【皇帝】は何故会談を行ったのか
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い致します。
アルカナというカードによって《氷姫》に実体化された、《氷姫》を守る3人の幹部。
1人目は【七の戦車】。
役割は敵の撃退。性格は騎士らしい純然たる正義漢。能力は氷の身体を利用しての高速移動、及び剣術。
2人目は【八の力】。
役割は城の守護。性格は知恵があるため自意識過剰。能力は相手の能力の解析、及び後方支援。
そして、《氷姫》が実際に作った3人目のアルカナ幹部。
それが【四の皇帝】。性格は石橋を叩きすぎて割るくらいの慎重すぎるほどの慎重派。役割は面倒事への対処の相談。そんな男の能力と性格は――――。
アケディアは氷の城の中で、迷子になっていた。きっかけは【声】がしたから。
頭が痛くなるほどの、むしろまともでいる方が難しいくらいの【声】が、アケディアの頭の中に響いていて、そのうるさすぎるほどの【声】が小さくなるように、わずらわしくなくなるように必死に逃げていたら……。
「――――どこ、ここ?」
辿り着いたのは、教会のような部屋。天井からは氷で出来た豪華なシャンデリアが2つぶらさがっており、壁一面に何者かによってアレンジされた生け花が飾られている。そして、その真ん中には1人の男がゆったりとした様子で座っていた。
その男性は大きな銀色の球体の身体と頭、結晶を思わせる六角形の瞳。2本の腕は聖書をしっかりと掴んで、両の眼でしっかり見ながら声を発する。
「……前に視た時は、この暗号はとある魔物を呼び寄せるための魔法だった。けれどもわたくしが視ない間に状況はかなり動いているようですね。これはもう一度再確認、再び視ないといけないみたいですね」
そう言いながらパラパラと文字通り丸い身体のその男は、ペラペラと何も書かれていない聖書をめくっていた。
「さぁ、そこにでも座りたまえ。【"アケディア・ザ・ドラゴンエッジ"】」
ただ単純にまるで食事でも誘うかのようにして丸い身体の大男はそう言うと、アケディアは大男の前に現れた氷の椅子に流れるようにして座っていた。
「……えっ!? えっ!?」
「疑問に思う事はない、アケディア。わたくしはただ君に命令しただけ、いつもなにかに、恐怖に怯えて縮こまっているあなたからすれば命令に従う事なんて別に珍しくも無いでしょう」
そう、確かにそうだ。
アケディアは覚えている中でもかなりの回数、はっきりと覚えてないところを含めるとその倍以上――――こうしなければならないという【命令】を受けていた。しかしそれでも、【命令】をやる以上はあくまでも自分の意思であった。
生理的に受け付けずに嫌々だった時もあった、それをしなければならないので進んでやった時もあった、飯を貰うために粛々とやった時もあった。
けれども、そこには自分の意思が少なくとも存在していた。
こんなふうに気付かない内に身体が勝手に【命令】を遂行していた事は、自分が生きて来た奴隷人生の中でもあまりなかった。
「……ふむ、なるほど。あまり面白いとは言えないのかもしれませんが、それでも詠んでおくだけの価値はありました。まぁ、これくらい詠めば十全に」
パタリと本を閉じ、大男はしっかりとアケディアの方を見ていた。
「わたくしの名前は【四の皇帝】。与えられた役割は助言、尋ねられた事に対してしっかりとした答えを返すのが私の役目。それが役割です」
「私は……」
「あぁ、良い。【答えなくても良い】」
そう命令されると共に、私の口はまるで針で縫い合わされたかのように動かない。言葉を話そうとすると口は動かず、ただ息を吸ううだけなら普通に口はぱくぱくと動いていた。
「(な、なに!? これはもしや魔法!?)」
「【一片の詩篇】、わたくしは《氷姫》様より与えられたこの魔法にそのような名前を付けています。
世界の全て、一人の人間の一生から歴史に隠された裏の真実まで。わたくしの魔法はこの世で起きる全ての出来事を記録されており、わたくしはそれを詠む事によって座りながらにしてありとあらゆる事を知る事が出来ます。世界の全てなどという膨大すぎるほどの情報は脳に大きすぎる負荷を与えてしまうが故に、一度に詠む事が出来る情報は限られていますが。それにこの本にも、実は何も書かれていません」
と、聖書をこちら側に見せるとそこにはなんの文字も書かれておらず、まったくの白紙だった。
「一応、雰囲気作りで持っていますが、これはただの飾りにすぎません。もし脳内だけで処理しようとすると大変な事になるので」
「(大変な事……?)」
「おっと、そうでしたね。もう喋っても良いんでした。
【もう良いですよ、喋っても】」
「えっ、あ、あれ?」
そうフィーラキャイセル、フィーラが命令すると同時に私の口は思い出したかのように、油を塗られたかのように口がきちんと文字が出ていた。
「ありとあらゆる事を知る事が出来るこのスキルは、同時にありとあらゆる事を可能とするスキルでもある。この世には【言葉】を実際に力がある物として発動するための方法があり、手段があり、条件があり、それらをすべて満たしているこのわたくしは、【言葉】によって人を操る事が出来るのです。手始めに【炎】」
ぼぅ、と目の前で小さな炎が燃え上がる。
「【氷の塔】」
氷の床から、ゆっくりと小さな塔が出現する。
「【全てをなかった事に】
そして先程現れた炎と氷の塔が、その場から消え去っていた。
「言葉に意味を持たせ、実体化するこの力には色々と制限があるのですが、それでもあると便利な事は確かです。何故ならば魔法に限度はありますが、言葉には無数の可能性があるのだから。
とは言えどもわたくしのような、別の人に生み出された使い魔であるわたくしにはこの【言葉】の真の力は発揮する事は出来ない。全く持って残念ではありますが、あらゆる者にはそ者が扱わなくてはならない、その者が使うに相応しい力があります」
「あなたにとっての、あの力のように」と彼はそう言っていた。
「あなたを喚んだ事は当初わたくしの想定の範囲外ではありましたが、先程【世界の原書】を詠んで、理解しました。
わたくしが果たすべき使命であると今アカシックレコードを視て、識った最後の役目ですからね。誰もこの役目からは逃れる事は出来ません」
諦めたような表情で、彼はアケディアの方に手をかける。
「わたくしは誰の味方でもなければ、誰の敵でもありません。故に、あなたの敵でも無い。だからわたくしに任せない。
アカシックレコードに記されている以上、誰もその運命に逆らう事は出来ませんので」
「さぁ、学習を始めましょう」
氷の床から黒板のような書く場所を用意したフィーラは、アケディアに対して講義を始めました。
彼の最期の講義を。
☆
これはアルカナ幹部最後の1人の、最期の話。
彼に与えられた役割は対処の相談。この世界が始まってからの、この世のありとあらゆる事が書かれている書物――――【世界の原書】を読む事が出来る。けれどもこの世の全てが記されているその書物には見えないような呪いと見てはいけない呪いがかけられており、普通の人はその書物を視る事すら出来ない。読めたとしても一ページ、一文を読むだけでも脳が焼き切れる。
フィーラキャイセルは《氷姫》によって与えられた力によって読む事が出来るようになるも、それは見る事が許されたというだけ。
文字を読むだけで吐き気がするし、脳も焼き切れ始めている。それを氷の身体の脳で瞬間的に再生する事によってなんとかしているのだが、それも長くは持たないと分かっている。だってそう書かれているのだから。
彼は運命に逆らわない。
全てを知る事が出来るその男は、それによってなにも残せないだろう。なにせ運命に抗う事をしない彼は、運命に向き合おうとしないのだから。
これはそんな彼が最期に残したもの。
運命に従い続けた彼が、戯れに行ったこと。1人の龍人の少女に、とある事を教えるという事だが――――これもやはり運命によって初めから書かれていた事だったという。
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2017年もどうぞよろしくお願いします。




