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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
姫と異界の紫の書

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龍人はなにを選択したのか

「だが……我が主を救う。その未練だけはなくさねばならない。

 お前には本気になって貰う、他でもない我が主のために、相応しい能力を得て貰わねば安心してあの世に逝けぬのだ!」


 フィーラは気迫に満ちた口調で言い、氷の刃を作り出してその手に持つ。氷の刃はフィーラの手の中でゆっくりとその形を変え、銃へとその形を変える。銃の形に変わると、右眼が紫の瞳に変わる。


「【世界の原書(アカシックレコード)】に記されている能力の1つ、【翡翠球(エメラルドスフィア)】。数秒、一瞬にも近い時間ではあるものの……"使って死ぬかもしれない"というリスクがない、稀有な"未来を見通す"能力。そして氷の銃に装填されている銃弾は、一撃で撃つくらいの破壊力を持っています。

 ……死にたくなければ、こちらを殺すくらいの勢いで能力を発現してみせよ」


 氷の銃を構え、その先に見えてこちらを覗きこんでいる右眼の紫の瞳。

 紫の瞳の中で、線が弾んでたゆむ赤い糸。

 赤い糸は瞳の奥で揺れ動いて、動く度に閃光が辺りへと散らばる。


「……えっ……あのっ……ちょっ……っと……」


 バンッ!


 雷が落ちたくらいの大きな怒号が鳴り響き、氷の銃口からは水蒸気の白い煙がうっすらと立ち昇っていた。


「……生きるための殺し、というんでしょうか。弱肉強食というか、生存戦略と言いますか、ねぇ。こう言うのはそういう。人間も、動物も、そして魔物も、誰かを殺さなければ、誰かを死なせてその身に取り込む事で、一日一日を、誰かが犠牲にする事でようやく生きる。"生きる"と言うのは、誰かの屍の上に立つ事によってようやく一日……一時間……一秒を過ごせるのです。

 ここで死なないためには、どちらかは死ななければなりません。どちらかが死ぬ事で、どちらかが生きる。これはそう言う意味を持った戦いです」


「……わ、わわ、わたしに、戦う意思は、ありませんよ? わたしなんかをころしても、なにもえられませんよ?」


 そう、そうなのだ。

 アケディアは、私は、初めからそれが分からない。


 彼にとって、フィーラさんにとって、一番大切な存在が今のままでは、殺される運命にあるという。

 その回避を選択する、あるいはその未来に繋がる可能性と言う変更点(ターニングポイント)がわたし、アケディア。

 ここでわたしが能力を発現する事によって、フィーラさんの大切な主が救える可能性がある、だから私にどんな危機でも対抗できるほどの能力を発現して欲しい。


 理屈は、バカな私でも理解出来ます。


 「他国の王が愚策と強力な武器で向かって来るのに、こちらはなんの対策もしてないのはどう言う事だ」というとか、「このままでは好きな男が別の女の所に行ってしまうのに何をしている!?」とか、「こちらは真剣に訓練しているのに、才能があるのにどうして努力しないの?」とか、彼が言っているのはそういうことでしょう?


 他国の王が戦力を持つのならば、こちらも戦力を持て。

 別の女が魅力的ならば、こちらも魅惑する色気を持て。

 ライバルが強くなるのならば、こちらも努力して。


(そういう……)


 自分勝手で、身勝手な、狂おしいほど傲慢な台詞を、どうして私に投げかけるのですか?


 他国の王が戦力を持っても、私が戦力を持つ理由はない。

 ――――なにもしないから、勝手に滅ぼしてください。


 別の女が魅力的なら、その男を持って行ってください。

 ――――なにもしないので、仲睦まじく暮らしてください。


 ライバルが強くなるなら、そのまま強くなってください。

 ――――なにもしないし、ライバルだなんて勝手に分類化(カテゴライズ)しないでください。


 わたしは怠惰で、気だるげな、そういう人なんです。

 怠惰なように見えるでしょう、えぇその通りです。でも普通の怠惰な人とはちがいます、わたしは怠惰である事を選択(・・)して、ここに居るのです。


「(……怠惰でいることと、怠惰なことを選択するのとは、違うんです)」


 その2つには、大きな隔たりがあります。選択、それが大切なのです。


 なにかを選び取り、なにを選び捨てるのか。

 それが選択であり、それが一番大切なんです。


「…… (だから) (わたしは)


 選び取らない(・・・・・・)


 どうして戦わないといけないの?

 どうして刃向わないといけないの?

 どうして立ち向かわないといけないの?


 そんなの、あなた達の勝手な都合じゃないですか。


 こっちは動かない事を、戦わない事を、怠惰を選び取ったのです。


 自ら、そう選択したんです。


 あなた達に、とやかく言われるような事は一切ない上に、第一それが正しい事だとは私は思えない。


 動く事で、戦う事で、得てしまう真実……つらい、つらい、つらい、生きるのがつらいくらいの真実があるかも知れない。

 そんなのを知るくらいなら、無能で居る方がマシ。


「(……だから、この人の言っている事が分からない)」


 尊敬している者のためとか。

 敬愛している者のためとか。


 誰かのために、どうしてこちらが動かなくちゃいけないの?

 訳が分からない。


 自分の事で精一杯、それ以上の容量に割くスペースがまったくない、この私が、どうしてそんな身勝手な理由だけで、コロシアイを強要されるの?


 殺さなければ、生きていけない?

 ――――だったら私は植物になりたい。


 光と水だけで生きていけるような、そんな植物のような人間になりたい。


「(そうだ、私はそんな能力が発現すれば良いのだ。すっごい能力の才能があるんだったら、私はそんな能力を願いたい。願ってれば夢が叶う、のかも、しれないし……)」


 そうだよ、能力ってそんなのかもしれない。

 私が願えば、能力は生まれるのかもしれない。


 願う事で、能力が生まれる。

 

 ……それならば、私はそんな能力が欲しい。


 働かなくても、動かなくても、そんな風に生きていける能力が欲しい。

選択とは力、選び取る事。それこそが大切なのだから。


よろしければご意見、ご感想をくれると嬉しいです。

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