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今日も元気だ、ご飯がうまい  作者: 小田原アキラ
3/3

3.映画を撮ろう!の会

「これが俺様考案のラブストーリーです」

 放課後の使われていない教室。

 康史によって集められたのは平也と赤坂。前回の反省を生かしてか、今回集められたのは二人だけ。

 遠くからは運動部の声や、吹奏楽部の練習する音が聞こえる。と共に、カラスが鳴いたような気がした。

 二人の前にはびっしりと文字が書かれた一枚のプリントが置かれている。

 康史の様子からするとかなりの自信作のようだ。

 「なんでラブストーリー?」

 長い沈黙を破って言ったのは赤坂。平也はもっともな疑問だと同じ気持ちだった。

 赤坂は短いスカートを履いているというのに、足を組んで腕を組み、椅子に背をもたせかけて、康史の立っている教壇側から見ると偉そうにしか見えないだろう座り方をし、だるそうにしている。

 その隣にはまたもだるそうに椅子に座る平也がいる。

「そりゃあ、どうせ撮るならラブストーリーでしょう」

「理由になってねぇ」

 平也がだるそうに言い、びっしりと書かれたプリントを読み始めた。

 それを横から赤坂も覗き込む。

 書かれているのは単純でありきたりな内容のラブストーリー。


 簡単にまとめるとこんな感じだ。

 主人公は少しドジな高校一年生の美少女(と思われる。し、可愛い女の子じゃないと今後の展開が成立しない)、入学初日から遅刻してしまう(ここがもっともありがち)。同じく遅刻した男子高校生(イケメン希望)が登場。二人は校門前で何故か、ぶつかる。そして出会い恋に落ちる二人。様々な苦難(学校行事とか季節的なイベントとか、ライバル登場とかいろいろ)を乗り越えて、二人は恋人同士になる。

 こっからは急展開。イケメン男子高校生は実は宇宙人で、星に帰らなければいけない。

 晴れて恋人同士になった二人の別れの危機、そして二人の出した結論は・・・


「結論、書いてないじゃないか」

 半分呆れながらも平也が聞く。赤坂の方は逆に笑いのツボにはまったらしく、お腹を抱えて笑っている。

「最後の答えを出さないのがいいんじゃん。どうよ、面白そうだろ?」

 と視線は笑い転げている赤坂の方を見て自信ありげだ。しかし、あれは内容の面白さで笑っているのではないと思う、が口には出さない。

「どうよ、赤坂。お前が脚本書くんだろ?」

 平也が声を掛けると笑いがピタッと止まって無症状の赤坂に戻った。

「無いでしょ」

「なんで!?」

 康史は心外な様子で声を上げる。

「ありがちな内容過ぎるし、男の子が宇宙人とか突然すぎてついていけんわ! それに主役の女の子に関してはよっぽど可愛い子じゃないと成立しないと思う。そんな壮絶に可愛い子いるかな?」

「赤坂の意見に俺も賛同するわ」

「えー。平也まで、なんでそんな事言うんだよ」

「とりあえず、考え直しね」

 赤坂はあっさりそういうと教室を出て行った。

 残された平也と康史はもう一度、プリントに視線を落とす。

「考え直しか」

「考え直しだな」

 がっくりと肩を落とし、文句を言いながら教室を出て行く康史を見送りながら平也は昨夜のことをぼんやり考えていた。

 隣の席の女の子。

 その子のことが気になるなんて、それこそありきたりじゃないか。と思いながらも、心は常にふわふわと漂いながら彼女のことばかり考えてしまう。

昨夜のことだ。どうしてあんな時間に展望台にいたのだろう。

 平也は早寝する祖父母の就寝後に家から出ることがたまにある。

 昨夜もそうだった。康史から映画を撮る話を聞かされてから、なんとなくカメラを使いたかったのだ。それだけの理由で出掛けた。そして、彼女の姿を捉えた。

 今日教室で会ったが、お互いなんとなくよそよそしい感じはしたが声も掛けられなかった。

 声を掛けることを躊躇わせる何かがあった。昨夜のことは見てはいけない事のように感じたからかもしれない。

 窓から外を見る。校門近くの教室だからか、帰って行く生徒の姿が見える。

 赤坂の姿が見えたと思ったら、隣には派手な女の子がいる。

「あれは」

 思わず声が出ていた。平也の隣の席の女の子。知らなかった。赤坂と友達だったのか。

 意外な組み合わせだなとは思ったが、まぁはぐれ者同士で仲良くなったのかなという気がしなくも無い。



 康史からの二度目の呼び出しは意外にも翌日だった。

 平也と赤坂。前回と同じ教室に同じメンバー。

「昨日から内容を変えてみたぞ。今回はこんな感じにしようと思うんだ」

 そう言って黒板に書き始めたのは、『ゾンビ』。ジャーン、と効果音つきだ。

「これまた、ありがちな・・・」

「いいんじゃない? ラブストーリーよりは」

 意外にも赤坂は乗り気なようで、平也は驚いて見た。

「え? いいの?」

「私ゾンビ映画とか好きなんだよね。今ってハロウィンで仮装の定番にもなりつつあるし、メイクも市販のキットがあるから本格的な感じで作れそうじゃん。だから、賛成」

「じゃあ、この方向で脚本よろしく」

 平也を残して、康史と赤坂はストーリーの展開を話し合い始めた。

 ゾンビ映画って、めっちゃありがちやないかい。という言葉を平也は心の中で三回ぐらい叫びながら、一応の方向性が決まってほっとしていた。

 何かしたくてたまらない気持ち。その気持ちが少しずつ周りを巻き込みながら平野を突き動かしていく。わくわくが大きくなって、今にも叫んでしまいたくなる。

 「とりあえず主人公は可愛い女の子がいいから、赤坂よろしくな」

 康史のチャラさ前回の発言に赤坂は怪訝な顔をしながらも、どこか楽しそうに、

「今可愛い女子とお近づきになったから聞いてみるわ。そっちもイケメン男子用意してよね」

 平野と康史で自分たちの友人を思い浮かべたが、二人とも友人が少ない為思い浮かぶ人物は一人しかいなかった。見た目はイケメンと言えなくはないが、中身がチキンなネガティブ男子が一人。

「とりあえず、ふたりで脚本作っちゃってよ。そしたらまた集まろう」

 まとめ役を常に買って出ている平野の一言で、とりあえず解散になった。

 これからどうなっていくのか、心躍る平野はニヤニヤが抑えられない。こんな顔見られたらまた隣の女子に変な目で見られそうだと、考えてしまっていた。

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