1:暴君からの命令(瑠璃菜視点)
幼稚園の頃からの一途ないじめっこの恋物語。いじめられっこの視点で書いてみました。
一応一桁台で終了の予定。
とある夏の物語。眩しい陽射しの中で私は――。
◇◇◇◇◇◇
「瑠瑠」
廊下を歩いていたら名前を呼ばれた。いや名前って言って良いのか? とにかくそうやって私を呼ぶ人は一人しかいない。逃げても追いかけてくるから止まるしか無いんだけどあまり止まりたくない。わざとゆっくり振り返って予想通りの相手を見る。
女子の視線を集めながら私のところまで来るその男は相変わらずきらきらスマイルを貼り付けていた。名前は渡瀬巧。私のひとつ年上で幼稚園の頃からのいじめっ子である。因みに私はこの男が大嫌いだ。
「いつも言いますけど私の名前は瑠璃菜です」
わざわざ変に省略しないで欲しいといつも言っているのに巧は全く聞き入れやしないんだ。そんな親しそうにしてるから変な噂ができるんだよ。妬まれ、嫉妬の目線を向けられるのは私なんだぞ。
「うん、知ってる」
そう言いながらやけに輝かしい笑顔で私に近付いてくる。一メートルは間をとっておいたのに。一歩ずつ詰められるのに対して一歩ずつ下がっていくと、とうとう壁にぶつかった。
まずい、これは……逃げれない。そのまま顔の横に手をつかれて逃げ道を塞がれる。壁ドンだねこれ。無駄に顔が良いだけに人の視線が集まるよ。ほーら後ろを見てごらん。女子のあり得ないっていう表情と私に嫉妬の目線が突き刺さる光景を。こいつが後ろを見たら何でもないというのを装うんだろうけど。
私がそんな現実逃避をしている間にどうやら暴君はご立腹となったらしい。私にだけ見えるように額に青筋をつくると耳に囁いた。
「ね、瑠瑠。今日の放課後屋上に来て。拒否権はないから」
「「「キャーーーーー!!!」」」
耳に温かい風が当たってこそばゆい。その余韻に浸る暇もなく女子の悲鳴が廊下に響く。まあ余韻に浸りたくなんてないが。こんな男のどこがいいんだか。確かに顔は良いよ。認めようじゃないか、なんか悔しいけど。でも性格がねぇ。それにしても今日はいつになく非難の目線が多いと思ったら三年生の女子がいる。ここ、一年生の階なのに。
「忘れないでね」
そう言って去っていく巧の背中を見ながら私はため息と悪態を着く。悪態は心のなかで。何が忘れないでねだ! この腹黒男が! あんたの性で悪女とか呼ばれるようになったんだからね!
巧が去っていった方向とは反対から突然慌ただしい足音が聞こえた。
「茅野さん大丈夫だった!?」
声をかけてくれたのは私の癒しである田代侑哉くん。童顔で優しくって甘いものが大好きっていう正に癒し系、天使。正統派イケメンと言っても良いだろう。というかそうに違いない。なんといっても笑顔が可愛いのさ。男の子だけど女の子みたいで気をつけないと演劇部に捕まるはずだと思う。過去にそんな事件が起こったそうな。
「うん、大丈夫だよー。それよりもこれからの周りの視線が怖い。私、いじめられたりとかされないよね?」
「そ、そこまで悲観的にならなくても……。それにいざとなったら渡瀬先輩がなんとかしてくれるよ」
「あはは、あの人に頼りたくないけどその面では期待しておこうかな。元はといえばあの人が悪いし」
そうそう、あの人が悪いんだからあの人に全部押し付けちゃえ! 巻き込まれたのは私の方なんだから。でも本当に周りの視線が痛い。
「勿論俺だって助けるから!!」
「ありがとー」
面と向かって助けるなんて言ってくれてるのは田代くんしかいないんだよね。本当に優しい。癒しだわー、大好き。
「俺だって助けるぞ」
「おー、王子様ポジション」
お、また聞いたことのある声が。何でこんな時間にここにいるんだろうか。
「やっほ、空人と櫂人」
「おう」
「やっほー、瑠璃ちゃん」
会話に参加してきたのは同じクラスの渡瀬空人と皆川櫂人の二人。あれ、でも遅弁してるのではなかったか?
「飯食べ終わっちゃってさ」
「買いに行くのに連れ回されてまーす」
成る程そういう。そうそう空人と言えばあの渡瀬巧の弟で私の幼馴染みなんだよ。顔面偏差値は兄と同じで高いと思う。身内ではないけど長年そばで見てきた私が贔屓目から見ても、格好いいかなって思うから。私? どうせ私は地味ですよ! あ、涙出てきちゃった。因みに私と同い年。だから弟なんだ。言わずもがなじゃなかったね。これでも結構仲良しなんだよ。ご近所さんだし圧政を受けてた民なので。誰にとかは聞かないでくださいな?
察して欲しいな?
皆川櫂人は幼稚園から同じクラスの腐れ縁ってやつですな。全体的にぽわーってしていて、得たいが知れないと言いますか底が知れないと言いますか。ともかく怒らせると怖いやつです。あ、私に対して怒ったんじゃないよ?
私のために怒ってくれたんだよ? そこは間違えないようにっ! て、誰に言ってんだろこれ。なんか悲しくなってきた。
「なに、助けてくれるの? なら私と一緒にあの人の「「無理」」所へ行きません? 無理言うの速いよこんちきしょー」
無理だって分かってたけどね、分かってたんだけどねっ! だって嫌なんだもん行きたくないんだもんっ!
「そんな殺生な! 少しぐらいええやんか!」
「嫌だよ。つか、キャラ崩れてんぞ」
「っ!! ……あら、そんなことありませんわよ?」
「お、瑠璃ちゃんがさらに変になったー」
「うん、なんか更に崩れてる気がする」
みんな辛辣! 天使な田代くんまでっ!
「逃げても無駄だと思うぞ? 兄貴お前んとこ特攻するだろ」
「あ、なんか分かる気が。あの人なんか凄いよね」
「あの執着心ちょっと怖い」
何で盛り上がってんだああああ!!! 嫌だって言ってるやんか! 助けてよ! ねぇ助けて!? お願い!! 泣くよ!? ねえ!?
「ま、逃げることになら手を貸しても良いけど?」
「ふぇ?」
え、なに? 今なんて? 一瞬だけこちらに視線を向けてすぐにそらした空人の顔は少し赤い。風邪か? まあ、それはいい。そんなことよりも何て言った!?
もはや聞き間違えかと思って空人を問いただす瑠璃菜。いや、問いただすという表現は正しくないかも知れない。襟首を掴んで顔を近づけているので恐喝しているようにも見える。
空人も巧程ではないが人気があるのでこんな場面を見た生徒たちから噂が流れて瑠璃菜が悪女なんて呼ばれるようになるのだ。そして今回も恐喝しているという噂が流れて悪女という二つ名は悪い噂とともに更に広まるのだ。責任の一端は巧にもあるかもしれないがある意味自業自得である。
「いや、だから逃げることになら手を貸しても良いって……」
「やたっ!」
なにやら後半がもごもごしてうまく聞こえなかったけどそんなの関係なしっ! 助けてくれるって! あの魔の手から逃げることが出来るなんて!
幸せオーラを駄々漏れにしている瑠璃菜がはしゃいでいると六時間目の開始のチャイムが鳴った。
「やばっ!」
「次なんだっけ?」
「あっと、科学じゃ……って何やってんだ瑠璃菜! いつまでも踊ってんな!」
「はーいっ!」
別に踊ってないけど!
「茅野さんテンション高すぎない?」
それほどでも!
「言っとくけど誉めて無いからね?」
がーん。なんか最近田代くんの私の扱いが雑になってきた気がするっ! さすがの私もショックだよ!?
ギリギリ教室に駆け込めたけど授業の準備をしてなかったからアウトだった。ショック!
読んでくださった方々ありがとうございます! これを始めて読む方にも短編で掲載していた時に読んでくださった方にも面白いと思って頂けるように頑張ります!
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