「却下!てかノミのメンタルなのにどうして、思いつくことが軒並み犯罪行為なのあなたは!」


 ごもっとも。


「紅矢くんのこだわり見たら、早く解決してあげたくない?」

「そのために何に魂売ることになるのかも考えてほしい」

「と、いうより、出来るんですかそんな色々変なこと」

「やろうと思えばすぐだよ~」


 思ったより、ヤバいのに関わって取り込まれた?

 なんとなく焦りを覚える3人。


「でも、できるからって、すぐやっちゃいけないんだよ~」

「当たり前ですね…」

「せっかくの事務のパートなのに、領収書の処理面倒だからカメラに撮って即判別帳簿振り分け変換書き込みやる機能作ってやることなくしたら、月末以外週三日半日勤務でいいって減らされたりするんだよ、世の中」

「どっちが悪いのか子供にはわかりませんねそれ…」


 反応したのは紅矢だが、蓮も明日雄も突っ込みどころがもうわからない。


「なんでも思うままやったら損をしちゃうこともあるから、ゆっくりゆっくりなのさ~わたしは」

「出来れば生涯その爪は隠して頑張ってください」


 心からの応援である。


「でもね、情報取得で見つけるのが難しいのだったら」

「だったら?」

「発信して見つけてもらう手が一番早いわけじゃない」


「「「んん???」」」



「いや、だから、探してますとメッセージを受け取ってもらえば伝わるわけじゃない、変なこと言ったかな」



 唖然。


 一度も考えたことがない賢そうな手が来た。

 この頭に犯罪が詰まってるような大人から。

 みな茫然自失である。


「やっぱだめか~」


 ため息つきながら抱き着いている明日雄を無駄になでなでする想。

 抱き枕かぬいぐるみなのですか、それ。


「いや、むしろ、よすぎて混乱しました」

「アリな手だな」

「頭いいんですね」

「…」


 なんか褒められた?

 想、すこし有頂天。


「な、なら、やってみちゃおうか?」


 そして集まった当初の話と全く異なった構想会議。

 できるだけ無難に、苦痛でなく発信ができること。

 なおかつ、多くの人が素通りしない発信。


「…えっちなサイト作る?」

「あなたの意見はこれからすべて却下の方向ですんで」

「ひーどーいー」


 男しか来ないです。やっても。


 それから意見を出し合い、一致した結果は、というと…。



「紅蓮多!」

『どうした蓮』

「お前には今から世界デビューをしてもらう」

『すまない、意味が全く分からない』

「おめでとう!」

『わからない!』

「「おめでとう」」

『わからない!』

「おめでとう」(ただ釣られて拍手する想)

『わからない!』

『おめでとうですワ』(同じパターン)

『わからない!』

 すべてのチルドレンに。

『わからない!!!!!』



---------------------------------



「…なんで真面目な人に怒られそうなパクリネタ入れたの」

「たぶんなんとなく」


 いわゆるノリで。

 ともあれ、そういった経緯と理由で、活躍を映像にして紅矢を広く見てもらう企画が実はスタートしていたのである。


 すでに。


 バトルの活躍で面白いものを提供し、広い範囲に見てもらい、たまに人探しもアピール。

 その人の目に入れば大成功。

 情報提供者伝手で会えればそれも成功。

 着地点に対してけっこう消極的にも思えるものながら、まあまあ苦痛のない堅実な策とは言えるだろう。

 小学生が導き出したとしては。


「……つまり……」


 肩を震わせる環腕凜乃。


「わたくしとの勝負をダシに他のオンナのことばっか考えてましたのね!!!!」

「なんだろう、その泥棒猫を罵る的な子供っぽくない怒り」


 蓮の発想も小学生ではないかな。

 明日雄は心の中でひそかに突っ込みを入れた。

 紅矢は…言わずもがな、用語に理解すらできていない。


「あぁもう!出てくる話の軒並み腹立たしいけど!とにかく!」

「まだ何か…」

「その無理やり掴んで認識してないパーツ挿してタコ殴りってのやめなさいよ!!そのひどい手どこで覚えてきたの!」

「そこのお姉さんのガジェットとの対戦で…」

「またか!またお姉さんなのか!そんなに年上がいいのか腐れ外道ども!泣くわよここで!!」

「「「勘弁してください」」」


 そんなこんなで、編集前の映像は溜まっていく。

 録画担当はお姉さんのガジェット。

 ホーと呼ばれていた製品名、クラウディマーブル・メタトロンである。

 飛行型として安全のため、高速移動にも対応した、より広範囲の視野が必須であり、いいカメラがオプションに増設されているのだとか。

 それを撮影用に使うのを提案したのも許可したのも想。

 実際の所有者は妹、夢で、提案に応じたのは妹なのだが、それは今のところ内緒のまま。

 こんな仕組みで、いくつかの映像が作られ公開されて行っていた。


 そんな週明けのこと。


「ここにハタラキっていうの、居るか?」

「覇天椥かな?いますよ」

「そんな名前だったか、ちょっと呼んでくれよ」


 少し目つきの悪い、いかにも上級生という風体の男子。

 呼ばれた紅矢は全く覚えがない。


「お前か」

「そうですけど、どうしました」

「放課後、お前、体育館に来い、わかったな」


 とてつもなくぶっきらぼうに、不安が投げつけられた。


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