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11.魔王の隣の、現場を見つかる

 あれから――ドラゴンがやって来る事もなかったが、定期的に魔王を名乗る奴らが領地の乗っ取りに来ていた。

 そう。この間のトカゲ――《竜王》もそうだが、魔王が支配している地域が空いたらそこを支配しようという椅子取りゲームのような事をしていたのだ。

 なんだかんだやってくる者は悉く撃破していた結果、人知れずこの地は安全なところとなり、俺は当社比調べで守り神のようになっていた。

 だが、俺の目的は魔王を倒す事でもこの地の守り神になる事でもない。

 可愛いリンナの装備になる事、だったのだが。


「えいっ」


 また、リンナがスライムと戦っている。

 なんと驚き、この一か月――リンナのレベルは3のままである。

 成長率が低いとかそういう次元ではない。

 スライムと戦っているだけでは経験が積めないのだ。

 他にリンナがやる事と言えば薬草の採取をメインにしている。


(何というスローな毎日……)


 これはこれで悪くはない。

 悪くはないのだが、俺としてはもう少し刺激がほしい。

 いや、別に魔王が定期的にやってくる事が刺激的じゃないのか? と言われれば十分刺激的だが、そんな刺激は必要ない。


「このくらいにしておこうかな」

「おっ、帰るか」


 そんな事を考えつつも、リンナとこうして過ごす日々を俺は満喫していた。

 これで俺を装備してくれればいいのだが。

 町に戻ると、リンナは普段通り家に向かう――と思っていたが、今日は方角が違っていた。


「おや、どこに行くんだ?」

「今日は久しぶりに、温泉にでも行こうかと思って」

「な、なにぃ……?」


 ピシリッと俺の全身にひびが入る。

 この町における温泉と言えば、最初の頃に見かけた露天風呂しかない。

 あの時はリンナを探すため仕方なく覗いたが、特に人は入っていなかった。

 そういう状況ではなかったしね。

 だが、俺に対してそれを宣言するという事は……。


「見張りは任せろ」

「見張りですか? 覗く人なんていませんよ」


 はははっ、純粋なお嬢さんだ。

 覗く人はないが覗く岩はいるぞ、ここにな!

 そうして、温泉へと向かうリンナの後に続く俺だったが。


「いや待て」

「む、久しぶりに意見が食い違ったな」


 定期的に反論をするのは大体馬の方の俺である。

 俺が振り返ると、同じようにひびは入っているが、険しい表情――いや、いつも通りか。

 そんな感じの馬がいた。


「俺はそんな気持ちでリンナの傍にいたのか?」

「そうだぞ」

「ならいいか」


 はい可決。

 両方俺だから仕方ない。

 本能には逆らえないのだから。

 リンナが温泉の施設に入ってからしばらくして、俺は周囲でそわそわと浮いていた。

 いつのタイミングに浮かび上がるかを見計らっている。

 誰の裸でも見たいわけではないのだよ、俺は。


「そろそろかな」

「何がそろそろなんだ」

「何がってそらぁお前――あん?」


 誰かに話しかけられて、俺は不意に動きを止める。

 少し懐かしめだが、魔王を名乗るには可愛らしい少女の声が聞こえたのだ。

 振り返ると、そこには剣を構えたルナールがいた。


「おや、久しぶりじゃないか」

「……お前、何をしている?」

「はははっ、嫌だなぁ……俺はお前の下を離れてからこの町に居着いてごろごろと生活していただけ――」

「風呂を覗こうとしていただろうがッ!」


 ルナールが剣を振るう。

 ザンッと加減する事もなく俺の身体を二つに引き裂いた。

 斬られたのは鳥の方の俺だ。


「まったくお前という奴は……! くだらん事で飛び出したと思えばあちこちで魔王を倒したり挙句に風呂を覗こうなどと……! どこまでふざけた奴なのだ!」

「くだらない事だとぉ? お前が俺に何を言ったか忘れたのか!」

「そんなに怒るような事を言ったか?」

「お前なぁ……言った方は覚えてないものなんだよ! お前は俺にな――」


 言いかけたところで、俺は言葉を詰まらせた。

 やべっ、何で喧嘩していたのか普通に忘れた。

 いけないね、長生きしていると色々と忘れてしまう。


「……何を言ったんだ?」

「お前、そらぁあれだよ。もうこの世の物とは思えないような、あれだろ」

「何だ、それは」


 気まずい空気が流れる。

 周囲の視線も地味に痛い。

 見た目だけなら魔王に見えないルナールだからまだいいが、二つに斬られた石像と女の子が言い合っているところなど目立って仕方ない。


「あの、ジェイルさん? どうしたんですか?」


 そこへ、今の話を聞かれたくない相手が来てしまった。


「リンナ、こいつは何でもない奴だ」

「えっ、え?」

「何でもない奴だと? お前は私の――」

「黙れ小僧!」


 久方ぶりの再会を果たした俺だったが、まるで不倫の現場のような気分だった。

 実際、不倫のようなものだけどね!

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