10:大嫌いだけど大好き(瑠璃奈視点)
本日二回目の投稿。予定よりも早く終わったので投稿します。
もうどのくらい待ったのか分からない。分かるのは、すでに空がオレンジ色になっているってことくらい。
「あーあ。シリアスなんてキャラじゃ無いんだけどな、私」
ここ数日、ずっとあの人を見ていた。先生たちから慕われていて女子生徒から人気があって、男子生徒とは年頃の男の子らしい会話をする。
「……初めて知ったな、そんなこと」
その言葉がフラグだったのか引き金を引いたのか、はたまた何も関係ないのか。そのどれにしても、そのあとに階段をかけ上がる乱雑な足音がしたのに間違いはない。
一瞬、誰の足音かと思ったけど。
扉が開かれた音で、私は振り向いた。
昇降口からこの、私が告白された屋上までは距離がある。だからこそこの人は、巧は汗をかいているのだろう。
荷物は何も持っていない。学校指定のストライプの半袖シャツは汗で肌についている。顔も赤くて、どうしたらこんな風になるのかは分からないくらい。
「……遅かったね」
なるべく余裕のあるように見せかける。ほんの少しだけ、口角を上げて。
「呼んだのは、返事のため?」
「そうだよ。そしてそれを踏まえて言うね」
一度大きく深呼吸。ここが山場、そう自分に言い聞かせて暴君と目を合わせる。
「私は、あなたが嫌いだよ」
巧が息を呑んだのが分かる。瞳に悲しみのような感情が見える。そんなことを思っても、止めないし止められない。
「ずっとそう思ってた。だって私たちにとっての暴君だもの。自由なんて少ししかなくて、学校だって本当は別々が良かったのに。側に居られるのも嫌で。部活だって、あなたが怖くて入れなかった」
追い討ちをかけるように。傷口を抉るように。私の受けた苦痛の一割でも伝われば良いと思った。
「昔も今も、何一つ変わらないよ」
「……確かに、俺はお前に酷いことをした。でも本当は傷つけるつもりなん――
「どの口がそれを言うの?」
なに、それ。何それ。
「本当は傷つけるつもりなんて無かった? そんなことを言う前に今までのことを謝るのが先じゃないの? 誰のせいで私が辛い思いをしてきたと思ってるの!? 幼稚園の時も! 小学生の時も!」
「あなたのせいで! どれだけ私が我慢してきたと思ってるの!?」
いじめを受けたこともあった。誰かにばれないように派手なことじゃなくて地味な嫌がらせ。
親に相談しても、「巧くんに」なんて言われるだけだから相談することすら出来なかった。
喉が痛い。一気に喋ったからだ。顔を上げられない。巧の顔を、見たくない。私の顔を、見られたくない。
どうして、涙が出てくるの?
「瑠瑠」
「っ! こないで!!」
名前を呼ばれて、その直後に抱き締められた。離れて欲しいのに。突き飛ばせなくて。
「瑠瑠」
私を呼ぶ声はどこまでも暖かくて優しくて甘えたくなる。抱き締められていることも嫌だとは思わなくて、心の中がぐちゃぐちゃだ。涙が止まらない。
「瑠瑠。俺はお前に酷いことをした。そのせいで瑠瑠が苦しい思いをしたり辛い思いをしてきたのも、表面上は分かってるつもりだ。瑠瑠に憎まれてもしょうがないと思う」
「それでも俺は瑠瑠が好きだ。どれだけ憎まれても、疎ましがられても、嫌われていても、怨まれていても。俺は瑠瑠を手放せない。どこまで逃げても逃がさない」
「なぁ、瑠瑠。好きだよ。少しでも可能性があるなら俺のことを選んでくれ。じゃないと瑠瑠が音を上げるまで鬼ごっこをするはめになる」
「……なに、それ。意味わかんない」
私、嬉しいのかな。選んでもらえて嬉しいのかな。選ぶわけないって言えない。この気持ちを否定できない。
「わ、たしは」
「うん」
「たくみのことなんて、大嫌い」
「……うん」
傷ついたかな、でも顔は見えないや。私を抱き締めてるその腕が全部言えって言ってるみたいで全部全部溢れてく。なのに涙も私の気持ちも枯れることがない。
「でも、いま、いなくなられちゃうのはやだ。大嫌いだけど一緒に、いてほしいって思う。だから、私のそばにいて……! どこかに行っちゃわないで……!」
「約束する。必ず一緒にいてやる。だから思う存分に泣け」
涙が止まらない。いつまでもいつまでも流れてきて、やがて巧の温もりを感じながら静かな眠りへと落ちた。
◇◇◇◇◇◇
「ん、あれ? ここ……」
目を開けたら真っ白な天井が見えた。ちょっとまだ現状を把握できてないけども今があの台詞を言うチャンスだっていうのは分かる!
「ここはどこ? 私は誰?」
……なにやってんだろ私。でもなんか楽しかった。誰かに見られたら切腹もんだなこれ。
「なにやってんだ瑠瑠」
「へっ? なんでここにっ!?」
白いカーテンを開けて現れたのはいまいましき幼馴染み。私はこいつに連れ込まれたのかっ! 何かされてないよね!? てか、聞かれてたっ!? うわーん切腹ぅ!
「お前を殺して私も死ぬ!!」
「いきなりなんだどうした!」
力と力の押し合いになる。勝敗なんてとっくに決まってるけどそれでも殺らずにはいられない。間違えたやらずにはだ。
「お前な! 仮にも彼氏にたいしてその対応はどうなんだよ!?」
「彼氏?」
「力抜くな馬鹿!」
固まった。そして我に返った。そうだ、泣きながらあんな子供みたいにそばにいてとねだったんだった。
「あ、れはその」
顔が真っ赤になってる気がする。どうしよ。え、だってあんなこと言って。恥ずかしすぎる。
力を抜いて押し倒される形になった私は、体を反転させて顔を見せないようにする。そうでもしなきゃ耐えられない。
「瑠瑠。結局俺は彼氏として認められた?」
「認めてなんてないもん!」
「それは残念。でもまあ、もう逃がさないし?」
「ううー」
後ろから抱き締めてくる腕が熱い。
耳に囁かれる声が熱い。
自分の体と心が熱い。
でも、だからこそ凄く安心する。
自分がここにいるという実感が持てる。
◇◇◇◇◇◇
これは恋の物語。熱い心が熱を生む。大嫌いだけど大好きな不器用な私たちの物語。
~終~
これにて本編終了。時間ができましたらアフター書きます。
これとは別に、恋愛ものを書いてるのでそちらも良ければお願いします。皆様とまたお会いできますよう。




