死人はどう足掻くのか
剣士、武闘家、魔法使い、弓使い、盾職。
この世界に戦いに関する方法はいくつもあるが、それでも弱点がないというものはない。必ずなにかその職に対する長所があり、その長所があるからこそ生まれてしまう短所がある。
今から、アンロッドが行おうとしているのは魔法使いの短所を補うために開発された、昔からある古典的な対応策だろう。
俺は、こういった物を前に彼女……【 】から聞いている。彼女は魔法使いであり、自身の長所と短所を良く理解していた。
彼女が言うには、魔法使いの長所は多彩な攻撃を行える事、そして短所は準備が必要な事。魔法使いは簡単な物以外の高度な、複雑な技などは大抵の場合多くの準備が必要となって来る。
魔法陣を形成するための道具や、長すぎるといっても良い詠唱、発動に決まった条件などなどと、その準備は数多いが多くの魔法使いの場合、その準備を戦闘で行う場合においては先程のアンロッドのような、魔法を放っておくのが一般的、序の序である。
大きな樹のような物を作って、その樹にて即席の魔法陣を作り出す。そして作った魔法陣でさらに高度な技を放つ……魔法使いにとっては、お決まりのパターンらしい。
「(そして、これはその中でもかなり分かりやすい陣の構築だ)」
お決まりといって良いこの手のパターンは、対処法も数多く存在する。
「喰らえ、アンロッド・ハンティング!」
そしてその対処法は、必ずと言っていいほど成功する。
……何故なら、この手の簡易で簡単な魔法を使うのは、自分の名前を技名としておくような、頭の悪い連中だからである。
アンロッドは両腕に取り付けた杖を、両腕を合わせる。両腕を合わせると共にうねうねとした黒い2つの杖は融合し始め、そして1つの大きな砲台へと変わる。
砲台へと変わると、その砲門が光を込めて充填し始めて、白い雷光をその砲台から放つ。
放たれた雷光はそのまま一直線に二つの場所に、彼が作った大きな樹へと向かっていた。そしてニヤリと笑うアンロッド、それ以上にニヤリと微笑む俺。
「(分かりやすい、単純な奴だ)」
俺はその雷光を、いや雷光の向かう先である樹を倒すために行動に移る。まず俺の身体の中の魔物の一体、身体の上部に出来た刃状のタネを飛ばして敵を倒すサベルシードの能力を両腕に発現させると、そのまま両腕からサベルシードのタネを飛ばす。
サベルシードのタネ、鋭利な刃物を思わせるタネの皮によって大樹を倒す。大樹が倒される事で本来の目的地を失った雷光は、そのまま壁へと当たってそのまま勢いが消えていく。
「……こ、このアンロッドの完璧で、完全なる魔法が、こんなにあっさりと!?」
「完璧? そんな事はないぞ」
俺が理解している範囲においても、今さっきアンロッドが行った方法は簡単な事だ。
まず儀式や魔法陣の要となる物を発射して、要となる魔法の儀式の要を作る。要を作ると共にそこに一直線の、攻撃力が高い魔法を放ち、要として放った物……この場合は黒い大木に当ててそれを放射状に、攻撃範囲を広げると言う方法である。
最もこの方法が主流だったのは、何百年も前の事だが。
「くっ、くそうっ!」
そして今度は黒い杖を錫杖に変えて、こちらに向かおうとして――――
――――その頭を女死神の鎌がぐさりと刺さっていた。
「こんな所に居ましたか……」
そう言って女死神がなにか呪文を唱えると、鎌から手のようななにかが複数現れ出でる。その現れた手はがしりがしりと、アンロッド――――シュータンクの身体に憑りついた黒い塊だけを的確に掴み取っていた。黒い塊をがしりと掴み取ると、その鎌の刃に収納していく。
「し、死神!? ま、まだこちらにはやる事が……!」
「いえ、これ以上は許しません。そもそも今回の事は予想外の、予定外のことなんですから」
「ぎ、ぎっ、ぎやあああああ!」
そしてアンロッドは鎌の中に吸い込まれて、そのまま消え去っていた。女死神はただ静かに、アンロッドが鎌の中に吸い込まれるのを見ていた。
「……遅れて申し訳ございませんでした、ジェラルドさん」
ぺこりと頭を下げた女死神はそのまま鎌をとんとん、と床を叩いていた。そうした時に、鎌の中から黒い影が必死に逃れようと足掻いているのが見えていた。
「ちょっと敵さんと、こちらの城を守る人と戦ってきました。彼女の話を聞くところによるとこの城で《氷姫》を守る名を持つ者は3人。そのうちの1人を先程倒しましたので、シュータンクも……あれでは戦う事は出来ないでしょう」
シュータンクの方を見ると、彼女の身体は真っ白な透き通った透明の純白に色を落としていた。その身体は身体の向こうの先まで見えていて、触ったら今にもさらさらとした砂になりそうなくらいに崩れそうなくらいに、純白に輝いていた。
「憑りつかれたあれのせいで、シュータンクという存在はもう消えてしまいました。幸いな事と言えば、他に取り逃しがない事が良い方向ですね。この空間ので、全部見たいですし……。
――――これで、使ったのは全回収しましたね……」
女死神が鎌を向けると、黒い大木が黒い液体の塊と言う形へと分解される。そして塊は宙に浮かんで一体化して大きな塊となると、そのまま黒い鎌の中に吸い込まれていった。
「けれどもこれで《氷姫》へと至る障害は残り1人。その残り1つも、未だに襲って来ない事を見ても大丈夫……でしょう。後は《氷姫》本人を――――」
「なぁ」
そう言って《氷姫》の元へ行こうとする女死神に俺は話しかける。
「先程の、あの黒いのは……一体、なんなんだ?」
「ただの黒い塊……私が管理されている死人、です。何百年も前に死んで、自分の名前すら伝えられなくなってしまって、それでも隙を見て何とか生きようと画策する死者。私達、死神の鎌が闇を思わせるほどの黒い色なのかというのは、その鎌の中に死者達を、犯罪者達を中に入れているからです。そう、永遠に近いほどの罪を背負った彼らを……絶対に逃がさない、ために」
「……一つ聞いておいて良いか? そいつらは、いったいどんな罪を犯したんだ? 永遠に近いほどの罪、ってなんだよ?」
そう聞くと、女死神はどうしようもないという顔で――――
「存在した事、それ自体が罪と言うのもあるんですよ」
そうとだけ語るのだった。
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