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4.魔王の隣にいたあれ、別の魔王を倒しにいく

「なーんて、そんな簡単に砕けていたらゴーレムなんてやってられないよ」

「大丈夫、ですか?」


 心配そうに声をかけてくれるリンナ。

 いやぁ、この優しさが心にしみるよ。

 砕け散った俺の再生にはそこまで時間はかからなかった。

 だが、すでに原形をとどめていない。

 破片が集まって出来上がった俺はキューブ状になっていた。

 その状態で、リンナを町の近くまで送り届けた。

 ここまで来れば、もう魔物に襲われる心配もないだろう。


「大丈夫、大丈夫。後で元に戻るから。それで、俺を装備できない理由を聞いてもいいかな」

「そ、それは……その、本当にありがたいお話しなんですけど、わたしみたいなのにジェイルさんみたいなすごい人が付いていたら、わたしが足手まといになっちゃいますから」


 なんだ、そんな事か。

 むしろ足手まといどころかどんどん頼りにしてほしいんですけど。

 このゴーレムを足先に一つで使うくらいに成長――いや、それはダメだ。

 あの魔王みたいになってしまう。

 そんな事気にしなくたっていい――俺がそう言おうとした時だ。


「それに、ジェイルさんはこれから魔王を倒すんですよね……?」


 まさかそのネタがもう一度戻ってくるとは思わなかった。

 俺氏、その魔王と絶賛喧嘩中なわけだが。

 喧嘩の勢いでルナールを倒す……? できなくもないけど、正直俺にも人の心というものはある。

 喧嘩したからといってルナールを倒すなんて事はできない。

 しかし、俺がその魔王であるルナールの隣で戦っていた、なんて事だけは知られてはいけない。

 せっかく分かってもらったのにまた怯えさせてしまうかもしれない。

 ただ、ここでは口裏だけは合わせておこう。


「魔王ね……ルナールはいずれ倒すとして」

「ルナール?」


 俺の言葉を聞いて、リンナが首をかしげる。

 しまった! 魔王の名前を何故知っているというパターンか!?

 俺とした事がそんな簡単なミスをしてしまうなんて――


「えと、魔王ってシュナイザーですよね?」

「ん? シュナイザー?」

「あれ、違うんですか?」


 誰だろう、そいつ。

 初めて聞いた名前だけど、ルナールの部下にもそんな奴はいなかったはず。

 辺境に送り込んだ魔王軍所属の下っ端なら自分を魔王と名乗ってもおかしくはないが――


「あ、そういえばここってどのあたりなの?」

「ここ、ですか? クイゼル王国の領内になりますけど……」

「あー……」


 俺は理解した。

 それは聞いた事ない国だった。

 なりふり構わず移動している間に相当遠くまで来ていたとは思ったが……そういう事か。

 ここはルナールの支配する地域ではなく、別の魔王が侵攻中の地域なのだ。

 つまり、まったく別の魔王軍という事になる。

 何せこの世界はとても広い――魔王を名乗る者も結構な数がいる群雄割拠な時代だ。

 まあ、実際に魔王を名乗れるレベルの奴は少ないと思うけど。

 しかしそうか……ここはルナールの支配する地域じゃないか……。


「リンナ」

「は、はい?」

「俺が魔王を倒したら、俺を装備してくれ」

「えっ――」


 リンナの返答を待たずに、俺はそこから飛び出した。

 ここがルナールの支配する地域ではないのなら、何でもし放題じゃないか。

 そう、つまり適当に言った『魔王を倒す』をやっても問題ない。

 魔王シュナイザー――どんな奴か分からないが、まあこの辺りを支配地域にするような奴ならたいした事はないだろう。


「魔王を倒す。俺が英雄になる。ジェイルさんかっこいい、装備して! うん、これだな!」


 完璧な流れじゃないか。

 俺は意気揚々と空を駆ける。

 魔王なんてものは結構目立つところに城を立てる。

 空に上がって見ればすぐに分かる。


「……あれ、どこだろう」


 分からなかった。

 ま、まあ魔力を探れば一発よ。

 魔王を名乗るくらいだからそれなりの魔力は持っているはず。


「あっちか」


 俺は強い魔力が感じられる方向へと飛び立つ。

 飛行する最中、徐々に俺の身体は球体からいつもの馬と鳥の石像へと戻っていった。

 やる気に満ち溢れた証拠だ。

 移動している最中、次々と城塞らしきものをスルーしていく。

 おそらく魔王の部下が管理しているのだろう。

 そんなの一つ一つ攻略しながら進むのは勇者だけでいい。

 俺は勇者でもなければ魔王でもない――そんなルールに縛られる男ではない。

 そして進み続けていると、いかにもな城を発見する。

 あのちょっと趣味の悪い感じは間違いない――魔王城だ。


「行くぞおらぁっ!」


 俺はそのまま真っ直ぐ城内へと突撃する。

 目指すは頂上。

 高そうな窓を突き破りながら、俺は魔王城内へと侵入した。


「うおおおっ!? な、なんだぁ!?」


 突然の来訪者に、驚きの声が上がるのが聞こえた。

 俺はすぐに状況を確認する。

 赤いカーペットに白い柱――その先にあるのは台座と高そうな椅子。

 そして、驚いた表情で俺を見る男がいた。

 長い角を生やした金髪の男だ。

 見た目は若いが、マントを羽織った姿を見るに間違いない。


「お前がシュナイザーか」

「な、何者だ。貴様……? いや、貴様らか」

「貴様であっている。俺の名はジェイル。突然の事で悪いが、俺はお前を倒す事にした!」


 高らかにそう宣言する。

 シュナイザーはさらに目を見開いた。


「ま、まじで突然だな……」

「出会いというのは突然なものだ!」


 そう、俺とリンナのように。

 ……まあ驚くのも無理はない。

 俺は魔王城を飛びだしてから、どうして他の魔王を攻める事になっているのか。


(そうだ、これも可愛いリンナの装備になるため)


 そしてこれから二人でゆるりとした生活を送るため――出会い頭で実際申し訳ないところだがシュナイザーには倒されてもらう。


「さあ、いざ尋常に!」

「ちょ、ちょっと待て!」


 戦おうと思ったが、シュナイザーが手で俺を制止する。

 割と慌てふためいているので、俺は待つ事にした。


「どうした?」

「いや、突然すぎて何もかも整理が追いつかんのだが、とりあえずお前はオレを倒しに来たという事か?」

「そういう事だ」

「な、なるほど。魔王になると暗殺も視野にいれないといけないのか……」


 はははっ、このシュナイザーという魔王も中々ユーモアがある。

 暗殺するならとっくに殺しているわ。


「じゃあそろそろ……」

「いや、待て」

「まだ何か?」

「とりあえず、魔王が戦うわけだから……名乗り合いとかから始めたいんだけど」


 シュナイザーから提案されたのは、そんな魔王あるあるだった。

 ジェイルが魔王城を飛び出してからまだ一日も経っていない。

 ――にも拘らず、人知れず魔王の装備と魔王が戦うという最終決戦のような事態が発生しようとしている事は、誰も知らない。

勢いと疾走感をイメージしたら物凄く展開が早い気がしますが気にしません!

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