7:似た者同士(瑠璃菜視点)
今日はちょっと早めに投稿。
そろそろストックを作ろうかなと思っている今日この頃。
キスされて放置されて少し時間が経った。動けない。物理的にではなく精神的に。それにまだ顔真っ赤だろうし。あんな、あんなことっ! いやだってさ! 巧だよ!? あの巧が、き、きすなんて……。
「うぅ~~!!」
全部全部巧が、あの暴君が悪いんだい!!
「……茅野何やってんだ?」
へ?
思わず固まった。見上げると片手にコンビニの袋を持った先生がいた。担任の、先生。何でここにいるんだ?
「いつまでそんな格好してるんだ。誘ってるのか?」
「はぁっ!?」
自分で言うのもあれだけど「はぁっ!?」て叫びたいのは先生の方だと思う。
自分の格好を確認してみる。じたばたしてたから衣服が乱れててスカートも捲れてる。更に言えば体はまだ火照ってる。
うん、誘ってるって思われても仕方ないな。いそいそと服を直して立ち上がる。そう、何も無かったですよー。
う、先生の呆れたような視線が痛い。
「先生は何でこんなところにいるんですか?」
「そりゃあ先生にだって悩みはあるさ」
意外だ。確かに先生にも悩みがあるかも知れないけどだからといって屋上に来るなんて。ここは生徒が告白をしているかも知れない場所なのに。
「渡瀬兄が帰ってったからな。大丈夫だろうとたかをくくった」
なんと! 先生もそんなケアレスミスをするのかー。時間差だったな。
「で、結局振ったのか?」
「はい!?」
まて、なんの話だこれはっ! わたしが、巧を、振る? そんなのさっきの話を聞いていたとしか思えん。先生は隠れ身の術の心得でもあるのかね?
「言っておくが盗み聞き何てしてないぞ。今日渡瀬兄が告白するなんてことは全校生徒が知ってるような話題だからな」
「ファッ!?」
思いっきり声を出してムンクの叫びをする私を見て「良くも悪くも目立つんだよお前等は」なんて呆れたようにいう先生は少し笑っていた。
どうしても、どうしても気になってしまって聞いてみた。
「先生は、彼女に振られたばっかりなんですか?」
先生が口に含んだばかりの炭酸が明後日の方向にぶちまけられた。顔にかからなくて本当に良かったと思う。
「お、お前は何を言い出すんだ!」
「いやだってそんな顔するなんてそのくらいしか無いですよね?」
だって先生自虐的な笑い方してたもん。誰だって気になるでしょ。
「ちげーよ。……振られたのは変わらないけどな」
「やっぱり振られたんだ」
なら違くはないと思うんだけど?
「高校の頃の話だ。仲が良かった幼馴染みに告白されてな。俺は……逃げたんだ。あいつのことを幼馴染みとしか思って無かったから、怖くて逃げた。今思えば俺が最低なやつだっていうのは分かるよ。折角勇気を出して告白してくれたのになにも答えないでずっと逃げ続けてるんだから」
「その人は、今どうしてるんですか?」
「さあな。そろそろ帰ってくるらしいっていうのは知ってるけど」
今の私たちによく似ている。私は私の都合ばかりで巧のことを何も考えてなかった。知ろうともしなかった。
「お前は後悔しないようにしろよ」
先生の声がやけに明瞭に響いた。私の頭に手をのせて、そのままドアの方に向かう。
先生は、後悔しているんだろうか。
私は、後悔なんてしたくない。
確かに巧は嫌いなやつだけど、いや大嫌いなやつだけど、ちゃんと知ってからでも答えを返すのは遅くないと思う。
だから私は――。
思いきり自分の頬を叩いた。
痛い。予想はしてたけどかなり痛い。絶対赤くなってるだろうな。
先生が私を振り返った。
「か、茅野? なにしてんだ?」
「活を入れたんです。先生も入れますか?」
なんか逃げ腰になってるけど、先生も入れた方が良いと思うんだ。私は逃げないって決めたから。
「先生、私は逃げませんよ。巧から、自分から。後でみっともなく後悔なんてしたくないから」
先生の目の前に指を突きつけてやる。私にこれを分からせたのは先生なんだから、逃げるのなんて認めない。
「だから、先生も立ち向かって下さい。今さら、なんて思うかも知れないですけど。今、やらないでどうするんですか?」
先生は指を突きつけられて驚いたみたいだけど、すぐに考え込んだ。
しばらく時間だけが流れた。
いやちょっと早くして? 腕疲れてきたんだけど。流石にずっとこれは辛いんだよ?
「分かった、俺もやろう。どうせならお前の勢いに乗ってやる」
やっと決めましたか。
「決断が遅いですよ」
でもまあこれで良い感じかな。腕を下ろして先生を見ると、睨まれていた。正確に言えば、ジト目?
「なんですか」
「あのな、お前には感謝してるよ。背中を思いっきり押されたことにな。だけどさぁ、何で上から目線なんだよ」
上から目線、だったな。まあいっか。
「先生、細かいことは気にしちゃ駄目です」
「気にしろよ……。はあ」
およ? 何で先生はため息なんてついてるんだ? ため息をつくと幸福が逃げるって噂を先生は知らないのかな。
「それはおいといて。取り敢えず! けっせんじゃああぁぁ!!」
橙色の空に私の大きな声と先生の呆れた声が響いた。
このあとに先生に怒られたのは言うまでもない。
はい、ちょっと飛びます。何がってこの世界の時間がです。瑠璃菜ちゃんがじっくりと考えるための時間を作るために!
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