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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
氷姫と悪夢と紫の書

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78/90

騎士のルーティーンはどのように行っているのか

 ――――自分は愛されていると思えますか?

 その質問に対して、シュータンクは自信を持って「いいえ」と返す事が出来る。


 自分の主、《氷姫》様はあまり他に対して興味を示さない人でした。


 能力は確かに本物(・・)です。

 この氷の城を作り上げた力も、タロットから我々を実体化したあの能力もまた、実力がある物の証でしょう。


 圧倒的なまでの才覚、そしてそれに比例するかのように我が主はあらゆる事に興味を示さない人物でした。

 アンティークを集めるというのを趣味だと主は感じていらっしゃるみたいだが、周りから見ていればあれは趣味なんかではないと断言出来る。なにせ、なにも楽しそうじゃないからだ。アンティークを愛でていらっしゃる時も、我が主はここではないどこか虚空を見ていらっしゃる。


 そもそも、我々を生み出したのだってそうだ。

 タロットから能力を持った人間を実体化する、我が主はその魔法を用いて3体の人間をこの城の護衛として生み出した。


 主を守るための策を城全体に巡らす【力】。

 知りたい事を教える参謀の作目を果たす【皇帝】。

 そして――――実際に侵入者と対峙する【戦車】の我。


 22枚の内、たった3枚。


 全体から考えるとするならば、その数はあまりにも少ない。少なすぎる。

 主の実力が3枚しか実体化出来ないのだとすればそれはあり得ない話ではないが、我が主は以前に氷の兵の大軍隊を生み出していた。そもそもこの氷の城を作って維持するだけの魔力の持ち主が、我々3人だけを実体化させたのも変な話だ。


 ――――単純に話し相手が欲しかった?

 それならば1人で良かったはずだ。


 ――――強い統率者が欲しかった?

 我々3人の誰も、部隊を統率する力を持っていない。そもそも軍隊を指揮するならば、生み出した際にそう言っているはずだ。


 我々は主のなんなんだろう?


 人の子は親から生まれるが、それから先は自分の意思を育て、やがて親元を去って行く。

 しかし我々はそうではない。親に当たる人物――――《氷姫》という主からの魔力的な供給を定期的に得なければ、いずれ身体が崩壊して消えてしまう。親元を去る事も出来ない、そもそも親に逆らう事が出来ない。


 "いったい、我はなんなんだ?"


 いつも我はそれを自問自答する。答えは出ないが、それが日課だった。


 ルーティーンと言う言葉を知っているだろうか?

 優れた冒険者は自分が良い事を得られるという、そんな決まり事(ルーティーン)を持っている。

 靴は左足から履く、必ず決まった時間に起きる、とある食材は食べない……などなど、決まった事を行うと自分に良い事があるという考え方だ。あるいはそれをやる事によって、精神的な安定を願うのか。

 我にとっては後者の、精神的な安定を願う意味で行っている。


 答えはいつも出ない。

 ――――だが、それが良いのだ。それを行う事で気持ちのリセットを行うのだ。


【(この人形は強い、それは認めよう)】


 いつものルーティーンを行う事で気持ちを落ち着かせ、我は現状を確認する。


 これとよく似た魔物、錆人形(ラスティードール)は大したことがない魔物だ。数が多いだけの、どこにでもいる低級の魔物だ。

 しかし、この魔物の中には"魂"がある。騎士を思わせる、我のような紛いものなんかではないような高潔なる魂が。


【(一時的にだが、攻撃力が急に上がった。他にも速度も上がった事も考えみて、補助魔法かそれに近い物を使える……そう考えた方が良さそうだ。他にもなにか攻撃手段を隠し持っているのかも知れない、ならば無意味な攻撃は避けるべきだ)】


 我に回復の補助を行っていた、【力】の方からの援護が来ない事から、あちらにもなにかあたのだろう。


【(――――手段を変えるべき時が来た、ただそれだけの話だ。

 再生能力が落ちたのならば、落ちた事を前提として策を変えるべき)】


 我はそう考え、氷の大地を滑るようにして天井へと張り付くように移動する。


 剣の攻撃手段は自分よりも下の場所にある物を攻撃する事を前提として成り立っており、【上段斬り】というのも自分の目線かそこいらが限界だ。居合い斬りも、流石に想定外の場所からの攻撃には対処していないだろう。

 いや、空を飛ぶドラゴンなんかと対峙する場合も考えて対策ををしているかもしれない。


【(油断や慢心は、騎士である我にとって禁物だ。慎重に、的確に行こう。

 さもないと、我の方が――――!?)】


 そうして天井から次の手を考えようとしたのだが、そんな我の前に騎士人形の顔があった。


【跳んだ!?】


 慌てて床を滑って、距離を取る。しかしそのまま、まるで空中に床でもあるかのように、そいつは我の方へと向かって来た。


「跳んだ? いや、飛んだのだ(・・・・・)


 そのまま彼は剣を横薙ぎにして、我を斬りつける。斬りつけると共に、我の右腕はぽとんと斬りおとされて床へと落ちていった。


【空を飛ぶ……そうだよなぁ、魔物なんだからそんな事が出来ても可笑しくはない。ダメだ、変な事を考えていると剣の筋が鈍ってしまうようだ。いつもの決まりごと(ルーティーン)で、気持ちを落ち着かせねば】


 嫌な状況を払拭するには、いつものルーティーンで気持ちを落ち着かせて平静を装う。

 そうする事で、いつもの冷静な判断を取り戻す。


 "いったい、我はなんなんだ?"


 いつものように返答がない、このルーティーンを行う事によっていつものように平静な状態を取り戻して――――。

 だが、いつもと違っていたのはその返答があった事だ。


《お前はただの人形だよ、我が乗り込むためのな》


【……!? な、なにやつ!?】


 その声と共に、我の身体を真っ黒い闇が覆っていた。良く分からない、我が身体を侵食して来る黒い闇の塊のようなもの。


《折角、命からがら逃げだしたのだ。あの馬鹿な死神が出してくれたこのチャンス、逃す訳がないだろう。

 お前の身体、この"●◇△★"が貰い受けよう!》


【や、やめろ……我は……我の力だけで……!】


《自分がなにものか? そんな事を考えているくらいならば、この我――――"黒白白黒"にその身体を明け渡せ。自分が何者か、そんな無意味な事を考えているようなら、命なんか要らないだろ?

 それよりかは、有効活用のやり方を熟知している"丸箱太星"に譲り渡せ。さすれば、こちらが有効に利用してやる。ウヒヒ、ウヒ、ウヒヒ……》


 そんな下品な笑い声を最後に、我の生涯は――――幕を閉じた。

【丸箱太星】

…良く分からない者として"●◇△★"という記号にして、次は黒文字か白文字かを合わせて"黒白白黒"という名前で、未確認の人物である事を強調しました。

そして、漢字にする際に"△"を一文字の漢字にする場合、なにが適切かと考えて、コ○ンのトリックの1つの"太"を抜粋。分からない人はコナンの【焦って、隠して、省略】という話を見てください。名作です。


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