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5:自覚した(巧視点)

 巧の回です。ここは絶対必要かなって。

 ドアを閉めてなるべくゆっくりと、余裕のあるように降りる。こっちの足音なんて聞こえてないだろうけど、それでも。

 瑠瑠も恥ずかしかったかもしれないけど一番恥ずかしいのは俺なんだぞ。告白したんだから。


 階段を降り終わったら途端に早足になった。自分でも分かるし、傍目から見たら絶対おかしいって分かるのに足は止められない。だって好きな人に告白したらどうしたら良いのかって散々悩まれたんだぞ? しかも目の前で。これでテンションが上がらない方がおかしい。


 ああくそっ! 本当に反則だろあんなの! 顔を真っ赤に染めて潤んだ眼で俺を見て。どんな精神攻撃だって思ったよ。


「巧」


 後ろを振り返ると片手に本を持った武志がいた。この時間帯に武志がいるような場所と言ったら図書室か。俺はいつの間にこんなところまで来ていたんだ。

「なんか用か?」

「用がなきゃ話しかけたら駄目なのかよ」

 面倒臭い奴だ、チャラ男の癖に。


「で、キスでもしたのか?」

「ぶふっ!」

「図星か」


 冷静に分析してんじゃねーよこの馬鹿!! つーか何で分かるんだよ! 確かに俺は普通、では無かったけども!

「ほんとに何で分かるんだよ……」


 目の前で笑ってる武志の顔に泥を投げてやりてぇ……!! ふざけてっと本気で潰すからな。


「んじゃ、愚痴聞いてやるよ」


 人の返事も聞かずに勝手に歩いていく馬鹿を無視しようかと思ったが止めた。恋愛に関してはこいつの右に出るものは居ないからだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 取り敢えず屋上であったこと、いややったことを説明した。呆れられた。それはそうだな。彼女でもない相手にしかも告白すらする前にキスするとか何やってんだろうな俺。


「なんつーか、アホだな」


 図書室の隅の隅は実は談話室。有り得ないくらいに設備が良い。なんと防音、壁付き、鍵付きの個室である。なので身も蓋もない会話を憚られることなく大声でしていた。かなりの音量だが本当に誰も苦情を言わないんだな。

 半信半疑な俺のために武志がドラ○もんの曲を熱唱するくらいだ。因みに武志は壊滅的に歌が下手。これがどれ程の苦痛かきっと歌が下手な人は分かるだろう。俺には分からないが。

 話を戻そう。


「アホとはなんだ」


 俺は一瞬耳を疑ったよ。親友にこんな言葉を言われるなんて。成績は俺の方が良いのに何を言うんだこいつは。談話室の中央にある机に肘をついて話を聞き出しに来る。前傾姿勢止めて背もたれに寄りかかれ。


「いやだってアホだろ。嫌われてるのに更に嫌われるようなことしてどうすんだ」

「瑠瑠が俺を嫌ってるとか有り得ない」

「それが有り得るんだな、これが」


 嘘だろ。瑠瑠が俺のこと嫌いだなんて絶対に無い。世界が滅亡したとしても有り得ない。そんな俺の心情を把握したのか武志はため息を付きながら俺に聞いてきた。


「その自信はどこから来んだよ。瑠璃菜がお前を嫌ってないっていう根拠は?」


「それが瑠瑠だからだ。それ以外に理由など無い」


 その問いに俺が自信満々に答えたら何故か憐れみの視線を向けられた。何故だ。ため息も付いてきた。そんなオプションよりも瑠瑠が良い。


「逆に瑠瑠が俺を嫌ってるっていう根拠は?」

「ある」

「言ってみろ」


「お前さ、瑠璃菜が目の前で自分に笑いかけてくれた思い出ってあるか? 自分にじゃなくても良い。目の前で笑った顔を、見たことがあるか?」


「そんなものあるに決まって……」


 ……。

 思い出せない。何でだ? いやだって瑠瑠は俺のことを好きなはず、だよな? じゃあなんで、俺に向けて笑った記憶が無いんだ? 俺のそばに居たときに笑った記憶が無いんだ?


「無かっただろ」


 親友の声が、酷く低くて死神みたいだ。

 武志、お前は何を知ってるんだ?


「どういうことなんだ?」


 自分でもビックリするくらい掠れた声が出た。こんな弱々しい声を聞いたのは生まれて初めてだ。


「それが瑠璃菜がお前のことを好きでは無いっていう根拠だ。どんな感情でも良い。好意を抱いているのなら、嫌ってはいないのなら少なからず笑ったことがあるはずだ。なのにお前にはそれがない。さすがにどういう意味か解るよな?」


 瑠瑠が、俺のことを好きでは無い。嫌われてるのか? いや、それは有り得ない。でも武志が言うことだぞ。大多数の無関係な人間が言うことは信じられないが、武志の言うことなら信じられる。じゃあやっぱり瑠瑠は俺のことが……。

 俺が一つの答えを見つけたとき、目の前で珈琲を飲んでいるようなこいつは俺に対して嘘は言わない。武志の顔を見ていたらふとここで一つの疑問が鎌首を持ち上げてきた。


「信じがたい話だけど仮に瑠瑠が俺のことを好きでは無いのなら、お前はどうやってそれを知ったんだ?」


「そんなの見てりゃ分かんだろ」


 見てれば分かる→よく見てる→まさか……!


「おいこらお前。瑠瑠に何した? 事と次第によってはコロス」

「何もしてないって! いい加減にしろよこの恋愛脳!!」

 いつの間にか武志の襟を掴んでいた。危ない危ない。だが止めない。


「誉め言葉をどうもありがとう。で、何かしたわけでは無いなら何で瑠瑠を見てんだオイ」


「だあーーっ! 皮肉だボケッ! お前が瑠璃菜好きだっていうからいざというときの為に情報集めてたんだろうが! 恥ずかしいこと言わせんな馬鹿!」


 思わず動きが止まった。理由に納得いかなかったとかそういうことではなく、ただ純粋に思っただけだ。俺は俯きながらゆっくり手を離して椅子に崩れるように座ると、思いっきり引いた。


「武志……。おまえにはそっちの趣味があったんだな。分かってやれなくて、すまん……。その思いには答えられない。俺には、瑠璃菜がいるから……」


「ちっげーよ!! アホか! 馬鹿か! お前の頭の中には紙屑でも詰まってるのか!?」


 じゃあなんなんだよ。


「俺は! お前の友人だろうが!」


 ちょっと胸に来た。「親友と書いて悪友と読む類いのな!」とか言ってる声も聞こえてきたが、やはり嬉しいものは嬉しい。

 言葉の無くなった俺を見て武志はニヤリと笑った。


「じゃ、瑠璃菜を落とすための作戦会議でもするか」


 やっと自覚した巧はこのあとどうなるんでしょうかって感じです。次回は一応少年たちの回かな。


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