3☆ 私がヒロイン様な件だから……
ストックが切れるまで毎日更新予定。
「はい、初回の授業は魔力測定を行います。三箇所に分かれて測定をします。入学するに当たり簡易の魔力測定は行いましたが、今回はより精密な測定をします。主属性の判定や絶対魔力量を測ります」
担任であり、魔法学の先生であるベスター先生が教壇に立って言う。
入学2日目、初回の授業は魔法学だ。
前世では無かった魔法なのだ!
私は大いに浮かれていた。
「魔法はやはり先天性の要素が強いものですが、練習を積み重ねれば少ない魔力量でも十分に魔法を使う事ができます。なので、魔力量が少なくとも気を落とさないで下さい」
ほぉ、魔力量が少なくとも何とかなるのか。
そう言えば、私は異世界転生を果たしたが、別に神様に会ったりしてない。
異世界転生モノのテンプレでは、神様に会って使命を与えられたり、チート能力を与えられたりするのだが……私にはなかった。
そもそも転生した世界が乙女ゲームの世界ってあたり、チート能力とは無縁なものかもしれない。
何はともあれ、簡易魔力測定でそこそこの魔力量はあったみたいだから、魔法の才能がある事を祈ろう。
腕がたつ魔法使いになれたら、万が一王宮で働く事が出来なくても冒険者としてやっていけるかもしれない。
私は期待に胸を膨らませ、先生の指示に従い魔力測定器のある列に並んだ。
この時も私は細心の注意を払って、ゆっくりと席を立ち、ゆっくりと歩き、他の生徒が列に並び終えてから最後尾に並んだ。
たかが順番、されど順番。ここでお貴族様に「平民のくせして、前に並ぶんじゃねぇー」とか言われたくないのでね。念には念を入れたということだ。
「わぁ!さっすがアディ」
列の前方からローレンツ様の声が聞こえた。
列から体をズラして前の方を見ると、測定器の前にアデルバート殿下とローレンツ様が立っていた。そして、机の上に何やら水晶玉みたいなものが六つ並べられていて、光ってる。
そのうちの一つに赤色のモノがあって、その水晶玉は発光量と色合いが他と比べて比ではなかった。
「騒ぎ立てるな、レンツ」
アデルバート殿下の不機嫌な声が響くが、周りの生徒たちも光ってる水晶玉を見て「あの魔力量凄いですわ」「王族の魔力は俺らと比べ物にならないな」と騒ついてる。
どうやらあの水晶玉が光れば光るほど魔力が高いらしい。そして六つの水晶玉はそれぞれ属性を表しているようだ。
他の測定者の反応を鑑みるに火が赤、水が水色、風が緑、土が黄みたいだ。光と闇属性は未だ誰も属性持ちがいないから何色に光るか不明だ。
ここでちょっと魔法に関する情報を整理。
魔法における属性とは、火・水・風・土・闇・光の六つである。
一般的には火・水・風・土の属性の魔力の発現が殆どで、闇・光の属性持ちは希少らしい。
そして、魔力量は貴族、しかも上位貴族であればある程、魔力量が多い傾向にある。時に平民でも先祖返りとかで魔力量の多い人間もいるようだ。
……とかいうことは、入学試験を受けるにあたって軽く調べた。
入学試験に魔力測定が入ってた時に、一応試験対策を練る一環で図書館で魔法に関する本を読み漁ったのだ。
独学で魔力を感じてみたり、魔法を使ってみようかとも思ったが、どの本にも「初めは指導者の元で練習すべし」と書いてあったから止めたのだ。
突然爆発とかしたら困るしね。
だから、私は学園に入るのを楽しみにしていたのだ。
念願の魔法の授業!
初回は魔力測定だけど、次回からは魔法が使えるかもしれない。
進む列について行きながら、私は一人ワクワクしていたーーーその時、
「闇属性だぞ!」
「しかも他の基本属性の魔力量も殿下と引けを取らない」
「平民の方にも強大な魔力持ちは存在するのですね」
再び前方から騒めきが起こる。
ヒョコッと体を列からズラして覗きてみると……うん、察した。
流石は攻略対象。数年後に魔法学の教師をやってるだけある。
フェリクス・ウェーバーの前にある水晶玉は光属性を除く全ての属性が発光していた。
特に闇属性の水晶玉は藍色に一際輝いていた。
賞賛の視線を送られているが、面白くない人も多いようで悔しげに視線を送る者もいる。
この様子を見ていると“天才故の孤独”とかいう設定もわかる気もする。
要するに、「頭がいい+膨大な魔力量+平民+刺々しい態度→孤高の天才(=スペックの高いぼっち)」の図式が完成した訳だ。
ここからどんな化学反応が起こって「孤高の天才→癒し系教師」になるかはやはり甚だしく疑問である。
なんか悟りとか開いたのかな。そ、それとも、新境地に足を踏み入れるのかぁ!?
「其方の刺々しさを取り去ってしまいたい」(アデルバート殿下)
「幾ら殿下と雖も、私の心の鎧は取れません」(フェリクス)
みたいな感じで、絆し絆され、ついに愛に殿下の愛が実を結びぃーーーみたいな展開かぁぁーーーぁ!!
BL、それは至高の愛。殿下×天才少年の王子攻めショタ受けとか想像するだけで美味しそうだ。王族×平民の身分差という点でもかなりイイ!
そういえば、薄い本とかこの世界には存在するのだろうか。その前にBLというジャンルはあるのか?
いや、なかったらなかったで作ればいい。
折角の異世界転生を果たしたんだ、この世界に薔薇の腐世界を創り、BLというジャンルを確立させるんだ。
本来なら読み専の私だが、布教のためには書き手にだってなってやる!
はっはっはー!!
って、いかん。頰が緩んでしまってる。妄想の世界から授業にもどらないと。
ニマニマとするのを抑えようと頰を両手で挟んでみるが、なかなかニヤけが収まらない!!
フェリクス・ウェーバーが視界に入ってるのが悪いんだ!
視線を頑張って逸らそうとするが、やはり見てしまう。
何故なら、現在アデルバート殿下がフェリクスに話しかけてるから。
美形×美少年、万歳!!
これを見ずして、何を見る。オタクとしての見る以外の選択肢がない。
もうこうなったらガン見しよう。
人間開き直りも重要だ。
と思った瞬間、フェリクス・ウェーバーがクルリと首を回し、私を見た。
正確にいうと、睨みつけてきた。
私は一瞬頭の中を覗かれたような感覚に陥った。
直ぐに視線を外されたが、今の人睨みは結構びびった。通常の7歳児なら泣き出してもおかしくない。
でも、私は見た目は7歳、中身は22歳のいい大人だ。少年の成長を優しく見守ってやろうではないか。
「マリアさん、順番ですよ」
ボケーっとしていたらいつの間にか自分の前の列が消化され、私の番が回って来ていた。
直ぐ様ベスター先生の指示に従う。
「この魔石に手を当てて魔力を流して下さい。深呼吸をして、ゆっくり息を吐ききりましょう。正確な魔力量を測るためなので、出し惜しみはしないようにお願いします」
他の列の測定は終わったのか、私が最後の測定者のようだ。
そして、皆さんは興味深々と言った様子で私の事を見ている。
これは緊張する。
震えを止める為に、大きく息を吸う。
魔石に手を当てて、目を瞑りゆっくりと息を吐き始める。
途端にギャラリーが騒めき出す。
「基本属性が全て光り出したぞ」
「光属性とは珍しいですわね」
「魔力量も結構あるんじゃないか」
ほぉ、私はどうやら魔法において大きなアドバンテージを持っているようだ。
目を瞑りながら、聞こえてくる言葉にほくそ笑んでしまう。
しかし、私の終りはここじゃない!
まだ半分しか息は吐いてないのだ。
腹筋に力を入れて、残りの息を吐き出す。
するとはたまたギャラリーが騒ぎ出す。
「何処までいくんだ?!」
「魔力量が凄い事になってるぞ」
「眩しいですわ」
「イカサマとかしてないよな?」
「ば、化け物じゃないのかぁ!!」
えっ、化け物とは聞き捨てならないですね。
どんな状態になっているのか確かめようと目を開けようとしたその時ーーー
「マリアさん、もう終りにして下さい!!」
ベスター先生の叫び後が聞こえる。
私は素直に指示に従い、魔石から手を離し、目を開けるが、
バキッバキッ、ペキッ、カッシャーン!!
煌々と光っていた水晶玉は全て粉々になってしまっていた。
・・・う、うん、どうやらタイムラグがあったようだ。
恐る恐る顔を上げ、ギャラリーと先生の様子を伺う。
皆、呆気に取られた様子で目が点になったり、口をアングリ開けたりしている。
あれ、貴族の皆さん、ポーカーフェイスはいいんですか?
周りの反応が大き過ぎると、かえって自分は冷静になるらしい。
取り敢えず、先生に視線を送る。
口を開けたまま固まっていた先生は、私の視線に気がつきハッとした。
なにやら先生は非常にコメントずらそうに、している。
一方の私は真剣に先生に念を送る。
これ、私は悪くないですよね?
弁償とか言わないとか言われても弁償出来ませんよ!
念が伝わったのか、先生との暫しの見つめ合いの後に出た言葉は、
「こういうこともありますよ。まぁ、仕方ありませんね」
「先生……弁償は……」
「事故なので、此方で負担します」
「あ、ありがとうございます」
弁償はしなくてもいいみたいだ。
7歳から借金をこさえることは免れ、ひと安心である。
私は安心して一息つくことができーーー
「あの子測定器を壊したな」
「あの魔力量、本当に平民なのか?王族を超えてるぞ」
「それに光属性とか、化け物かよ」
「しかもまだ幼児ですわ」
ーーーなかった。
フリーズから解凍された皆様は、口々に評論なさってます。
自分でもこの展開は予想外だった。
そこそこあればいいと思っていた魔力は王族超えの化け物級。加えて光属性。
しかも測定器を壊したとか学年、いや学園中の人に知られてもおかしくない!
幼女で次席入学という時点で、ひっそりと学園生活を送るのは不可能になっていたわけだが、今回の件で平穏平凡な学園生活から更に遠く、というより不可能になった。
絶対に嫌味とか言ってくる人がいる。しかも相手は貴族。
待ち受ける未来は面倒くさいことこの上ないこと確定だ。
いじめとか発生するのだろうか。そう、【聖女が世界を救う】のヒロインのようにーーー?
『次席入学はあのピンクブロンドの髪の娘らしいわ』
『あの娘、平民の癖して魔力が多いんですって』
『王族並みの魔力量とか、化け物か?』
『光属性持ちだなんて!』
『測定値を壊す人は初めて見ましたよ』
『君のスミレ色の瞳は美しいね』
頭の中に【聖女が世界を救う】をプレイしていた時に読んだシナリオが思い浮かぶ。
あれっ、もしかしてだけどーーー
「ーーーおいっ、聞いてんのかマリア!」
大きな声がして、ビクッと私の身体が揺らす。
『マリア』
それは【聖女が世界を救う】のヒロインのデフォルト名。
そして、“私”の今の名前。
今までの状況を鑑みて考えられることは、
“私”= 【聖女が世界を救う】のヒロイン(現在幼女)
とてつもなく重要ポジションじゃないですか!
なぜすぐに気がつかない私!と心の中で絶叫する。
私ががデフォ名でプレイせず、「ゴンザレス田中」というアホな名前をつけてプレイしていたばかりにデフォルト名を忘れていた。
そもそも、ヒロインのデフォルト名のマリアなんてありふれてるし、16歳のヒロインは髪が長くて美少女中の美少女。現在の7歳の短めの髪のちびっ子からでは連想できないのも仕方がない。
取り敢えず、深く考えることは後にしよう。状況は複雑だし。
うん、そうしよう。
目の前の事に集中することって、大事だよね。
気持ちを入れ替えて、大声の元凶を確かめるべく振り向くと、フェリクス・ウェーバーが腕を組んで立っていた。
彼は何やらご立腹の様で、頰が薄っすらと赤くなっている。
急に何ですか、フェリクス・ウェーバーくん?
「俺はお前には、ぜっっってー負けねぇからな」
右腕人差し指を振り下ろし、私に照準を定めた。
あっ、やっぱりライバル認定されてたんですね。正確に言うと、私の魔力量とか見て『された』んだね。
真っ直ぐな眼差しが私を刺すように視線を送ってくる。
ゲームの中のフェリクス・ウェーバーはこんなに短気じゃなかった。そもそも大人だったということもあるが。
まぁ、相手は11歳の少年だ。
こちらも寛容な姿勢を見せようではないか。
「私も簡単には負けません」
にっこりと目線を上げて微笑む。
フェリクス・ウェーバーはプルプルと手を震えさせている。
そういえば、一つ。
「フェリクス・ウェーバーさん、人に向かって指を向けては行けません」
私は笑みを浮かべながら、フェリクス・ウェーバーの人差し指を優しく曲げて、手で包む。
どういうお家で育ったかは知らないが、その態度は頂けない。
何せここは『学園』なのだから。
それにフェリクス・ウェーバーは家名持ちとはいえ、貴族ではないのだ。
あくまで平民なのだ。
学園の中では立場が弱い。
そんな彼が今私にしたような態度を少しでも貴族に向けたら?
向けなくても、揚げ足を取られたら?
場合によっては一発退場もあり得る。
この時、私は記憶の底から【聖女が世界を救う】のバッドエンドのシナリオをふと思い出したのだった。
何故、乙女ゲームのタイトル名が【聖女が世界を救う】なのかを。
バッドエンドの世界線を想定した場合、やらなくてはならないことが発生したことに気がついた。
だから、心の中であることを決断をした。
ここがの【聖女が世界を救う】の世界でないなら、他人が揚げ足を取られて罰を受けようが私の知ったことではない。
でも、ここは【聖女が世界を救う】の世界なのだ。
ーーーフェリクス・ウェーバーには、今はまだ退場されては後々困る。
だから、私は決めた。
彼を守ろう。
彼が役割を果たすーーーその日まで。
「これから、宜しくお願い致しますね。フェリクス・ウェーバーさん」
ーーーとことん、付き合おうではないか。