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9☆幼女相手に戦線布告とか止めてください!

 

 ヒロイン(りょく)をアデルバート殿下に取られた気がして、項垂れていた私だったが、いらないフラグは回避したということで、安心することにした。


 ソファーに腰掛けたローレンツ様のお隣に座る少女はよく見ると、私の席の後ろに座っていた人———あのプリントの束の配布を手伝ってくれた親切な人だ。



 私がじっーと見つめたせいか、こげ茶の髪の少女は私と目があうと微笑みかけてくれた。

 反射的に私も笑い返すと、ローレンツ様がその少女の紹介をしてくれた。



「二人とも、紹介しておこう。この人は俺の婚約者、エリザベス・シェーレンベルクだ。困ったことがあったら、彼女にも相談するといいよ」


 ローレンツ様の紹介を受けて、エリザベス様はソファーの上で軽く腰を折る。



「紹介されたエリザベス・シェーレンベルクですわ。小さなお二方、これからよろしくね」



 ローレンツ様の婚約者!?

 そうか、やっぱり中世ヨーロッパ的な世界だから、結婚年齢とかも早いし、貴族だと婚約者とかもいるのか。


 現代日本は恋愛結婚が基本で、中にはお見合いの人もいる感じだから、婚約者と言われても、いまいちピンとこない。


 特に結婚適齢期を迎えずに死んだ私には、尚更だ。


 ローレンツ様との仲も良さそうだし、ほぼ結婚予定みたいなものなのだろう。


 二人の関係性の一瞬考察したあと、席から立ち上がった。フェリクスも私を真似して、立ち上がる。



「こちらこそ、お世話になります」

「よ、よろしくお願いします」



 私とフェリクスは今日習った礼をとった。これは本日の二時間目のマナーの授業でやったことだ。


 いつ抜き打ちテストがあるか、わかったもんじゃない!


 多分、こういう日常生活における態度とかも特待生は見られてるんだろうな。


 これからも、日々気を引き締めていかないといけないな。



 私の内心を知ってか知らずか分からないが、ローレンツ様は「そんな、硬くなんなくていいよ」と言ってくる。


 いや、国の第一王子、高位貴族の子息と令嬢を前にして、硬くなるなと言うのは無理がある気がするんだが。


 前世の日本なら、皇族とか総理大臣とかとサシで話してるのと同じだ。


 ほら、隣に座ってるフェリクスなんか、手を膝の上で硬く握ってるよ。肩も上がってるし、絶対に手のひらには汗をかいてるに違いない。


 手を震わせるフェリクスを見て、可哀想になってくる。


 もしも、私がヒロインに転生しなかったら、少なくともこんな状況は発生していないはずだ。

 原作シナリオのアデルバート(第一王子)ルートでも、フェリクス(魔法学教師)ルートでも、彼らはお互いに登場することはない。


 過去の話が出てきても、これといった接点が上がることはなかった。


 フェリクスというキャラ自体、他ルートでのポジションは魔法学教師で、むしろ第二王子と親しい先生という感じであったし、一方の隠しキャラだったアデルバート殿下は、他ルートで出てくるのはほぼ影のかかった姿のみ。唯一出てきたエドゥアルド(第二王子)ルートでも、最後の方に少ししか出てこない。



 転生者(わたし)という存在の登場ゆえに、繋がることがなかったはずの縁がこれから生まれるのだ。


 今、緊張に打ち震えるフェリクスには酷であるかもしれないが、アデルバート殿下との縁も悪いものではない。


 ツテがあれば、いい就職先も見つかる可能性が高いということもある。

 そして何よりも、世界崩壊のフラグを折るにはフェリクス・ウェーバーの助力は不可欠であり、アデルバート殿下の信頼を得ていた方が、フラグを折る計画もたてやすくなるはずだ。



 何にせよ、今はフェリクスには頑張って緊張に耐えてもらうしかない。



「それは難しいわよ、ロー。貴方はアディと付き合いが長いから、そう言えるけど、アディは第一王子なんだから、緊張するのもしかたないわ。それに、アディは魅了魔法を発動させた状態でもない限り仏頂面なんだから、小さい子には怖いわ」



 ここに常識人がいたよ!

 まともな人に会うのって久しぶりじゃないか。


 だって、今まで学園であった主たる人は、トゲトゲしてた天才少年(現在ワンコ)、ブリザード振りまく第一王子(魅了魔法発動させる)、何考えてるかわかりづらい高位貴族、喧嘩を売ってくるご令嬢、魔法学(実技のみ、レポート関係が苦手)のすごい先輩……なんか、濃い人間ばかり。



「それに、二人とも昨日の食堂での行動は浅慮ですわ。あれでは、一部からいらない反感をこの二人が買いかねないですわ。きちんと根回しをしてからにして下さいませ」



 エリザベスさん、ほんとに常識人だぁ!

 私たちの立ち位置とかも考えてくれてる。


 マジ、エリザベス様、女神!


 心の中でエリザベスさんに手を合わせて、私は感謝する。フェリクスも肩を撫で下ろして安心している。これから何か貴族関係のことで困ったら、エリザベス様に頼ろ———



「今回のことで対立関係等が発生したら、私が馬鹿をやった者達に制裁を加えに行かないといけないのですわ」



 ……制裁?

 なんか、今、不穏な言葉が聞こえた気がするのは幻聴だろうか。

 目を思わずパチパチとさせ、エリザベス様を見てしまう。



 エリザベス様は可愛らしい少女といった感じの笑顔を浮かべて、私を見てくる。

 その笑顔の中には何処か獣を思わせる迫力がある。


 反射的に身体を引いた私はちらりと横目で隣のフェリクスを見る。彼も私と同じ心境なのか、目があった。


 二人で目を見合わせていると、エリザベス様は私達の様子を見て、うふふ、と口元に手を当てて笑っている。



 そんな私達の様子を見て、ローレンツ様は「ベスに逆らうと大変だからね、二人とも」とへらへらと笑っていた。


 アデルバート殿下も神妙な顔をして頷き、同意を示す。



 ……どうやら、エリザベス様は常識人(女神)だけど、貴族らしい強かさをお持ちのようだ。



 混沌とした空間が続く中、それは一つの音によって遮られた。コンコン、となるその音はドアの方から。


 ノックに応える様に、「入ってよい」とアデルバート殿下がドアに向かって話す。


 ドアはガチャリと音を立てることなく、静かに空いき、銀色の台車を引いたメイドさんみたいな人と、執事さんみたいな人が入室してきた。台車の上には銀色の半円球の覆いが乗っている。そして、部屋にはいい匂いが充満し始めた。



 ご飯の時間だ!



 ご飯が運ばれてきたことで、私の意識は完全にご飯に持っていかれた。

 5人分用意されているところをみると、私とフェリクスの分もあるようだ。


 私は背筋を伸ばし、給餌を始める人たちをワクワクしながら眺める。

 今日の食事は結構量があるらしく、ソファーがある方のローテブルじゃなくて、続き部屋にあるダイニングテーブル(すごく高そうなやつ……まぁ、本当にお高いものなのだろう)の方に用意された。


 隣の部屋からはいい匂いが漂ってくる。

 この匂いを私は知っている……まず思い浮かべるのは飴色に焦げた玉ねぎ、そして、フライパンで焼くときに聞こえるパチパチと鳴る音。


 そう、これは———



「ハンバーグという料理を用意した」



 アデルバート殿下はソファーから立ち上がると、私たちについてくるように促した。

 私はご飯の匂いにつられて、意気揚々と歩を進める。


 ハンバーグは私の好物の一つだ。

 しかも、この世界に転生してからはまともに肉を食べる機会もなかったし、ましてやミンチされた肉なんてお目にかかったことなんてなかった。


 緩む頬を抑えきれず、頬に片手をあてる。



 小さな体で椅子に座ろうとし、執事さんにひいてもらった椅子に座ろうとして気が付いた。


 これ、なんとか座れたとしても、座高が足りなくて食事がとれないパターンじゃないですか!?


 授業の時はいつも最前列で、かつ、椅子も大学の講義室にある感じの低めの椅子だから問題なかったけど、まさか、身長が低いことがここで仇になるとは!


 とりあえず、無駄かもしれないけど、座るだけ座ってみますか。



 私は椅子に座ってみたが、予想通り、座高が足りず、机の高さと自分の顎の位置が一致していた。

 私より頭一個分ぐらいフェリクスは問題ないようだ。ちっ、教卓前での自己紹介の時とは違い、お仲間ではなかったか。



 このままでは食事にありつけないから、とりあえずローレンツ様にアイコンタクトを送ってみることにした。

 ローレンツ様は私の訴えに気が付いてくれて、すぐにメイドさんに私の食べやすい高さの椅子の用意を頼んでくれた。


 ファミレスにあるようなお子様用のチャイルドシートみたいなものでもあるのだろうか。


 宙に浮く足を少しプラプラさせながら待っていると、正面に座るアデルバート殿下が席から立ち上がった。

 お手洗いにでも行くのかな、と思っていると、何故だか殿下は私の背後に来た。


 そして次の瞬間———



「わぁぁぁ!」

「暴れるでない」



 私は脇の下に手を差し込まれ、身体が宙に浮いていた。


 手足をパタパタと動かしてみるが、もちろんアデルバート殿下の腕はびくとも動かず、私は殿下の膝の上に着地をした。


 現在の状況を言い換えるなら、ヒロイン(幼女)が隠し攻略対象に膝抱っこされてる。


 ほら、きっと原作ならスチルになっててもおかしくないよ。私は遠い目をしながら、半ばあきらめた心境でアデルバート殿下におとなしく捕獲されることになった。

 向かいに見えるフェリクスには憐みの視線を送られている気もするが、気にしない、気にしない。



 私の席がアデルバート殿下のお膝の上に決まると、そうこうしているうちに私の食事は執事さんにより、殿下の前に殿下の食事と一緒に置かれた。

 用意されている間、いちおう一度はローレンツ様とエリザベス様に助けを求め、視線を送ったものの、笑ってごまかされてしまった。

 ごまかされたというよりは、この状況を楽しんでいる感は否めないが。


 四面楚歌の状況で、私の味方はゼロになった。


 はぁ、これではせっかくのハンバーグもおいしく頂けそうにない。



 食事を始め、ハンバーグを口に入れようとした時———



 バッタァーン!!!


 勢いよくドアが蹴破られた音がした。

 私はびくりと一瞬身体を震わせたが、すぐに警戒態勢へと入る。

 持っているナイフとフォークを皿の端に置き、ドアのある隣の部屋のある方向を見つめる。


 向かいに座るフェリクスは不安そうな様子で、震えている。



 一方のローレンツ様とエリザベス様は何故だか額に手を当てたり、頬に手を当てたりして、ため息をついている。

 顔が見えないが私の頭上にいるアデルバート殿下の口からもため息が漏れ出た。


 えっ、これシリアス展開じゃないんですか!?


 どすどすと足音が響き、その音源が姿を現した。




「見つけたぞ。お前がマリアだな!お前に決闘を申し込む!」



 銀髪の少々筋肉質の制服を着た男が、腰に手を当て立っていた。

 そして、その男はにやりと笑うと手に嵌めていた手袋を外すや否や、こちらに向かって投げつけてきた。


 って、その軌道じゃ、ハンバーグの上に着地する!


 私は急いで身を乗り出してハンバーグに着地寸前の手袋を横に叩き落として軌道を変えて叫んだ。



「幼女相手に宣戦布告とか止めてください!」




なんとか金曜日更新完了!

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