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2.魔王の左右のあれ、女の子を助ける

 魔王軍での俺の役目は、魔王の左右で彼女を護衛する事だった。

 俺を倒さない限り魔王を倒す事はできない――とても有名な話だ。

 やってくる勇者や別の魔王にまで攻略法が伝わっているほどだ。

 勇者がやってきた時――それが特に顕著だった。

 すでに何度かルナールのいる魔王城に勇者パーティが到着した事はある。

 それは別に魔王軍の防衛が疎かだからというわけではない。

 軍が対するのは同じように軍で相手をする。

 たかだが数名の人間が集まったパーティなど、見つければ倒すし、見つからずにやってきたのなら魔王が相手をする、それだけの事だった。


「左右のやつから倒せ! じゃないと回復するぞ!」

「無駄な事を……ジェイル」

「おう、《グランドクロス》」


 十字の巨大な岩が降り注ぎ、やってきた勇者パーティを一瞬で壊滅させる。

 どこの誰か知らないが、魔王の戦い方がネタバレされまくっていた。

 だが、そんなことは関係ない。

 圧倒的な力の差がそこにある。

 ……そんな俺だが、実際には魔王の隣の奴AとBなんて呼ばれている事も知っている。

 挙げ句のはてには魔王の左右の『あれ』などと言われる始末だ。

 俺の方が強かったんだけどなぁ……。


   ***


「どれどれ……」


 俺は木の陰から様子をうかがう。

 一匹の巨大な魔物が見えた。

 体長にして五メートル。

 毛深くて茶色の毛並みを持つそれは、まさに熊の見た目をしていた。


「最近の魔物ってめっちゃ強そうだよなぁ」


 正直な感想だ。

 俺みたいな石像×2よりもよっぽど魔物らしい。

 そもそも俺の見た目だけならそこらの遺跡に落ちてそうな見た目だから仕方ないが。

 熊の魔物の視線の先、そこにいたのは一人の少女だった。


「こ、これは……!」


 黒くて長く、艶やかな髪。

 まだ幼さは残るが、整った顔立ちをしていて、それでいて可愛らしい。

 華奢な身体では鎧を着込めないのか、胸当てと腰に申し訳程度に金属の鎧を装着していた。

 清楚で可憐なイメージ――正直見た目だけなら理想的な少女だった。


「グルゥウウウ……」

「こ、来ないでください……!」


 熊の魔物に対して、震えながらそんな事を言う少女。

 見れば、肩から出血もしている。

 言葉など通じるはずもないのだが、もはや逃げる事もできないのだろう。


「今助けるぞ!」

「待て!」


 俺が飛び出そうとした時、俺を止める声が聞こえた。

 振り返ると、そこにいたのは俺だった。


「珍しく意見を違えたな、鳥」

「おまえはすぐに先走りすぎだ、馬」


 そう、俺は二つの石像で成り立つゴーレムだ。

 鳥の石像と馬の石像――普段は同じ意思で、同じ考えを持つ俺だが、稀に違う意見を言う事がある。

 鳥型の俺が、馬型の俺を制止したのだ。

 だが、結局は俺一人――もう一人の僕的な感じでもないので、俺の考えのうちの一つが勝手に口走ったような感じだ。

 早い話、脳内会議を外でやっているだけである。


「俺も助ける事には同意見ではあるが、念のため奴の強さを調べておいた方がいいと思ってな」

「おいおい、俺が負けるっていうのか?」

「いや、俺はここがどこかも分かっていない。ひょっとしたらあの女の子のレベルが100なのに対して熊が2000なのかもしれないぞ」

「めっちゃ大きく出たな」


 涙目で追い詰められた女の子がレベル100とかそれはそれですごい。

 ……まあ俺(鳥)の意見も分からなくもない。

 何せほんの少し前まで魔王の近くにいた俺が森の中をうろついているくらいだ。

 見知らぬ森で出会った相手が、《神代の魔獣》である可能性も捨て切れないという事だろう。


「では念のため――アナライズ!」


 俺(鳥)の目が光る。

 アナライズは相手の強さを見る事が出来る魔法だ。

 強さとはレベルで表現され、数値が高ければ高いほど強い。


「《アンダー・ベア》……レベルは15か。ゴミめ」


 あの見た目で15とか詐欺にもほどがある。

 魔王城の近くのスライムだって50レベルはあるというのに。


「女の子は?」

「リンナ・クレック……レベルは3だ」

「尊い」


 赤ちゃんかな?

 ちなみに俺(鳥)のレベルは893。俺(馬)のレベルは898である。

 ヤクザと白馬で覚えてくれ。


「それでは概ね合意という事で」

「ああ」


 俺の意識が再び統一される。

 その直後、アンダー・ベアは動きだした。


「グルァアアア!」

「……っ!」


 リンナが恐怖で目を瞑る。

 この距離ならリンナの前に出て守る事も余裕だが、レベル15程度の魔物相手ならデコピンレベルの魔法で十分だ。


「《サンダー・ショット》」


 ピシャリと馬の石像から一筋の光が走る。

 それはアンダー・ベアに直撃すると同時に、身体は大きく震わせた。

 第一魔法――サンダー・ショット。

 第一から第七まで存在する魔法の段階のうち、最下級の魔法の一つだ。

 土属性魔法を極めた俺だが、当然普通の魔法も習得している。

 俺が土魔法を使うのは俺と戦うレベルに値する奴だけだ。


「……? え――」


 ズゥン、という音を耳にして、リンナが目を開く。

 そこに広がっているのは、プスプスと黒い煙を出しながら横たわるアンダー・ベア。

 加減はしたつもりだが、それでも低級の魔物程度では耐える事もできない。

 何が起こったのか分からないという様子のリンナに、俺は颯爽と姿を現した。


「平気かい? お嬢さん」

「あ、え……だ、誰、ですか?」


 ふわりと宙を浮かぶのは、鳥の石像と馬の石像。

 完璧な登場だ。

 これで惚れない奴はいないと俺は確信する。

 おそらくこの地上にて抱きたいランキング第一のゴーレムは俺だろう。石抱きは拷問にしかならないが。

 ダンディな感じを意識して割と低くていい声を出したつもりだったが、なぜかリンナの顔は引きつっていた。

 まあ仕方ない、怖い目にあったのだから。

 それでも、俺は続けて自己紹介をする。


「俺はジェイル。かつて土属性を極めた魔導師だったが、訳あって今はゴーレムをやっている」

「土属性……? ゴーレム……? あの、今のはあなたが?」


 あれというのは、リンナの目の前に転がる焦げたアンダー・ベアの事だろう。

 俺はふわふわと浮かびながら答える。


「物分かりがいい子だ。その通り!」


 それを聞いたリンナは震えながら、少しだけ後退りをする。

 そこで気づいた。

 まるで、俺に恐怖をしているかのようだった。

 おかしい、なぜ俺が怖がられているのだろうか。

 俺はリンナに近づく。


「ひっ、わ、わたし! 何も持ってないです、から! い、命だけは!」

「……あれぇ?」


 颯爽と助けたつもりが――とても大きな勘違いをされてしまっているようだった。

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