5.魔王の隣のあれ、同情する
ここはシュナイザーという魔王が君臨する魔王城。
すでに城内に侵入者が現れたと騒ぎ始めているようだが、俺には関係のない事だ。
魔王の謁見の間にて、俺はそのシュナイザーと対峙するところまで来ているのだから。
そのシュナイザーも俺との最初のコンタクトはなかったかのように、わざわざ後ろを振り返った状態から名乗りを上げようとしていた。
後ろから攻撃してもよかったが、まあこれくらいの事は許容しよう。
魔王にも色々あるからね。
そんな事を考えていると、シュナイザーがマントを翻しながら振り返る。
魔王との謁見――テイク2だ。
「ふはははっ! 我が名はシュナイザー! よくぞここまで来たな、勇者よ――勇者なのか?」
「そんなわけあるかい!」
「では何なのだ」
「ゴーレムで」
「ゴーレムだったのか」
先に確認してくれよ、というか見た目で分かってくれ。
……と思ったが俺も魔王城に勝手に乗り込んだ身だ。
そんな傲慢な要求をするのも忍びない――いやそうでもないか。
とりあえず気を取り直して、魔王との謁見――テイク3。
「ふはははっ! 我が名はシュナイザー! よくぞここまで来たな、ゴーレムよ!」
「俺はかつて土属性を極めた魔導師だったが極めた結果ゴーレムとなり、つい最近まで魔王の左右にいる回復させたり攻撃してきたりする結構面倒な役柄だったが、今は訳あってある子の装備になりたいゴーレム――ジェイルだ!」
「な、長い……!」
「面倒だから俺と言う存在がどういう存在かを全部伝えたつもりだけど」
これよりも簡単に説明すると、「俺はゴーレムだ」で終わる。
うん、これでも十分分かりやすかったね。
「いやもう突っ込みどころしかないぞ! なんで極めたらゴーレムになるんだ!?」
「まあ極めたらなれるんだよ。気にするな」
「魔王の隣にいたっていうのは……?」
「そのままの意味だけど」
「なるほど……貴様は別の魔王からの刺客というわけか。合点がいった――オレという存在もついにそこまできたか」
「いや違うけど」
「違うのか……」
少ししゅんとした表情をするシュナイダー。
有名になれたとぬか喜びさせてしまったか。
まあどうせ倒す相手だから気にしなくていいか。
「さあ、名乗りは終わった。覚悟はできたか?」
「ふっ、随分とせっかちだな。だが、貴様は分かっているのか? オレも魔王を名乗る男――貴様のようなゴーレムなど足元にも及ばないという事を!」
「大層な自信だな」
「むしろゴーレム風情がなぜそこまで強気なのか聞きたい」
しかし仮にも魔王を名乗る男。
レベルで言えば500くらいはあってもおかしくはないかもしれないな。
念のため確認しておくか――アナライズ。
「レベル……83……だと?」
レベル83――それは、ルナールのペットとして買っているルンボとかいう魔犬のレベルが160だからその半分――つまり犬以下の男という事だ。
そして、俺の十分の一のレベルしかない。
この程度でも魔王になれるのか……。
83だから闇の深い男と覚えておいてやろう。
「どうした、今更怖気づいたのか?」
「ああ、色んな意味で……」
「ふはははっ、今なら土下座をすれば許してやらんでもない。その姿でできるのならなぁ!」
物凄くノリノリなところ悪いけれど、俺の方が圧倒的に強い。
むしろ罪悪感すら少し覚えてしまう。
レベル83だとうちの魔王軍だと支部長とかにもなれないくらいだ。
それでも、そんなレベルでも魔王をやっているのだから。
「一応確認するが、本当に戦うのか?」
「貴様がやってきておいてなんだそれは。戦うに決まっているだろうが!」
「そうか……」
なるほど、相手の力量も計れないレベルの魔王らしい。
おそらく、他の魔王についてもあまり知らない新参中の新参といったところか。
だが、やる気があるのなら仕方ない。
一応、そのやる気が本物かどうかだけは確認しておくか。
「では始めるぞ!」
「ちょっと待て」
「なに、今度は貴様が待てというのか。まあ、オレも待ってもらったから待つが……なんだ?」
「一発だけ魔法打ってもいい?」
「ふはははっ、なんだ? 自信がないからハンデをくれという事か? んー、どうしようかな?」
イラッとした。
やっぱ何も言わずに魔法打つか。
魔王というのはこういう風になってしまうのだろうか。
「ふっ、だがいいだろう。特別に許可してやる――」
「《メテオ》」
許可が下りたので、近場に魔法を放つ。
魔王城から数キロ離れたところに、俺の使える魔法でも比較的威力の高いものを使った。
次の瞬間――衝撃で魔王城は崩壊した。