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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
氷姫と悪夢と紫の書

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76/90

強くなる相手にいつ奥の手を出すのか

「(厄介な事に……どうしましょう)」


 私は魔法の炎の輪の威力を強めながら、次の一手を決めかねていた。小さな獅子達は炎の輪の強化によって以前よりも燃え尽きやすくなっているみたいだが、それでも時間の問題のようである。


「(確かにあの【(オッテ)】の魔法は分析を行い、耐性を取りつつあるみたいですね。これは威力の問題ではなく、性質そのものの問題です)」


 オッテの魔力は相手の力、相手そのものを読みとってその力が効かない存在へと徐々にだが変えている。炎の魔法だとか、雷の魔法だとか、そういった属性の問題ではなく、強さや大きさなどとも違う。

 攻撃してくるその人自身に対して、耐性を付けている。


「――――魔法そのものではなく、個人に対して耐性を付ける私の【力】の能力。この能力がある限り、私は負ける事はありません。だから、この私が負けることなどありえません」


 オッテは自信を持って言い切った。これが普通ならばただの自意識過剰の言葉であると言えるのだが、この場合は確かであると、他ならぬこの私自身が認めていた。


 ――――勝てない、このままの私では。


 相手を弱くする弱体化魔術や、自分の能力をあげる強化魔術――――それを使ってちょっとばかり魔術の威力を上げたくらいでは、オッテの能力からは逃れる事は出来ない。

 対象が私である以上、今までの私の魔法では対処できない。


「(これがもし、ジェラルドさんだったらオッテとの相手も容易かったでしょう)」


 オッテの能力は私が今戦っている感覚からして見ると、恐らくは「魔法解析と耐性創造」。

 相手の魔法にそのまま突っ込んで威力を受けて、その魔法の能力の解析結果をオッテの魔法に組み込む。解析結果を組み込み、それが効かないように魔法を作り変えていく。

 で、あるが故に普通に攻撃すれば多分その効果は受けない。魔術師ではない、剣士のジェラルドならば魔法を使わない以上、解析されずにそのまま切り捨てられただろう。


 それは相性の問題であり、もしも(IF)の話である。

 ――――今、戦っているのは私という魔術師(死神)なのだから。


「もう降参したらいかがでしょうか? 私からして見れば、ここで戦うのはあまり賢い選択ではありません。正しい手段ではありません。まともな行いでもありません。

 だからこそ、ここは敗北を選ぶべきだと進言します。勝利する事は確かに自尊心を保つという意味でも大切ですが、この戦いは空しいです。あそこの錆人形(ジェラルド)と【七の戦車(シュータンク)】との戦いもまた、賢くも、正しくも、まともではありません」


 そもそも何故ここで戦いに来たのですか、とオッテはそう尋ねていた。


「私達は"悪"ではありません。ただそこに、存在しているだけです。

 確かにこの自然の環境は大きく変化しました。砂漠に住むために適した進化を遂げた何十種、何百種にも及んでいる生物はほぼ死滅、いえ絶滅したのかもしれません。その点から見れば、多くの生物を殺したという面から見れば、我々は悪と断ぜられる者なのかもしれません。


 ――――けれども、ただそれだけなのです。


 極寒や竜巻、火砕流などの多くの生物に影響を与える超自然的災害。そんな災害はこの《氷姫》の城以外にも色々とあるのです。むしろこれは、そんな災害の一つにしか過ぎません。

 適応した者のみが生き残り、それ以外が死滅する。それが自然界の掟、力による蹂躙と言う物です。生存には勝利も敗北もなく、ただ生き残る事が大切なのです」


 と情熱もなく、ただ事実のみを冷静に語るオッテ。


「……だから逃げろ、と言うのですか? ここで戦うのは意味がない、から?」


「えぇ、生き残るのです。我が主が、《氷姫》様が望むのは静寂。外の雪景色のように、ただただ静かに静寂な時を過ごせればそれで良いのです。黙ってこの城を去れば、静かに暮らせるのならば我々はなにもしません。ただこの水の国シュトルーデルカに、平和に暮らせればそれで良いのです。

 正しいとか、カッコ良いとか、そんな事はどうでも良いのです。

 ――――もう既にあなたの魔法は解析が終わりました。もうどんな魔法を披露しようとも、私の前では効きません」


 そろそろこれが必要になってくるのではないのでしょうかと、オッテは白いハンカチを氷の床に放り投げた。


「……これは文字通りの意味で、白旗と言う意味ですか?」


 少し冷めたような瞳でオッテを睨み付けると、私に対してコクリと頷く。


「残念ながら白馬に乗ってピンチを助けてくれる王子様、と言うか騎士様はこの場には現れませんよ? 何故ならば今はうちの騎士と対戦中ですからね。片手間で、こちらに来ながら倒せるような奴ではありませんよ? うちの自慢の騎士は」


「さっきから何度も、何度も――――私個人では勝てない、と言い過ぎじゃないかしら?」


 少し怒りを強く(あら)わにした口調で、私は言う。


「私の魔法は全て解析され、あなたの能力が私に対して耐性を付けているのは知っています。

 状況だけ見るとするならば、私の力が無効化されている面から私の敗北は濃厚。けれども、知っていますか? それは私だから勝てない(・・・・・・・・)、ただそれだけが理由だと言う事に」


 そう言うと、死神の身体に強い白い光が包まれていく。


「……言っている意味が分からないですね。この場で【八の力オッテフォルティチュード】と相手しているのはあなただけ、他に救援はどう見てもございませんが? それに、その身に纏っている白い光は……なんなの? あなたの魔法は効かない、そう言ったじゃないですか? あまり趣味ではありませんが、分からず屋には少々仕置きが必要ですね」


「人に優しく諭しかけるような形で聖人ぶっていますが、自分のみが優位に立っているという上から目線なのは気に喰いませんね。私の攻撃が効かない、多少強くなるくらいで効かないのなら――――次元を越えて強くなるしかありませんね」



 そして死神の光が収束すると共に、死神は進化した(・・・・)

 姿とかそんな形ではなく、存在自体が一次元上の物となったという感覚であった。



「……なっ、解析データと一致しない? 可笑しい。一度解析したら多少の誤差はあれども、解析結果とここまでの誤差は……これじゃあさっきまでとはまるで別人……。

 えぇい、ならば先程までのデータを解析して生まれたこの獅子達で……」


 オッテが指をパチンと鳴らす前に、私は魔法を唱え始める。


「オッテ、あなたの長所と短所はこの戦いと減らず口から理解しました。

 あなたの長所は高度な解析技術、どんどん解析されてこちらの能力が効かなくなると言う長期戦闘(時間稼ぎ)に特化した能力。

 故に――――短所である一撃必殺を狙うのがあなたにとっては一番良い。この私の最高の切り札をお見せいたしましょう」


 私がそう言うと共に、頭上に黒い闇が物体として生まれる。黒い闇はぶよぶよと粘着物のように揺れ動き、その上で鋼や石のようなごつごつした硬さも併せ持っていた。そしてその闇は一つの形に、大槌(ハンマー)を思わせる形へと構成される。


「……解析結果が可笑しいです。魔術や魔法は空気中に含まれている微量な魔法の素(魔素)から構成される、その構成構造を確認する事で、構成構造の個人特定して、個人の魔法に対する耐性を付ける。

 それなのにあなたの頭上に浮かんでいる黒い物(それ)はなんですか? 明らかに異質な力を持って構成されていて、魔法のように中で何かの物質が動いている……けれどもそれは決して魔法ではない? 魔法ではないこれは一体……そしてこの異質な魔法ではない、この力……これはまるで我らが――――」


「これぞ、死神の力――――宝槌、発進!」


 手を振り下げ、その動きに合わせて頭上に現れたハンマーはそのまま振り下ろされる。振り下ろされ、そのまま【力】の彼女にぶつけていた。


「ばか、な……そんな事が……」


 そして彼女はそのまま消えていく。彼女の身体から一枚のカードが最後飛び出してこなごなにくだけたと思いましたが、そんなのは些細な事でしょう。

 大事なのは――――


「……これでなんとかなるでしょ、ジェラルド」


 ――――これで、ジェラルドの全力が振るうという事です。

 あの騎士の相手は、任せましたよ……。


「さて、問題は……この後始末ですかね」


 氷の床には黒い闇が纏わりつくように張られており、そして闇はどんどんと侵食していく。闇は侵食し、まるで生き物のように動いて増えていく。


これ(・・)をこのままこの世界に残すのは、色々とまずいのです。

 だから回収しませんと……でも、この回収は色々と手順があって難しいんですよね」


 大仕事になると、私はこれからの仕事の大変さに辟易(へきえき)するのでした。

よろしければご意見、ご感想をくれると嬉しいです。


【オッテフォルティチュード】

…氷姫の力を受けて大アルカナの1枚【八の力】が実体化した姿。魔法による後方援助を得意とし、また戦闘の際には獅子を生み出して相手の能力を解析して耐性を付ける長期戦を得意とする。

美しい女性の姿をしており、右腕には獅子の顔がくっついている。これはアルカナに描かれている、『獅子を手なずける美女』をイメージしての姿だと思われる。名前の由来はオッテは【八】、フォルティチュードは【力】の類語である【剛毅】より。

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