7.魔王のあれ、帰る途中で町を救う
ビュウウン。
空を駆ける俺は急ぎリンナの下へと戻っていた。
魔王城が崩壊したとはいえ、まだ途中の施設は健在だった。
もしもあそこで魔王城に向かっている勇者がいたらすまない。
俺が倒したからもうお前達にはやる事はない。
今頃魔王――シュナイザーは焼きそばパンを買いに行っているだろう。
俺がどこにいるかもしらないだろうが。
「でも、リンナは俺が魔王を倒したって言って信じてくれるだろうか……」
いや、純粋なリンナはきっと信じてくれる。
出会ったばかりだけど、リンナは俺の言った事でも素直に信じてくれていた。
だから普通に魔王を倒した、と言えば通じると思う。
どのみち何日もしないうちに判明する事実だしね。
「グオオオオオ――オガァ!?」
「やべ、何かぶつかった」
ちらりと振り返ると、地上へと落下していくドラゴンがいた。
かなりの巨体だったが、いい具合に胸元へクリーンヒットさせてしまったかもしれない。
ズゥン――と大きな音を立てて、土煙が発生する。
こんなところでもドラゴンはいるんだな。
すまん、轢いてしまった。
「あれ、でもドラゴンって大体レベル100超えるよな……」
アナライズ――落下したドラゴンのレベルを確認する。
「レベル140……おいおい、ちゃんとドラゴンもいるじゃないか。あれに攻撃されたらあそこの魔王軍も倒されてるかもしれないな」
まあ、ドラゴンはそこら中を飛び回るような奴だし、住処も一概には言えないしね。
ドラゴンに襲われたら交通事故のようなものだ。
そしておれにぶつかったのも交通事故のようなものだ、許せ。
さて、急いで戻らないと。
俺は再び加速する。
「グラァアア――バフッ!?」
「あ、またか」
脇見して移動してはいけないな……。
しっかり前を見て飛ぼう。
今度は安全な飛行をしよう。
そう決意した俺は、無事に二体ほど追加でドラゴンを落とした程度で済んだ。
……というかやけにドラゴンが多いな。
しばらくすると、俺はリンナを送り届けた町までやってきていた。
そのまま地上へと着地する。
「ココールか」
町の看板を確認すると、そう書いてあった。
俺がリンナを近くまで届けた町の名だ。
……とはいえ、ゴーレムの俺がいきなり町中に入って飛びまわっていたらさすがに騒ぎになってしまうかもしれない。
何せ、リンナもあれだけ驚いていたわけだし。
だが、俺が町につくと少しだけ騒がしかった。
空から様子を確認する。
武装をした者達が少し慌ただしく、動き回っていた。
「……何かあったのか?」
さっき近づいた時は特に問題はなかったと思ったが。
俺は町中からリンナを探す。
リンナの魔力は大体覚えている。
物凄く弱々しくて可愛らしい感じの魔力だ。
「……やべっ、結構町中にいっぱいある」
忘れていた。
ここの地域は全体的にレベルが低いんだった。
仕方ない、上から地道に探すとしよう。
ある程度近づけば分かるだろうしね。
「どこにいるかなー」
町はそれなりの広さがあった。
小さな牧場を営むところから、温泉のようなところまで――温泉……!?
「露天風呂があるじゃない」
俺は紳士だが、リンナを探す途中で見てしまったのなら仕方のない事だ。
ちらりと温泉を確認するが、そこに人はいなかった。
「そういえば騒がしかったもんな……。風呂入っている場合じゃないか」
俺は再びリンナの捜索を開始する。
しばらくの間飛行していると、小さな家の傍に一人の少女を発見する。
そわそわとして落ち着かない様子の少女――リンナだ。
「いやぁ、遠くから見ても可愛い」
ヒュンッと俺は地面に着地する。
「リンナ」
「わっ!? だ、誰――って、ジェイルさんじゃないですかっ。驚かさないでくださいよぅ」
「いやいや、すまないね。ちょっと魔王を倒しにいったところだったんで」
「え!? もう魔王を倒したんですか!?」
「うん、まあ俺にかかれば楽勝さ」
「ほ、本当なんですか?」
「いずれ分かると思うよ」
「す、すごいです……っ!」
天使かな?
驚く姿も可愛い。
実際には戦ってすらいないが、リンナは信じてくれた様子だった。
「でも魔王ってすぐ傍にいたんですね……全然気付かなかったです」
「まあね」
実際には結構遠くなのだが、俺の移動速度なら割とすぐ傍だ。
そこで本題に入ろうと思ったが、俺は先に気になる事を尋ねた。
「ところで、さっきから町中が騒がしいみたいだね」
「あ、そう、なんです。実はさっきギルドに連絡があったらしくて……」
「ほう、どんな?」
「じ、実は……ここから少し離れたところにドラゴンが来ているらしくて……」
「なに、ドラゴンだと……?」
こんなレベルの低いところにドラゴンがきたら大変だ。
ドラゴンのレベルは最低でも100――ちらりとこの町中を見渡す限り、レベルは高くて30程度だった。
冒険者の町としては《始まりの町》と言ってもいいところだろう。
ドラゴンのレベルによっては俺でも苦戦するかもしれない。
「何匹くらい?」
「分からないです。でも、噂によると四匹はいるとか……」
「四匹か――ん? 四匹?」
「は、はい」
俺はここまでの道中を思い出す。
この町に来るまでに轢いたドラゴンの数、四匹。
確認されているとかいうドラゴンの数、四匹。
――完全に一致!
「……たぶんだけど、そのドラゴンはもう来ないかもしれないな」
「え?」
俺の言葉に、リンナはきょとんとした表情をしていた。
どうやら俺は町に戻る途中で、町の危機を救っていたらしい。