13.繰り返すゴーレム
粉々に砕かれた俺だが、砕かれた程度では死なない――そう、俺はそういうゴーレムだ。
しかし再生には多少時間はかかる。
結局、半日程度経過してから無事再生をした。
ルナールは不機嫌そうではあったが、俺の伝えたかった「べ、別にあんたの事嫌いじゃないんだからね」が伝わったらしく、元に戻った俺をそこまで咎める事はなかった。
ただ、俺がこれ以上魔王を倒すと色々問題であるため、一度魔王城に戻る必要があるという。
もちろん、リンナにはルナールが魔王である事も、俺が魔王の装備である事も伝えていない。
「リンナ……短い間だったがありがとう」
「いえ、わたしの方こそ……ジェイルさんがいなければここにはいられなかったかもしれません」
「その通りだな」
「少しは謙遜しろ」
ビシッとルナールに突っ込まれる。
か弱いリンナが生きていけるかどうか心配だが、レベル3までここまで生きていけているのだからきっと大丈夫だろう。
定期的に、いや毎日でも見にくればいいしね。
リンナの成長の記録――スライムとの戦闘も録画してある。
マジでスライムとしか戦っていないやばい映像だが仕方ない。
それだけ弱い冒険者がこの世に存在したという事だ。
いや、割とマジで心配だよ。
「それでは、戻るとするか」
「おう」
リンナに見送られながら、俺とルナールは小さな家から出る――その前に、最後にリンナに聞いておかなければならない事があった。
「リンナ、最後に一つだけ答えてくれ」
「なんでしょうか?」
「俺を装備してくれないか?」
「このタイミングで聞くのか……」
ルナールの呆れたような返事を耳にしながら、それでも俺は問いかける。
なぜなら俺は彼女の装備になりたいのだから。
リンナは一瞬驚いた表情をしたが、ちらりとルナールと俺を見た後に笑顔で答える。
「嫌ですっ」
「そんなー」
バカァン――俺はその場で砕け散った。
当たり前の話だが。
リンナによる三度目の破壊を迎え、俺は無事半日間リンナの家での滞在を延長することとなった。
***
――この世界には魔王という存在がいる。
そう呼ばれる者達は人々に畏怖され、また支配するために力を振るった。
カザンドラ大陸の北方、ラザニ領――《屍王》クラークスや《狼王》バスティルと呼ばれる大陸でも最強クラスの者達を従えた魔王がいる。
先代の魔王は、現魔王によって倒された事によって支配権がうつったのだ。
そんな魔王が有する武具は魔剣だけでなく、絶対的な強さを位置付ける装備があった。
魔王の両隣に存在する石像であり、魔王を守護する存在である。
その石像がある限り、魔王が敗北することはあり得ないと言われていたのだが――
「もうお前の隣になんかいられるか!」
俺は再び怒りに任せてそう言い放った。
リンナの下を離れてから大体二カ月程度――あまりに短いスパンである。
ぷかぷかと宙に浮かびながら、相変わらずプルプルと怒っていた。
そんな俺に対するのは魔王のルナール。
魔王城の謁見の間にあるちょっと高めの階段の上に、お値段が張りそうな椅子に座っている、エロい魔王――こいつにまた怒っていた。
「お前の不始末をいつも片付けてやっているのは私なのだが」
「なにぃ? どこが不始末だ! あれこれ言ってくる魔王共がうるさいから始末してやっただけだろうが!」
「それが問題だというのだ! もう私だけ本気でやばい魔王だってレッテル張られて大変なんだぞ!」
仕方ない。
何かとうるさい眼鏡の魔王とかいたから、いらついて吹き飛ばしてしまった。
代わりに焼きそばパンを常に持ち歩いている魔王――シュナイダーを魔王会の司会として配置している。
驚異的なスピードで成長したシュナイダーは魔王としても上手くやっていけていた。
いや、本当に焼きそばパンを買いに行っている間に何があったんだ。
ちなみにあいつの隣には竜王とかいうドラゴンのペットがいる。
あいつを倒すにはまずペットと戦わなければならない――そういうタイプの魔王になっていた。
「もういいっ! おれは勝手にやらせてもらうぞ! バーカ!」
「バカって言った方がバカだと言っただろうが!」
ルナールの返答を無視して、俺はそう言って部屋を飛び出した。
そのまま窓を割って城内からも飛び出す。
音速を越えて、俺は再び魔王城から飛び出していった。
『魔王の左右にいるあれ、最速で旅立つ』事件と名付けられた。
***
「あの魔王ほんとあり得んわ。エロイ以外のメリットが行方不明だわ」
ぷかぷかと浮かびながら、いつものところへと俺は向かう。
宣言通り、毎日通っている場所があるからだ。
「けど、リンナはやっぱり俺を装備してくれないからな……。お互いに尊敬しつつも尊重できるような間柄になれないだろうか……」
回復、防御、攻撃を担える俺は、誰かの装備になる事を基本的な戦闘スタイルを極めた俺を――装備してくれるような可愛い子がほしい。
「ま、そんな都合よく良い子がいるわけないか」
いつもと変わらない道のりだったが、その途中にも町は存在している。
領地としては、ルナールの支配する地域の森だったが――
「だ、だれかっ!」
「むむむっ!?」
俺の耳に女の子の声が響く。当然、耳はない。
このか弱い感じの声は……間違いない。
(新たな出会いの予感がする!)
俺はその予感のままに、声のする方向へと飛び立っていく。
その一時間後には、再び砕け散っている事をこの時の俺は知らない。
でも、やるべき事はそこにある。
いつだって俺は清楚で可愛い女の子の装備になりたいのだ。
思ったより短くなってしまいましたが、勢いだとこの辺りでまとめた方が綺麗かなと思いました。
お読みいただきありがとうございました。