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賑やかにランチを

 時刻は十二時半を回っている。美知香が名残惜しそうに席を立ってもまだ、五人は話に花を咲かせていた。

 正確には、隆司と雅哉の会話を、裕樹と蒼雲が聞かされているという状態だ。梓乃はその会話に時々笑顔で相槌を入れている。

「ほんと、まじですごかった。猫森さん、天才だね」

(隆司は、好意を寄せている女性の前では饒舌になる。昔からそういう奴だ)

 裕樹は、相も変わらない友人の特徴に、ほくそ笑んだ。

「梓乃ちゃんなら満点出すだろうって思ってたけどよぉ。まじで、圧倒的だったんだぜ。中心円にこうバババババーッと」

 当然の結果ではあるが、梓乃は四半的射的大会で他を圧倒した。五本の矢をすべて、的の中央に打ち込んだのだ。雅哉の説明によれば、小さな中央円の中に重なり合わない絶妙な位置関係で円を描くように五本の矢を打ち込んだと。

 これには弓道部の部員だけではなく、安全管理の監督をしていた教師までもが驚嘆し、取り囲まれて質問攻めにあったとかで、本人よりも同行していた隆司と雅哉が特別に嬉しそうにしている。

 梓乃の腕前を知っている三人にしてみれば当たり前の結果で、むしろ他の参加者が気の毒だと思うくらいだが、それでも、梓乃が高校生らしい楽しみを満喫出来たことは素直に嬉しかった。

「で? 景品は何だったの? そのぬいぐるみ?」

 梓乃のリュックサックからは大きなヒヨコとウサギのぬいぐるみが顔をのぞかせている。改めて聞くまでもない質問だった。

「いえ。これは違います。景品は図書カードです。これは他の参加者の方にいただきました」

「この短期間に梓乃ちゃんにはファンがついちゃってさ」

「で? そのファンからもらったの?」

 梓乃が照れながらコクリと頷く。雅哉の話によると、高得点を狙っていたと思われる別の高校の男子生徒達が梓乃に(おそらく)一目惚れして、自分達が受け取った景品のヒヨコとウサギを、梓乃にプレゼントしたのだと言う。

(彼女が食堂に入って来た時から感じているこちらに向けられている視線は、そういうことだったのか)

 と、呆れながらも、それもさもありなんと裕樹は自分の気持ちを整理する。

「もう、取り囲まれて大変だったんですよ」

 梓乃の言葉にはほんの少し棘があって、嬉しさ半分迷惑半分の気持ちを表していた。

「ちゃんと、彼女には彼氏がいるからダメだって言ったんだけどねー」

 雅哉が、蒼雲に向かってウインクをする。

「え? それって本当だったの?」

 予想外のところから、素っ頓狂な声が聞こえて裕樹は椅子から滑り落ちそうになった。

「梓乃ちゃんに彼氏がいるっての?」

 噓も方便だと思われていたのが意外だったのか、雅哉は少し不機嫌そうな声で隆司を見る。

「お二人は付き合っているんですか?」

 蒼雲に向ける言葉がなぜか敬語。

「付き合っているっていうかさー。一緒に住んでんだよな」

「え!?」

 その後の雅哉の言葉に、なぜか、食堂の他の場所からも息を飲むような気配がしたが、裕樹はそれを無視することにした。

「ちょっ! 何言ってるんですか!」

 梓乃が、顔を真っ赤にして雅哉に抗議する。チラリと蒼雲を見ると、呆れ返った顔で冷笑を浮かべている。梓乃が蒼雲の許嫁であることは事実で、それは彼らの言葉では付き合っているということになるのかもしれないが、それをいちいちここで説明する気にはならなかった。蒼雲も梓乃も、もちろんそれを望んでいない。

「雅哉。こう見えても、隆司の奴は真面目でシャイなんだから、あんまりからかうなよ。これから演武が控えているってのに、興奮して頭真っ白になっちゃうぜ」

(いや、もうなっているか?)

 ポカンと口を開けたままの幼馴染みは、これからの役目が無事に果たせるのか心配になるようなレベルだった。

「そうだぞ。あんまりからかうな。本気にしてるじゃないか」

 蒼雲が、極めて明るい声で、全ての話が冗談であるかのように取り繕った。

「俺たちは同じ寮に住んでいるから、一緒に住んでいるって表現は間違ってないけどな」

 裕樹がフォローの言葉を追加する。

 先ほど食堂に湧き上がったざわめくような気配が、静かになったのが分かった。

(美知香がいなくて良かった)

 と裕樹は思っていた。ここに美知香がいたら、フォローすべき人間が二倍になって、フォローするための労力は四倍、八倍になっていたかもしれない。

「私の片思いなんですよー。ライバルが多くて」

 それでも、梓乃にとっては、無秩序に寄せられる恋愛感情が鬱陶しいようで、一方的に蒼雲を利用する方向でいるらしい。この言葉に、蒼雲に向けられている気配がまた一段険しくなったような気がする。

 今にも蒼雲の盛大な溜め息が聞こえてきそうな状況だが、せっかく収まりかけた場をわざわざ壊すような真似を、蒼雲はしなかった。

「そろそろ、講堂に移動しなくていいのか?」

 話が弾んで、既に時計の針は十三時を回っていた。

「そうだね。少し離れているから、そろそろ移動しないと。俺はそのまま部室に行かないといけないから、講堂の近くまで案内するよ」

「ありがとう」

 五人は立ち上がり、周りからのさまざまな視線を無視して食堂を出た。

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