8:変わったこと(瑠璃菜・巧視点)
結構大事な回です。特に巧の方。
私が巧のことをちゃんと知ろうと思ってから一週間が経った。あれから私はずっと、巧のストーカーを続けている。
あら、聞き間違えた? なんてことはないのでご安心を。
そうです! 私、ストーカーしてるんです!!
なんでって……。そんなのストーカーが滅茶苦茶効率が良いからに決まってるでしょ? うん、相手のことをよく知るために尾行してるんだよねー。
で、結果わかったことと言えば、巧は結構良いやつなんだなってこととか。先生からの信頼もあって、校内でも人気があって、仕事も早い。普通なら即座に付き合いますって答えるんだろうな。
因みに今巧は先生と会話中。何話してるんだろう、ここからじゃ聞こえないな。
「瑠璃菜じゃんか。こんなところでなにしてんだ?」
声が聞こえるけど取り敢えず無視しよう。
あ、巧が動く。私もこっそり動かねば。
「瑠璃菜? 俺、無視はいけないと思う」
先生に頼まれたプリント運びをしてるのか。重そうだな、私なら絶対に持ちたくない。
「…………おい」
ガシッ!
「いい加減にしようなー瑠璃菜。無視はいけないだろ?」
「痛い! いだだだだ!! 放せぇ!」
「はーなーせ? だぁーれに向かってそんな口聞いてるのかなー?」
「いたー!! 割れる割れる頭が割れるぅ!!」
「あ、そう」
「ごめんなさいごめんなさい! 放してください武志様!!」
そう言えば、ようやく放してもらえた……。本当に頭が割れそう。うう、気持ち悪いよう。思わず地面に崩れ落ちるほどだよ!
片手でがしっとアイアンクローっていうのはおかしいと思います! 私今死にかけました!! だって浮いたもん!! 握力とかどうなってるの!
「大丈夫かー?」
「あんたがやったんでしょ」
「まだお仕置きがひつよ「ごめんなさい嘘です」」
もうやだよあんな痛いの。一回やられてみると良い。私を上から見下ろしてくるのは巧の悪友の武下武志。はっきり言って、いやはっきり言わなくても人をからかうのが大好きな残念イケメンである。だって女たらしで遊び人だし。
……頭が良いのが唯一の長所だと私は思ってる。
「で、ここ最近巧のストーカーとかしてなにやってんの?」
「……別に」
言うわけないでしょ、密告される未来しか見えない。
「はあ……」
わざとらしく大きなため息を一つついて私の方に歩み寄ってくる。元々かなり近い距離に居たのがさらに縮められる。おまけに片膝立ちまでして目線を合わせてくるから周りに人目が無かったらキスする寸前である。
……いったい何?
そう思ったのも束の間。私の耳元に顔を寄せるといたずらっ子のような笑顔で、こう囁いた。
「いい加減にしないとその辺の空き教室にでも連れ込んで……襲うぞ?」
「……っ!」
触れる程度の微かな刺激に、私の体は思わずびくりと震えた。
「な、にを……っ」
「襲われてぇの?」
ちょっと待て! どこ触ってるの! 武志の手は周りの人にばれないように、ゆっくりとシャツの上から背中をなぞる。
「……っ! や、ぁ……!」
「話す気になった?」
急いでコクコクと頷けばすぐに体を離してくれた。
そしてそのまま場所を変えて洗いざらい吐かされたのは言うまでもない。
◇◇◇◇◇◇
告白してから一週間が経った。もうそろそろ良いんじゃないかと思うほど、俺は武志が考えた瑠瑠を落とすための作戦を行っていた。
あの日武志が言ったこと、それは……。
「押して駄目なら引いてみろ」
「へ? 渡瀬くんどうかしたの?」
……しまった、口に出てたか。
「いえ、なんでも無いですよ?」
いつも俺から迫っていたのだから俺が近くによらなければ瑠瑠の方から自然と寄ってくる、ということらしい。正直半信半疑だが、武志が言うならそうなんだろう。
自分ではとんでもなくこの状況は嫌だと思うが、時には堪え忍ぶ時も必要だという。それには同意見だ。
「そう? じゃあ渡瀬くんお願いね。運んでくれてありがとう」
「はい、それじゃあ行ってきます」
向かうのは社会科準備室だったな。そしてこのプリント意外と重い。さすがにこれはあの先生には無理だな。
というか瑠瑠は他の男に何かされてないだろうか。気になる。とっても気になる。周りの男子もそうだけど身近な男子に気を使わなきゃ駄目だからな。
社会科準備室の扉を開けて指定された場所に荷物を置けば終了、と。
さてこれから何しようか。
「兄貴。話があるんだけど」
ドアの前に空人が立っていた。
「瑠璃菜のことなんだけどさ、俺は兄貴みたいな人に瑠璃菜を渡したくない」
どういう意味だそれ。
「……何が言いたい」
「誰かをいじめるようなやつに瑠璃菜は渡せないって言ってんだよ!」
「……」
瑠瑠にいじめをしていたことについて、か……。反論のしようがない。だけど。
「確かに俺はいじめていた。そうしていたことを理解したのだってついこの前だ。だけど、俺は瑠瑠を諦められない」
「……ふざけんなよくそ兄貴」
「だから、俺は変わっていこうと思う。まず始めに、お前に謝りたい。今まで悪かった。許してくれなんて言わないからこれからの俺を見ていて欲しい」
「な、兄貴っ! 何頭下げてんだよ!」
これが俺の決意の証だから。瑠瑠を気づかないうちにいじめていたのなら、きっと空人に対しても何かしていたのだろう。
「俺は、兄貴を許す気はない、けど気づけたんだからどうせなら変わってけよ。兄貴が瑠璃菜に何かしたら即座に奪い返すからな」
「……それは、俺を見てくれるってことで良いのか?」
「はあ!? ただの監視だから! 気持ち悪いこと言うな!」
慌てて出ていく空人とは少しだけ素直になれた気がする。
たぶんあと二回です! 皆様最後までお願い致します!