1.魔王の左右にいる『あれ』、喧嘩をする
この世界には魔王という存在がいる。
そう呼ばれる者達は人々に畏怖され、また支配するために力を振るった。
カザンドラ大陸の北方、ラザニ領――《屍王》クラークスや《狼王》バスティルと呼ばれる大陸でも最強クラスの者達を従えた魔王がいる。
先代の魔王は、現魔王によって倒された事によって支配権がうつったのだ。
そんな魔王が有する武具は魔剣だけでなく、絶対的な強さを位置付ける装備があった。
魔王の両隣に存在する石像であり、魔王を守護する存在である。
その石像がある限り、魔王が敗北することはあり得ないと言われていたのだが――
「もうお前の隣になんかいられるか!」
俺――ジェイル・ポールは怒りに任せてそう言い放った。
見た目は鳥をモチーフにした杖を持つ石像と、馬をモチーフにした剣を持つ石像の二体。
そう、大地の魔法を極めた俺は極めすぎた結果ゴーレムになったのだ。
なぜゴーレムなのか、それは俺も知りたい。
ぷかぷかと宙に浮かびながら、プルプルと怒っていた。
そんな俺に対するのは魔王のルナール。
赤い髪が特徴的だが、小さな角が生えているのが印象的でもある。
褐色の肌は露出度の高い鎧によってよく見えた、エロい――ではなく。
可愛らしい顔立ちをしているが、立派な魔王である。
魔王城の謁見の間にあるちょっと高めの階段の上に、お値段が張りそうな椅子に座っている、エロい――ではなく、俺はこいつに怒っていた。
「ふん、隣にいられないというのなら好きにするがいい。お前などいなくても問題ない」
「なにぃ? これまで幾度となくお前を守ってきた俺に対して! お前の左右に俺がいたから今のお前があるんだぞ!」
「私一人でも問題なかったが? お前が魔王軍に志願し、私がお前を拾ってやったのではないか」
カチーン、と頭の中で何かが鳴る音が聞こえた。
これはもうあれですよ、本気も本気の怒りですよ。
「そこまで言うんだったら……一人で魔王やってろ! バーカ!」
「バカって言った方がバカだ」
ルナールの返答を無視して、俺はそう言って部屋を飛び出した。
そのまま窓を割って城内からも飛び出す。
音速を越えて、俺は魔王城から飛び出していった。
これが後に有名となる――『魔王の左右にいるあれ、魔王軍抜けたってよ』事件である。
***
「あの魔王ほんとあり得んわ。可愛いからって調子に乗りおってからに」
俺はぷかぷかと宙に浮かびながら、ぶつぶつとそう呟いていた。
俺は元々は人間だった。
土属性の魔法をこよなく愛していた俺だったが、それを極め続けた結果自身がゴーレムになるというゴールにたどり着いた。
つまり、人の魔族化である。
ゴーレムでありながら自意識を持ち、いくつもの魔法を習得した俺は自他共に認める最強のゴーレムだった。
そんな俺が就職したのが、魔王軍だったのだが――
「やっぱ素直な良い子の装備がいいよなぁ。お互いに尊敬しつつも尊重できるような間柄……」
土魔法ばかり極めていた俺だが、ゴーレムになった俺はまた違う目的――もとい夢を持っている。
回復、防御、攻撃を担える俺は、誰かの装備になる事を基本的な戦闘スタイルとする。
すごく強いのにアシストタイプってかっこよくない? それが理由だ。
そして、どうせなるなら可愛い女の子の装備になりたいというのが俺の考えだった。
実際、現魔王であるルナールは魔王を名乗る前からも可愛いらしい女の子であり、今だってそう思っている。
それでも、魔王になるような上昇志向を持つルナールでは、俺とは少し相性が悪かった。
いや、実際のところ小さな喧嘩は幾度となく繰り返していたわけなのだが。
そんな事を繰り返しているうちに、俺のストレスは遂に爆発してしまったわけだ。
今の俺は魔王の横にある『あれ』でもなければ、遺跡にありそうな謎の石像でもない。
自由に生きるゴーレムになるのだ。
さて、あんなエロそう――じゃなくて偉そうな魔王とは違う清楚で可憐な子を見つけて装備してもらおう事にしよう。
「……とはいえ、そんな都合よく良い子がいるわけないか」
魔王城を飛び出してまだ数十分。
俺の移動速度だからできる事だが、すでに魔王城から遠く離れた町の近くまでやってきていた。
この辺りは魔王軍の影響も薄かった。
「さて、どうしたもんかね……」
「きゃあああっ!」
「むむっ」
そのとき、俺の耳に女の子の声が響く。耳はないが。
近くからだったが、俺はピンと閃いた。
(このピンチっぽいところに颯爽と現れてそこから出会いが……これだ!)
そこから始まるファンタジー。
これはもう行くしかない。
俺はすぐに声のする方へと飛んで行った。
ふとコメディの作品が書きたいと思い、思い付きに任せて書き始めましたので更新は不定期かもしれないですがよろしくお願いします。