12.伝えなければならない事が、そこにはある
「あの、お茶で大丈夫ですか?」
「ああ、構わない」
今の状況は色々とすごい。
ゴーレムの俺の対面に、魔王のルナールが座っている。
まあここまではいい。
ほんの一月くらい前までは当たり前の事だった。
けれど、重要な事はそこではない。
ここはリンナの家――小さな家の中に魔王とその装備であるゴーレム、そしてレベル3のリンナがいる。
何と奇妙な光景だろうか。
まあ、ルナールは下手に暴れたりするようなタイプではないからそこまで心配はしていない。
俺に対してはとても暴力的な気がするけど。
何せ、すでに真っ二つにされているわけだからね。
俺じゃなかったら死んでいるよ。
「……まさか、こんなところで他人の装備になろうとしているとはな」
すでにルナールには説明をしている。
リンナにはなるべく俺達の正体がばれないように、口裏を合わせた。
別にばれたからどうとなるわけではない。
ただ、俺が困るだけなのだが、意外にもルナールは口裏を合わせる事に了承してくれた。
魔王であるという事実を隠しつつも、以前の俺の所有者であるという事は伝えている。
「お前が各地で魔王を倒した事で色々と弊害が出ている」
「あいつらが攻めてくるからなぁ」
「……お前は少し自分の力を考えろ」
「そんな事言われてもなぁ」
ごもっともな注意ではあるが、仕方のない事だ。
一応それなりに加減もしているつもりではあったが、面倒な時は加減する方が疲れる事だってある。
「とにかく、事態を収拾するためにはお前を止める他にない」
「なるほど」
「選ぶ道は二つに一つだ。私の下に戻るか、私に斬られるかだ」
「俺はリンナの装備になる!」
「……話を聞いていたのか?」
はははっ、二つの選択肢しかないなどとご冗談を。
俺の力を使えば選択肢なんて無限大よ。
「話を聞いた上で答えている」
「それはつまり、私と戦うという事だな」
ピリッと空気が張り付く。
ルナールの威圧感が増していくのが分かった。
おいおい、そんな威圧感を出したらリンナが気絶してしまう――あれ?
「あの、喧嘩はよくないと思います……」
リンナはそう言いながらお茶を持ってきてくれた。
なんと気絶していない。
これはあれか。
リンナの類稀なる弱さのせいで、逆に強い相手の威嚇に気付けていないのか。
「喧嘩をしているわけではない」
「その通りよ」
「でも……」
「なるほど、お前が装備になりたくなる気持ちが分からないでもない」
「え?」
ルナールがリンナを見てそう言った。
元々、俺の趣味についてはルナールもよく把握している。
魔王になるという野望を持った彼女に、俺はついていく事にしたのだから。
「お前がその道を選ぶというのなら、私の城まで一度戻ってこい。そこで決着をつけよう」
ルナールはそう言うと立ちあがり、家から出て行こうとする。
けれど、それをリンナが止める。
「……邪魔だ」
「お、お二人の間に割って入ってしまって申し訳ないですけど、話し合いで解決できるならその方が……」
「もうその段階は過ぎた」
「リンナ、危ないから下がった方がいい」
いつになく真面目な俺の言葉に、リンナどころかルナールも少し驚いていた。
いやいや、俺だってたまには真面目になるよ。
いつだってふだけた感じのゴーレムじゃないよ。
「驚いたな……本当にそうなのだな」
ルナールはそう言うと、リンナの制止を振り切って家から出て行く。
俺はそれを黙って見送ろうと思ったが、
「ジェイルさん……ルナールさんはジェイルさんの事を大事な装備だと思っているじゃないですか」
「リンナ……?」
珍しく、リンナが怒っているような口調で話す。
「何で喧嘩したのかとか、分からないですけど……二人とも本当は大事に思っているんじゃないんですか?」
「!」
リンナにそう言われて、俺も驚いた。
確かに喧嘩をして飛び出したが、俺はルナールに迷惑をかけた事を悪いと思っている。
そして、実際にやってきたルナールにも嫌悪感を抱くわけでもなく、普通に接していた。
それはルナールの方も同じだった。
「追いかけた方がいいですっ」
「……ああ」
俺はそう答えると、リンナの家から飛び出した。
いつになく真面目な感じが続いているが――そう、俺だって真面目になる事はあるんだ。
ルナールに正直に伝えようじゃないか。
俺の思っている事を。
ルナールの移動速度は早いが、それでも俺の飛翔速度の方が早い。
移動するルナールを俺は発見する。
「ルナール!」
「っ! ジェイルか……何をしに来た?」
「俺は、お前に伝えないといけない事がある」
俺がそう言うと、ルナールはぴたりと動きを止めた。
先ほどとは打って変わって、威圧感のない少女のような感じが分かった。
「……なんだ?」
リンナに言われた通りだ。
俺は、ルナールの事を大事に思っている。
それを伝えようじゃないか。
そう、俺はルナールの――
「そのエロイ身体が大事だと思っている」
「死ね」
スパァン――俺は再び真っ二つに切断された。
いやぁ、石像をこんな簡単に真っ二つにするなんてさすがだよね。
「気が変わった。今すぐお前を壊してやる」
「落ち着け、言い間違いだ」
「問答無用だ!」
怒ったルナールは手がつけられないのよ。
――とはいえ、俺もルナールと本気で戦うわけにはいかない。
粉々にされた俺は、粉末状態になってからルナールを説得するのに尽力したのだった。
疾走感が出せなくなってきたのでそろそろ終わりが近いです。