なぜに最強は消えたのか
【世界の原初】によると、この世界には3つの強大な種族が居た。その種族は三種族合わせて【強大な一族】と呼ばれており、その者達の持つ力は神に匹敵するほどと言われていた。
【大狼種】。
【強大な一族】の中でも特に《力》が秀でている種族であり、その攻撃力は世界を壊したともされる強力な力を持つ狼の一族。周囲の敵を倒したりして無限に成長を繰り返し、そして戦いに必要な知識を得ていく。《戦闘の種族》と呼ばれていたがその裏で、そのあまりにも激しい気性の荒さから《憤怒の種族》とも呼ばれていた。
【赤蛇種】。
【強大な一族】の中でも特に《心》が秀でいる種族と言われており、その身に宿したあらゆる種類の毒と巧みな話術を用いて全ての種族をたぶらかして戦争を引き起こしたとされている蛇の一族。いつの間にか相手の懐に潜入して、そして滅ぼしていく。《洗脳の種族》と呼ばれていたがその裏で、男でも女でもとっかえひっかえで本能のまま蹂躙する性格から《色欲の種族》とも呼ばれていた。
【界龍種】。
【強大な一族】の中でも特に《技》に秀でた種族であり、その者が使う技はこの世の常識や概念を根底から覆す技を使っていた。その者が望めば世界はそれに応え、世界はその者の手によって歪められて叶える。全てを望んで、それを叶える術を持っている。《技能の種族》と呼ばれていたがその裏で、全てを手に入れるためになにもしなくなった《怠惰の種族》とも呼ばれていた。
【強大な一族】、その3つの種族が何故消えたのか。それには多くの学者が導き出した推論と、人間の思惑が入り混じった推測が数多く存在する。
お互いに戦い合って絶滅した説。
それよりも強大な敵が現れてまるごと滅亡させられた説。
能力が暴走して闇の中に吸収されて破滅の道を歩んだ説。
その全ての説を肯定するだけの証拠と、否定するだけの証拠。どちらもそれなりに、肯定できて否定できる数を持って存在している。
故にこの3つの【強大な一族】を知っているほとんどの人はこの3つの説のどれか、あるいはどれでもない説か――――そのどれかに解答を求める。しかし、どれが答えかは知らない。
――――じゃあ逆に、何でも知る事が出来る書を読めるフィーラキャイセルはどれを選ぶだろう。
この3つのどの説が正解に近く、どれが一番納得させる事が出来るのか。
全ての解答が載っているはずの書を読めるフィーラキャイセルは、それでも【選ばない】。
何故ならば知らないからだ。
全て。
この世の全て。
その言葉に対して、嘘偽りはない。
【世界の原書】はこの世に関わる事は全て漏れなく、記載されている。だってそれが、その書物が生まれた意味であって、存在する意味だからである。
【世界の原書】に【強大な一族】の事はある時期から、その存在が載りはじめる。
1つの大きな樹が枝分かれしたかのように、3つの最強種はこの世に誕生した。そしてそれぞれにお互いに道を交差させながら、あるいは離れながら、その種族は1000年という長い年月をきちんと歴史の中に存在している。
しかしある時を境目として、その3つの最強の名を歴史に刻んだ種族は歴史から名を消す。
そして次に現れた時にはその3つの種族はほぼ滅亡状態にまでに生き残りが、子孫が少なくなっていた。
どうしてそうなったのか。
だれが彼らを滅亡に陥れたのか。
どうやって彼らを歴史から消したのか。
なにが彼らをこちらの世界に戻したのか。
どうして【世界の原書】からその姿が消えたのか。
いつ。
どこで。
だれが。
なにを。
なぜ。
どのように。
【強大な一族】はどうなったのか。
その問いに対してフィーラキャイセルは答えを出せない。
けれども答える出来る問いは今この場に存在する。
ほぼ滅亡したとは言えども、【強大な一族】の生き残りは確かに存在する。
ある者は戦いに明け暮れて、世紀の大将軍として名を馳せ。
ある者は傾国の美女と名を呼ばれ、異性を貪る色欲を行う。
そしてある者は――――今、目の前で怯えて縮こまっている。
これが正解なのか、それは全てを読めるフィーラキャイセルにも分からない。
けれどもそれが運命なのだ。
"ここで【界龍種】の末裔である彼女に、【界龍種】である事を思い出させる事"。
それが彼の、最期の仕事だと、もう既に書かれているのだから。
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