4:苦しいよ(瑠璃菜視点)
今日二回目の投稿です。一個前を見ていない人は是非どうぞ!!
屋上は本来なら立ち入り禁止のはずだけど後付けの鍵が錆び付いていて簡単に扉が開くことを誰もが知っている。先生たちも事件を起こさないならと黙認してくれていて、何代か前の先輩たちが使用する際のルールまで決めていた。壁に掛けられている木の札を裏返すこと。某有名刑事ドラマみたいだと思う。
とにかく伝えたいのは、二人きりで話すのにはぴったりな場所だということだ。
そして、屋上につく。はっきり言って逃げたい。今すぐ逃げたい。でもここで逃げたらずっと捕まったままだから。
屋上の扉を後ろ手に閉めると、大きな音が響いて風にのって消えていった。まるで、死刑執行の合図みたい。そんなことを考えていれば屋上の中心近くまで進んでいた暴君が振り返った。
「ほんとにさ、手こずらせないでくれる?」
「……」
ああ、始まった。この暴君の、渡瀬巧の本当の姿が。私の大嫌いな幼馴染みが化けの皮を剥がした。
「つーかなに? 俺から逃げようとしてた?」
能ある鷹は爪を隠すというがこの男は違う。この男を言い表すなら能ある鷹は姿を隠す。本当の姿なんて誰にも見せない。
私に向かって歩いてくる暴君は獰猛な笑みを浮かべていた。獲物を狙う目、積極的に奪いにいく行動力。どれもが他の生徒たちからしたらあり得ないだろう。でも、これが本当の渡瀬巧。私と空人だけが知っている素の顔だ。
「そんなこと、させるわけねーだろうが」
またそうやって近づいてきて怒鳴られるの、か…………?
歪められた端正な顔が近づいてきて呆然としてる私の口に暖かくて柔らかいものがあたる。
え、は? なに? 口に柔らかいものが、あたっ、て?
「んっ、ふ、ぁう、ん……っ」
いきなりのことに思わず足から力が抜けて地面へと落ちそうになる。まるで電気がはしったみたいだ。腰を強く抱き締められながら頭に靄がかかったようになにも考えられなくなって、熱い吐息が口の隙間から漏れた。巧はそれすらも呑み込もうとして貪るようにキスを続ける。
離れたいのに体が言うことを聞かなくて。衝動的に体を捩っても捕らえられ、角度を変えてキスを続けられる。
息が、続かない。そう思ったとき、急に口を離された。腰の拘束も緩んで巧の体に寄りかかっていた私は今度こそ地面へとずり落ちた。すぐ後ろにあった冷たいドアを支えにして息を整えたい。朧気な視界の中には巧の足が見える。まだ息が満足にできなくて、荒い息を繰り返す。キス、をされたんだよね? だってあんなに顔が近くて柔らかいものが私の唇に当たってて、信じられないくらい。巧の息も私の息も、腰に回された腕だって熱かった。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「な、んでキス、なんて……?」
まだ戻らない呼吸の合間に言葉をつぎ込む。何でって訪ねても答えが返ってくるとは限らないけどどうしても聞きたかった。もしこれが嫌がらせだって言ってくれればきっと私の心は楽になるから。
立ったままだった巧は漸く腰を下ろした。
「……なぁ、どうだった?」
「どうだったって、何が?」
「俺とのキス」
「……ッ!」
少しずつ熱が引いてきたはずの頬が再び真っ赤に染まるのが分かった。顔が、あげれない。こんな直球に言われるなんて……! 否定したかったのに! やっぱりキスしたんだぁあ!!
そんなことを考えていたら、不意に小さな歯軋りの音が聞こえた。
「返事くらいくれてもいいんじゃねぇの?」
「……ッ!!」
鼓膜がいつもよりも低い声で震わされてすごくぞわぞわする。はやく答えなきゃいけないのに言葉が出てこなくて、巧がイライラしてるのも伝わってくる。とにかく、言葉にしなきゃ。
「苦し、かった」
「……そうじゃないだろ」
息ができなくてすごく苦しかったからそう言ったんだけどこの答えはどうやらおきに召さなかったようだ。
何かを堪えてるような声。やっぱり怒ってるんだろうな。
「瑠瑠。俺と付き合え」
ああうんやっぱりそういきなり何言ってるの?
「いきなり何言ってるの?」
「付き合えって言った。要するに瑠瑠に告白した」
私声に出してた!? じゃなくて、え? 今告白って言った? いや、違うよね!? だって巧がそんなことを言うなんて天地がひっくり返ってもあり得ないでしょ!
思わず俯いてた顔を上げてしまう。目の前に奇妙な笑みを浮かべた巧がいる。
「やっと顔を上げたな。瑠瑠の癖にいつまでも俯いてるなんてさ、酷いことだと思わないか?」
いや思わないけど!
……でも何でそんな顔してるの?
いつも誰かに見せてるような顔ではなく、私たちに見せるような意地の悪い笑みを浮かべた顔でもなく、ちょっとだけ自虐的な笑いかたで。そんな顔で笑うなんて。
「……卑怯だよ」
私が思わず呟いたその声は届かなかったみたいだ。すでに立ち上がってるのにギリギリ自分が聞き取れるような声なら届くはずもない。
「少し時間をやるから考えて答え出せ」
最後まで横暴にそう言って私を横にどかして去っていった。後に残された私には、体に残った熱と戸惑いと得たいの知れないモヤモヤとした気持ちが残っていた。
短編とは違った展開になりました!
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