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8.魔王のあれ、玉砕する

 対ドラゴンの準備が進んでいたらしいが、結局のところドラゴンは現れなかった。

 なぜなら俺がぶつかって落としたから。

 人知れず町を救ってしまった俺だが、そんな事実を広げるつもりはない。

 だが、ドラゴンにぶつかって倒してしまったなどと言えばリンナが怯えてしまうかもしれない。

 一応オブラートに包んで、この付近にやってきているドラゴンは俺が倒しておいたとリンナには伝えた。

 俺が魔王を倒し、ドラゴンを倒したという事実をリンナが知ってくれていればいい。

 ――そして、俺は今リンナの家にいる。

 さすがにゴーレムの俺が町中をふよふよ移動するのはやばいのでは――そう思っていたが、最近は《魔物使い》とかいう中々アグレッシブな職業をしている者がいるらしい。

 普通に町中でも魔物を見かけた。

 まあ、レベル自体は10にも満たないようなペットなやつらばかりだったが。

 だから俺も、普通に町中を移動してきたわけだ。

 さすがに石像のようなゴーレムは目立ったが。

 俺も魔王軍に所属してから何年か経過している。

 人々がどのような生活をしているかもよく知らない――というか、町や地域によってまるで変わってくるので常識とかはない。

 ここらは相当レベルが低い場所なので全体的に平和だった。

 気がかりな事といえば、ドラゴンが四匹もこんなところを飛行していた事だが……まあ気にしても仕方ない。

 また来たらまた轢いてやるまでよ。


「何もないところですけど……」

「いやいや、とてもいい家だと思うよ」


 家の大きさも謙虚だが中もそこまで着飾っていない、とてもシンプルな家だった。


(魔王城みたいに毒々しい感じもないところがいいね)

「ジェイルさんは何か食べたり飲んだりとかはするんですか?」

「岩を食べるよ」

「岩――え、岩ですか!? さ、さすがに家には置いてないです……っ」

「まあ岩なんてその辺にあるから平気だよ」


 そう、ゴーレムの主食は岩。

 俺もゴーレムになってしまったから仕方ない。

 岩の盛り合わせに砂のドレッシング。

 そして泥ジュースが主な俺の食事だ。

 最高級の燃費のよさである。


「薬草は渡せたのかい?」

「あ、はいっ。おかげさまで……本当にありがとうございます」


 リンナが先ほどまでいた場所は、ちょうど孤児院の近くだった。

 子供達をどう逃がすかを考えているところだったという。

 リンナから孤児院に説明をして、結局皆でそこに留まる事になった。

 無理に慌てて何かをする必要はないからね。

 他の人達の面倒までは見切れないけども。

 俺の目的は一つだ。

 改めて、リンナの装備になりにきた事を伝えるためだ。


「それで、リンナ。魔王を倒す前に言った事を覚えている?」

「魔王を倒す前……? あっ」


 リンナも思い出したようだ。

 魔王を倒したら装備してほしいと俺は伝えている。


「俺を装備してくれ!」


 再び、俺がそう言った。

 魔王を倒し、ドラゴンも倒した。

 この俺を装備しない理由などもう存在しないはずだ。


「いや……その、嫌です」

「うんうん、そうだよね。ん?」

「ご、ごめんなさい、嫌です」

「そんなー」


 ドォン――俺はその場で砕け散った。

 またしても慌てふためくリンナ。

 俺はこうして、二度目の死を迎えた。


 ***


「だ、大丈夫ですか?」

「心配ないよ。砕けたくらいで死んでいたらゴーレムなんてやっていられないからね」


 けれど、俺の見た目はすごい事になっていた。

 馬と鳥の頭がそれぞれ同じ身体についている。

 身体の横幅も二倍――二頭のキメラのような石像がそこにいた。

 仕方ない、ショッキングな事があると俺の身体の操作もおぼつかないのだ。

 俺を二度も粉砕するとは、可愛い顔して罪深い女!


「それで、俺を装備できない理由とは?」

「きっとジェイルさんと一緒にいたら、わたしも安心していられると思うんです。でも……それだとわたしはずっと弱いままなんです」


 リンナはそう告げた。

 冒険者になったリンナはレベル3――確かに、俺が戦えばリンナは安全だが強くなる事はない。

 なぜなら戦う経験を積むこともできないからだ。

 まあ確かに、ここで装備しますとかさらっと言われると俺の求める女性像とは少し違ったものになるかもしれない。

 ちなみにここで言う女性像とはゴーレム的な意味じゃないよ。

 うーん、ジレンマ。


「それなら仕方ないか」

「ごめんなさい……」

「なぁに、謝る事ではないよ。それじゃあ近くで成長の記録を撮影――ではなく、見ててもいい?」

「え? 見る、ですか?」

「そうそう、俺も今行く宛がないからさ」

「見ているだけでいいなら……でも、何もないですよ?」

「いいのいいの」

「そ、それならいいですけど」

「やったぜ」


 見ているだけで何もない?

 はははっ、見ているだけで意味があるんじゃないか。

 装備にはまだなれなかったが、俺はリンナを近くで見守る権利を手に入れた。

 そしてあわよくば装備してもらう。

 第二作戦、『とりあえず仲良くなってから』の開始だ。



いまのところこの勢いのまま数万文字くらいでさくっとを目指しています。

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