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5☆ 一先ずセキュリティー強化をしようと思う

ブックマークをつけて下さる方々、ありがとうございます。

 

「ベスター先生、訓練場の使用許可を下さい」


 私は放課後になって、担任であり魔法学の先生であるベスター先生の元でやってきていた。


 魔法学の授業の終わりーー私が測定器を壊した後ーーに先生は、若干表情筋が引きつったまま、「放課後に質問や相談があったら教務室にいつでも来てくださいね」と言っていたから、遠慮なく訪問させて頂いた。


 勿論、魔法の練習をする為ですよ。

 別に攻撃魔法が練習したいとかじゃない。

 ただ、自室のセキュリティーシステムの強化がしたいのだ。


 そう思った事の発端は昨日、入学式を終えて寮に戻った時のことだった。



 入学に関する手続きを終え寮に戻った所、ある事に気がついた。


 ものの配置が微妙にズレていたのだ。


 そのズレは普通の人なら気にしない程度のものかもしれないが、自分の領域に関しては神経質な私からしたら明らかにズレていたのだ。


 特に私物を入れていた引き出しの中。


 何かが取られた訳ではなかったが、明らかに侵入者がいたと引き出しを開けた瞬間に思った。


 この時、私は久々に危機感というものを覚えた。



 孤児院にいた半年間はプライバシーもあったものではなかった。自分の私物となる物が殆どなく、稼いだお金は神父様に預かって貰っていた点でもプライバシーの侵害行為が発生しえなかったのだ。


 大所帯での生活はプライバシーこそなかったが、セキュリティーの点から言えば、誰かしらが孤児院にいたことから心強いもので、ここ暫く“危機感”という単語とオサラバしていた。



 しかし、これからの生活は私一人なのだ。

 自分の身は自分で守るが当たり前の世界で生き抜くには、身体の小さい私には魔法が不可欠。



 ならば早速『結界』の張り方でも覚えるか、と思い現在教務室に押しかけ中です。



「マリアさん、因みにどんな魔法の練習をしたいのですか」

「このページに載ってる『結界』の魔法です」

「あっ、それなら安全ですね。でも、まだ基礎も教えていない新入生が一人で……しかもマリアさんですからね……」

「そ、そんな……どうしてもダメですか。自分の身を守るためなのです。理論は教科書を読んでキチンと理解しました」



 私は必死に上目遣いをしてみる。

 お願いですベスター先生、美幼女の上目遣いに負けて下さい!

 ダメだったら、最後は泣き落としでも何でもしてやる!



「うーん、私が訓練場に行ってしまうと教務室の方が(から)になってしまうからね……それに……」


 ベスター先生は両手を組み、困ったという仕草をしている。

 流石にアポなし突撃は無謀過ぎたか、と反省し引き下がろうと思った所、扉が開く音がした。



「クルトセンセー、レポートを提出しに来ましたー」


 間延びした声が教務室に響く。

 振り向くとそこには学生服を身に纏った長身の男性がいた。



「やっと来ましたかヘンリーさん」

「いやー、クルトセンセー怒んないで下さいよー」

「いえ、怒ってはいません。呆れてはいますがね」

「流石に昨年度のレポートを今提出するのはマズかったですか?」

「はい。実技で優秀な成績を出していなかったら留年させてます」

「やっぱ、そうっすよねー」


 すっかり蚊帳の外な私は取り敢えず黙ってなり行きを見守ることにした。


 二人の会話から分かったことは、学生服を着た人は見た目は大人だが、生徒で三年生であること、魔法学の実技は超が付くレベルで優秀だが、それ以外がイマイチな問題児ということがわかった。



「あれっ、もしかしてそこのちまい(・・・)の、昼休みに食堂で難癖つけられてたやつか?」


 私に気が付いた問題児ヘンリーさんは、私の前に(かが)んで目線を合わせてきた。



「おまえ、よく頑張ったな。あれは一種の洗礼みたいなもんだから」

「ヘンリーさん、それは何の話ですか?」

「いやー、食堂でオクタヴィア嬢とそのお取り巻きにこの子ともう一人ちまいのが絡まれてたんすよ。まぁ、結局アデルバート殿下とローレンツ様がとりなしてその場は収まったんすけどね」

「それは大変でしたね」


 ヘンリーさんは食堂での一連のやりとりの野次馬の一人だったらしい。

 つまり、最後のお手手を繋いで退出も見ていたということだ。

 恥ずかしい、恥ずかしすぎる!

 一人勝手に脳内を沸騰させ、俯いているとベスター先生の声が降ってきた。



「ヘンリーさん、このレポート提出の先延ばしの罰を受けてもらいましょう」

「げっ、何ですか? まさか、また大量の魔石作りですか、それは勘弁して下さい!」

「いえ、別に今は魔石は足りているので問題ありません」

「じゃー、何ですか?」

「この子の魔法練習の監督と指導を一年間お願いします」

「それでいいんですか?俺は別に毎日の訓練のついでだからいいんすけど」

「はい、私の手が空いてないので。マリアさんもそれで構いませんか」

「はい、ありがとうございます」


 なり行きで魔法を教えてくれる人をゲットできた。

 こんなにもご都合展開が繰り広げられるのは、ヒロイン効果(エフェクト)だろうか。

 でも、ヘンリーさんは攻略対象とかじゃないーーーとなると、ゲーム補正(ヒロインご都合展開)というやつなのか。


 悪役令嬢モノとかではよく自分に不利となるゲーム補正や原作シナリオの強制力から回避しようと奮闘しようとする話が有る。

 悪役令嬢(主人公)が不条理な運命に(あらが)おうとする姿はかっこよく、読んでいて応援したくなった。

 一方、ゲーム補正を利用して上手いこと立ち回る転生ヒロインに関しては頭にきたし、「早くざまぁされろ!」とか思っていた。


 しかし、いざ自分がヒロインとして転生しても正直傍迷惑でしかない。

 これが原作シナリオを熟知している人間なら、まだ上手く利用したり回避したりと取れる手段もあったかも知れないがーーー私は原作シナリオのことは知らない事が多すぎる。


 要するに平穏を求める私にとって、無駄に|身分が高い《フラグが立ったらめんどい》人達との交流原因となるヒロイン効果(エフェクト)及びゲーム補正は傍迷惑でしかない。

 ゲーム補正について検証したいところだが、原作シナリオを殆ど知らない状態では検証のしようがない。

 でも、学園入学(ゲーム開始時点)を9年早めたから、ゲーム補正や強制力はないと信じたい。


 それにヒロイン効果(エフェクト)も存在するならば何処まで効力が発揮されるのか見定める必要がある。

 よくある転生ヒロインのテンプレ設定として、『魅了魔法垂れ流し』で攻略対象を引っ掛けていくパターンがあるが……それは勘弁である。


 私としてはタラシになる予定はないから、魅了魔法垂れ流し状態とか迷惑なだけだ!



 いろいろ考えるとキリがないが、今後について考えるべきことは沢山ある。

 寮の自室に戻ったら情報整理をしようと頭の片隅に書き留め、目の前の現実に向き直った。



「じゃぁ、マリアちゃん行こうか。俺のことはヘンリー先輩って呼んでね。あと、敬語とかいらないから気楽にしてねー」

「わかりました」

「あっ、ヘンリーさん。マリアさんは今日の魔力測定で測定器を壊す程の魔力の持ち主ですから、力の制御の仕方も教えてあげて下さい」

「って、マジかー。ま、了解しました。実技なら俺の得意分野なんで」

「頼みましたよ」



 そういって、ベスター先生とヘンリー先輩の会話が終わるや否や私はヘンリー先輩に手を取られ、教室を出て行った。


 ん?


 何でいつの間にか手が繋がれているんだ!

 アディやローレンツ様も手を繋ぎたがってたけど、これは一種のブームなのか?!

 それとも、やっぱりヒロイン効果(エフェクト)なのか?!



 私の心の声もつゆ知らず、私は訓練場まで哀れな子牛の如くドナドナされたのであった。

 この時通行人から注目を浴びたのは言うまでもなかった。







 ドナドナされた行き先は訓練場の一つで誰も居なかった。

 テストや魔法大会付近になると混み合うらしいが、幸いにも新学期早々訓練に励む人は少ないらしい。



「で、マリアちゃん。君は何の魔法を練習したいの?」

「結界張り方を練習したいです」

「渋いねー」

「そうですか?」

「そりゃ、みんな最初は派手な魔法を覚えたがるもんだからね。かく言う俺も大規模な魔法を実行しようとして親父(おやじ)から拳骨(げんこつ)喰らった経験がある」

「お父様も魔法を使う人なのですか」

「うん、うちの親父は宮廷魔法使いなんだよ」

「凄いですね」

「俺も来年留年して無けりゃ、そこで働いてるはずなんだなー」



 おおー、やっぱり国家公務員職の一つに宮廷魔法使いは存在するんですね。

 せっかく魔力量も多いし、是非将来就職したい。



「んで、話もどすっけど、結界って言ってもいろんな種類がある。マリアちゃんはどの結界を張りたいんだ?」



 教科書のページの結界に関する目次を指差しながら聞いてきた。



「この万能結界です」

「えっ?」

「教科書の理論は理解しています」

「……マリアちゃん、一つ聞いていい?」

「はい」

「マリアちゃん、どこの戦場に行くの?」

「へっ?どこの戦場にも行きませんよ。自分の部屋に結界を張ろうと思ってるのです」



 私が目をぱちくりさせると、ーーー先輩は手に目をやり、天井を仰ぎ見て何か呟いていた。


 その様子をジーっと見ていると、私の視線に気がついたのかーーー先輩は私に視線を合わせてきた。



「とりあえず、マリアちゃんの魔法に関する常識がゼロとして話を進めよっか」



 私がこくりと首を縦にふると、ヘンリー先輩は話を続けた。



「まず先に言っておくけど、万能結界は日常では使わない。使うのは主に戦場ーーーつまり戦闘行為の行われる場所だ」

「はい、ヘンリー先輩。それは何でですか」

「ぶっちゃけると、結界を保ってるだけの魔力又は魔石がないと使えないからだ」



 つまり、結界を作動させるに当たって膨大な動力源が必要ということか。



「そうなると、使われる局面は限られてくるってこと。日常的に万能結界を使うとか勿体なさすぎて普通の人間は使用しない」



 採算が合わないということですか。



「今回、マリアちゃんは何を考えて自分の部屋に結界を張りたいと思ったの?」

「自分の身を守るためです」

「えっ、でも何処の寮でも自室は鍵付きだろ?」

「少なくとも平民寮の鍵は少し知識のある人間なら開けられるタイプでした」

「そうなんだ。こっちの寮は、って、貴族寮は特にそんなことないと思うけど」

「そこは身分社会の格差じゃないでしょうか。それと、ヘンリー先輩も貴族の御子息様だったんですね」

「やっぱ、貴族に見えない?」

「話し方が少し」



 チャラい高校生とかにしか見えないです、と心の中で付け加えて言った。



「ま、俺の場合、親父が宮廷魔法使いになって法衣貴族になったから一応俺も貴族の息子扱いされてるだけで、元の血筋は平民だけどね」



 つまり、ヘンリー先輩のお父さんは成り上がった、ということか。


 成り上り、いい響きだ。

 是非とも私も下剋上したいものだ。

 学園に入学してる今、半年前よりは生活水準が格段に上がったのは確かで、既に下剋上し始めてる気もするが。


 この調子で今後下剋上していくにしても攻略対象と結ばれて妃とかお貴族様の妻はパスの方向でお願いしたい。

 社交とか私には向いてないからね。

 それに庶民感覚の私には環境的に馴染めないこと間違いなしだもん。



 成り上がるなら自分の力で!


 それに私はやらなくては(・・・・・・)ならないこと(・・・・・・)を今朝思い出したのだ。


 そのためにも今は魔法を極めよう。



「ま、その事は置いといて。結界についての説明の前に魔法学の基礎について説明する」



 ヘンリー先輩はそういうと実演を交えながら説明をし始めた。



「まず、四大属性は分かる?」

「火、水、風、土です」

「その通り。それに光と闇を加えて六属性と言われている。じゃぁ、質問を変えよう。属性とは何のために存在していると思う?」

「うーーーん、わかりません」



 所詮、昨日寮に届いた教科書の結界に関する項目しか読んでいない私には答えようがなかった。



「正解は属性魔法を使うためだよ」

「属性魔法ですか」

「ああ、魔法は大きく二つに分けると属性魔法と無属性魔法で分類出来る。因みに結界は無属性魔法に分類される」


 成る程、通りで結界の項目を読んでいても属性に関する事柄が出てこないわけだ。



「まず、属性魔法についてーーー例えばこんな感じで使う」



 ヘンリー先輩は自身の懐を探ると一本の杖を出した。

 先程とは打って変わって真剣な表情になり、杖を構える。



「土を司る精霊よ、我に力を貸し給え。『土人形』」



 そういうと足元の土がボコっと盛り上がり始め、次第にその盛り上がりは大きくなり、私の膝丈程の大きさの人形らしきものが出来た。


 人形らしきものは、ちょっと埴輪っぽい気がする。



「まぁー、これが初歩の魔法。因みに動かす事もできる」



 ヘンリー先輩が杖を土人形に向けると土人形は手を上げたり下げたりしだした。




「人に説明するのは得意じゃないから、ざっくりと説明するけど。まず、属性魔法は別名精霊魔法と言われてて、精霊の力を借りて魔法を使うんだ。その時に必要なものが杖。これは精霊と自分の魔力の親和性を高める道具として使う。俺の場合は水属性と土属性持ちだから、それに対応した杖を使ってる。ここまでで質問はあるかな?」

「ありません」

「なら、次に魔法の発動条件の説明に入るよ。杖の起動条件は魔力を杖に流すこと。さっき『土を司る精霊よ、我に力を貸し給え』って、言ったのは杖に早く魔力が循環するようになるからで、言わなくても問題はないんだ。そして、杖に魔力が循環したら、魔法のイメージをする。この時、殆どの人はイメージと言葉を繋げて固定することで魔法の発動を早くしてるんだ。だから、さっき俺は『土人形』って言ったんだ」


『魔法はイメージが重要』って、よくある設定だけど本当にそうだとは……まぁ、元が乙女ゲームの世界と思えば製作者は日本人だし納得もいく。



「……と、ここまでで質問はあるかな?」

「はい、杖無しでも属性魔法は使えるんですか」

「出来る人も稀にいるけど、滅多に見ないよ。精霊との親和性が高い人は珍しいからね」

「他に質問が無かったら、無属性魔法の説明に入るけどいいかな?」

「はい!」



 私が返事をするとヘンリー先輩は笑顔で頭をグリグリ撫で回した。

 髪がぐしゃぐしゃになるから止めて欲しいと、頭を手で庇ってみるとヘンリー先輩は仕方ないなぁとでも言うかのように肩を竦めて説明を始めた。


やばい、ストックが切れた(←早すぎる)。

ネタは頭の中にあるのに、打つ速度が遅いという……タッチタイピングは難しい。

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