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3.魔王の左右にいるあれ、砕け散る

 すっかり怯えた様子の少女――リンナに俺も困惑した。

 まさか助けたつもりが怖がらせてしまうなんて……。

 よくよく考えたら俺はもう人の見た目でもなくゴーレムだ。

 魔王城の生活に慣れすぎて容姿なんてあまり気にしてなかったが、普通の子からしたら怖いのかもしれない。

 ましてや、魔物を一撃で倒すところも見せてしまっている。

 そうだ、敵意がない事をまずは示そう。


「い、命だけは……」

「大丈夫、俺は敵じゃない」

「……ほ、ほんとですか?」


 純粋かな?

 二言目に信じそうになっているのは少しおじさん心配になっちゃうよ。

 まあ、俺的にはそういう純粋なところは評価高いけど。


「ほんとほんと。俺はわるいゴーレムじゃないよ。その証拠に……ヒール!」

「っ!」


 俺が回復魔法を使うと、リンナの肩の傷はたちまち塞がった。

 俺のヒールは致命傷でも治せるくらいには強い。

 ただし女の子に限る。


「あ、ありがとうございます」

「信じてもらえたかな?」

「は、はい。ごめんなさい、助けてくれたのに怖がったりして……」


 しゅんとしている姿も可愛い。

 ずっと見たくなってくる。

 俺はぷかぷかと浮かびながら、身体を一回転させる。


「いいとも! 俺が助けたくて助けたのさ」


 俺がそう答えると、少女の表情はぱあっと明るくなった。

 おおう、明るい笑顔はドストライクだ。


「あ、申し遅れました。わたしはリンナって言います」

「知ってる」

「え?」


 間違えた。


「そうなんだ、可愛い名前だね」

「か、かわ……? 普通の名前ですよぅ」


 そう言いながらも少し照れているリンナ。

 恥ずかしがる姿もいい。

 映像におさめておきたい。

 いやおさめておこう。

 ピカピカと、鳥の石像の方の俺の目が光る。

 今の状況を録画しているのだ。

 記憶魔法っていうまあまあレベルの高い魔法だけど、まあ俺なら楽に使える。


「それで、リンナはどうしてこんなところに?」

「えと、わたしこう見えても冒険者なんですけど――」

「ほーん」

「み、見えないですか?」

「いや、可愛いよ」

「か、可愛いかどうかはともかく! このあたりで薬草の採取をしていたんです」

「ほうほう、薬草とな?」

「はい……孤児院の依頼で。でも、わたしの実力だとここでも不足だったみたいです」


 まあレベル3じゃ仕方ない。

 俺がぶつかっただけでも死んでしまうかもしれないレベルだ。

 いや、そう考えるとか弱すぎない?


「えと、ジェイルさんは、その……人、だったんですよね?」

「うん、そうだよ。今はゴーレムだけど」

「ど、どうしたらゴーレムになるんですか?」

「なりたい?」

「そういうわけじゃないですけどっ。純粋な興味というか……」


 なるほど、勉強熱心な子は嫌いじゃないよ、俺は。


「時は遡ると百年くらい前かなぁ」

「ひゃ、百年ですか?」

「うん。その頃、俺はまだ大きなゴーレムだった」

「その頃からゴーレムなんですか!?」

「ウソウソ、その頃はまだ人間」

「も、もう! 驚かさないでくださいっ」


 怒る姿も可愛い。


「俺は土魔法をこよなく愛していたわけなんだが――あっ、愛していた理由は長いから省くけど」

「そこも少し気になります……」


 実際にはその頃の土属性魔法は人気の魔法ではなく、使っている奴は少し異端だった。

 異端な俺かっこいい、理由はこれだけです、はい。


「まあ土属性の魔法を極め続けていたわけなのよ。そうしたらある日、俺の身体が岩になっていたわけだ」

「……え? こ、怖い話ですか?」

「冗談冗談、まあ気がついたらゴーレムだったのは事実だけど」

「そ、そうなんですか。え、それだとゴーレムになったのって……」

「魔法極めたらそうなるんだなあっていう、俺もそのとき初めて知った」


 割りと衝撃的な事実だったが、何人かの先達からも聞いた。

 魔族界ではメジャーな話らしい。


「まあそんなわけでゴーレムやっているわけなのよ」

「そうなんですね。なんかすごい話です。でも、どうしてこんなところに?」

「それは魔王と――」


 おっと危ない。

 思わず口走ってしまうところだった。

 魔王と喧嘩してここにきた、なんて恥ずかしい理由は聞かせられない。


「魔王と……?」

「魔王討伐でもしようかと思ってそのウォーミングアップ」


 ――言ってしまった。

 まあいいか、本人もここにはいないわけだし。

 リンナも適当に流してくれるだろう。


「ま、魔王討伐ですか!? す、すごいですっ」


 あれ、思ったよりも食い付きがよくない?


「すごい人に出会えました……ゴーレムになって、それで魔王を討伐しに行こうだなんて」

「ま、まあね」


 あかん、これ本当に討伐にいかないといけなくなるかも。

 そうだ、それよりも本題に入ろう。


「魔王の事は置いといて、リンナ。君一人だとここらで戦うのも大変そうだね」

「そ、そうですね。正直実力不足です……」

「だったら、俺を装備品として近くに置かない?」

「え……?」


 言った、言ったよ、俺は。

 正直ナンパみたいな事はあまりしたことないけど、勇気を出したよ。

 小生意気なルナール以来の快挙だよ。


「ええと……」


 何と答えていいか迷っているようだ。

 そんな謙遜しなくても、俺がリンナの事を守ってあげたい。

 いやあげよう。


「嫌です……」

「うんうん、分かった――ん?」


 聞き間違えたかな?


「ワンモアプリーズ」

「えっと、その、嫌です……」

「そんなー」


 バカァン――俺はその場で砕け散った。

 まさに玉砕である。


「ジェイルさん!? だ、大丈夫ですか!?」


 砕け散った俺を見て、慌てるリンナの声だけがその場に響いた。

 こうして俺の無駄に長い生涯は幕を閉じた。



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