2:俺の世界の中心は(巧視点)
前回の続きを巧視点で。
スマホを見ながら思わず手を固く握りしめてしまう。映っているのは先程はしゃいでいた瑠瑠の姿。うまい具合に男三人が入らないですんだ。
だけどそれどころじゃない。どうやら瑠瑠は今回も俺に会いたくないようだ。何かした覚えもないのにずっと嫌がられている。いったい何がしたいのか分からない。もしかして照れ隠しなんだろうか。
「……………………へぇ、面白いことするじゃねぇか。覚悟しとけよ瑠瑠」
照れ隠しをするのは良いが、さすがにこうも嫌がられると苛ついてくる。ああくそ、早く俺のものにしたい。絶対に誰にも触れさせたくない。
「お、渡瀬か? 何してるんだ? もう授業が始まるぞ」
階段の裏に隠れていたつもりだったが見つかってしまった。以外とこの先生は侮れないのだ。
「あ、はい。なかなか振り向いてくれない可愛い彼女について考えていて。まだ片思いなんですけどね」
「ああ、茅野のことか。お前も大変だな、応援してるから頑張れよ?」
近づいてきた先生に振り向く為に他人向けの顔をつくる。わざわざこんなことをするなんて面倒だけど先生たちや周りの生徒からの信頼はあった方が良い。それにこの先生は男性だしとてもいい人だ。確か瑠瑠の担任のはず。優しい人でよかった。
「ええ、勿論です。絶対に俺のものにします」
だからつい気が緩む。口角が少し上がりすぎたか? ばれていたりはしないよな。全く先生とはいえ他人の前だっていうのに気が緩みすぎだ。
くそっ! それもこれも全て瑠瑠のせいだ。瑠瑠があのときあんな風に笑うから。
教室に着いたけどまともに授業を受けれそうにない。一人だったら確実に顔が赤いままだなこれは。全部全部瑠瑠のせいだ。
◇◇◇◇◇◇
今日は早めに授業が終わった。ホームルームだって早く終われば良いのに。瑠瑠に早く会いたい。結局授業中も瑠瑠のことを考えて先生に注意された。そういえば授業中の瑠瑠はどんな感じなのか。まだまだ知らないことが多すぎて困る。そんなとき、委員長の武下武志が声をかけてきた。
「巧。今日は特に連絡事項とかもないしお前先帰って良いぞ」
「は? 何でだよ。つかそれ言うのは普通先生だろうが」
「おいおい、そんなこと言って良いのか? 本当は今すぐ彼女のところにいきたい癖にさ」
反論しようと思ったけどやめた。武志の言ってることは正しいし、瑠瑠のことが好きだと分かっていて言うのだからその行為を受け取らないのは武志に悪い。何より瑠瑠に早く会いたい。
礼を言って足早に教室を後にする。その勢いのまま角を曲がると人影にぶつかった。
「きゃっ……!」
「わっ……!」
上履きの色が赤いから三年生だな。まず確認したのはそこだった。女子生徒だというのは声で判ったし。このあとに起こることだって大体は予想がつく。面倒なことこの上ない。
「あ、巧くん!? ごめんね、大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫ですよ。先輩はお怪我とかありませんか?」
第一声が俺の名前を呼ぶことか。本当に嫌悪感しか出てこない。一刻も早く瑠瑠のところに行きたいのに余計な時間だ。他人用の笑顔で手を差し伸べてやればすぐさま顔を赤くしてころりと堕ちる。
「う、うん。私は平気。……それで、その、ちょっとお話があるんだけど今良いかな?」
赤い顔のまま下から目線で訪ねてくる。男がどういう動作に弱いのか熟知している顔だ。こんな女が本当に嫌い。俺は瑠瑠が好きだって公言してるのに言い寄ってきて挙げ句の果てに瑠瑠に怪我を負わせる。
今だって余計な時間を取られてるわけだし断っても良いんだろうけど、女はネットワークが広いからな。少しでも気を緩めれば喰われかねない。
「良いですよ」
だから、さっさと終わらせろ。
連れてこられたのは社会科準備室だ。普段は出入り不可能なはずなのになぜここの鍵を持っているのか。もう嫌な想像しか出てこない。
「あ、あのね! 渡瀬巧くん、私はキミが好きです。付き合ってもらえないかな?」
片手を頬の辺りに、もう一方の手を軽く前に出して再び上目遣いで見てくる。どちらの手もいわゆる萌え袖ではっきり言って変だ。
「すみません。お断りします」
「え、どうして? 私の何が悪いの!? 言われたところはちゃんと直すし色々頑張るよ! だから……!」
ああ、面倒だな。これだから女は。物分かりのいい人ならまだ良いけどこんな風にすがってくる女が一番面倒なんだ。まさか自分が振られるとは思っていないところがまた滑稽だ。
確かに大多数の男性からすれば魅力的な女性なのだろう。自分達よりも小さな背丈、完璧な化粧、短く折ったスカートにベージュのカーディガン。そしてそれらの装飾を使いこなす能力と圧倒的な経験値。でもそんなもの、瑠瑠の足元になんて遠く及ばない。
「すみません、俺は瑠瑠が好きなので」
失礼しますと声かけをして準備室を出ていく。しかし、後ろからの声が俺を呼び止めた。
「あの子が、いるから……?」
「っ!」
「あの子がいなかったら……!」
乾いた音が響く。
打たれた頬に手を添えて、信じられないような顔で俺を見る。吐き気がするけどそれ以上に怒りが沸いてくる。
はだけている襟首を掴んで顔を近づけ、警告する。
「瑠瑠に近づくな。瑠瑠に何かしようとしたらお前を破滅させてやる。直接的な嫌がらせも間接的な嫌がらせもお前が関わっている可能性があればすぐにでも終わらせてやる。顔は覚えた。忘れないからな」
強く突き飛ばして今度こそ準備室を出る。
急がないと瑠瑠が帰ってしまう。瑠瑠の教室に着いたとき、ホームルームは始まったばかりだった。良かった。
教室の後ろのドアの前に着いて少しだけ待つと空人がドアを開けた。
是非ともブクマとポイントを!! 知り合いの方にもガンガン進めてください!!