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6.魔王の隣のあれ、尊敬される

 俺の放った魔法――メテオの衝撃によって魔王城は崩壊した。

 実際には、崩壊しかけたのを俺が支えている状態だ。

 砕け散った柱や、天井が崩れ落ちてきてはいるが、かろうじてその原形を保っている。

 俺の前には、腰を抜かしたように倒れているシュナイザーがいた。


「な、ななな!?」


 驚き過ぎて顎が外れるくらい――というか外れている。

 目玉も飛び出しているほどに驚いて、俺の事を見ていた。

 俺も思わず驚く。


「すげえ、目玉飛び出てる! どうやったんだ?」

「そ、そんな事どうでもいい! き、貴様は何者だ!? 何をした!?」


 あっ、元に戻った。

 俺としては結構気になるところなんだが。

 怯えた様子で俺の事を指差している。

 念のため確認しておいて良かった。

 やはり、こいつは魔王のレベルに値していない。


「何者も何も、名乗りならもう終わってるじゃないか。やった事は少し離れたところに魔法を打っただけだ」

「貴様のようなゴーレムがいるか! 常識で考えろ!」

「ゴーレムになるような奴にそれを言うのか」


 常識と言われても困ってしまう。


「貴様のような奴が……なぜ魔王ですらないのだ!? そ、そんなレベルが世界の魔王の常識だというのか……!?」

「まあこれくらいは普通かもしれないなぁ」


 実際のところ、俺も他の魔王とはそんなに接点はないので知らない。

 まあ、俺の知っている魔王で言えばルナールと、その先代くらいなものだ。

 一応、ルナールのところに別の魔王が来ているところは見た事はあるが。


「さて、これでもまだ戦うと?」

「……っ」


 聞かなくても分かる。

 シュナイザーにはもう戦意はない。

 今の魔法が直撃していれば、魔王城ごとシュナイザーは吹き飛んでいただろう。

 まあ、それをすると俺も吹き飛ぶんだけど、ゴーレムなのでセーフ。

 広範囲魔法って使いにくいのよね。


「……オレの負けだ。いや、負けです」


 そもそも戦ってすらいなのだが。

 まあ負けを認めるというのならそれでいいだろう。

 シュナイザーも魔王を名乗っていた男だ。

 本当に負けを認めるにもそれなりに勇気のいる事だろう。


「今日からは、あなたが魔王でいいです……」


 シュナイザーがそんな事を口走った。


「あ?」

「えっ、ち、違うんすか?」


 ビクッとシュナイザーが反応する。

 俺は別に魔王になりたくてここに来たわけではない。

 魔王を倒したという証明が必要なだけだ。


「俺に負けたという事実を広めてくれればそれでいいよ」

「なっ、そ、それだけのためにここに……? そういえば、あの子の装備になりたいとか……」

「俺には重要な事だ」


 『ジェイルさんかっこいい! 装備して!』作戦なのだから。

 それにこんな弱い奴が魔王できる場所なんて支配してどうなるというのか。


「それだけの力を持ちながら魔王の座にも興味がないなんて……か、かっけえ」

「あん」


 シュナイザーがバッと立ち上がり、オレの方に歩み寄る。


「尊敬します! 兄貴!」

「誰が兄貴だ。男に言われても嬉しくないわ」

「す、すんません! で、でもオレマジで今ので目が覚めました!」


 無駄に羨望の眼差しを向けられる。

 いや本当、そういうのはこれからリンナに向けられるものであって、ここで得られても嬉しさなんて欠片もないのだが。

 なぜに倒しにきた魔王に尊敬されなければならないのか。


「ジェイルの兄貴! オレを弟子にしてくれっ!」

「弟子だと? そんなもの俺は取っていない」

「お願いします! オレ、あんたみたいな人にあったのは初めてだ!」

「そもそも人ではないのだが?」


 思ったより面倒くさい奴だった。

 俺に負けたという事実だけ広めてくれればいいのだが。


「オレ……魔王みたいな存在に憧れてて、ようやくここで魔王になれて浮かれてたっす」

「ほう」

「けど、オレの実力が足りない事は分かりました……。だから、一からやり直そうと思って……」

「そうか。分かったからまずはオレに負けたという事実を広めてくれ」

「わ、分かりました! すぐに伝令を飛ばします!」


 シュナイザーはそう言うと、急いで謁見の間から出て行った。

 外には何が起こったのか分かっていない部下達がいたが、シュナイザーが命令するとその通りに動いていた。

 一応、シュナイザーが魔王を名乗るくらいだからその部下はそれよりも弱いのだろう。


「これで伝わるはずです!」

「おう」

「そ、それで兄貴。次は何を……」

「じゃあ焼きそばパン買ってきて」

「え?」

「焼きそばパン知らない?」

「いや、知ってます! 買ってくればいいんすね!?」


 シュナイザーは慌てて飛び出して行った。

 さて、これで面倒な奴はいなくなったな。

 ゴーレムが焼きそばパンを食べるわけがあるまい。

 そんな事にも気付けない奴を弟子にするわけもない。


「じゃ、帰るか」


 俺はそのまま魔王城を後にする。

 俺がいなくなると同時に、魔王城はガラガラと本当に崩れ去った。

 さあ、リンナのところに戻って装備してもらいにいこう。

 空を飛ぶ俺は、少しだけ浮かれた気分になっていた。

 これできっと、リンナの装備になる事ができるのだから。

 ――シュナイザー率いる魔王軍は、こうして壊滅した。

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