不埒な輩に与えるべき処罰とはなにか
最高の好敵手と送る、人生でも何度あるか分からないような物凄い戦い。
俺の魂は久方振りに、錆人形の身体を手に入れてから初めてと言っていいほど、興奮していた。やはり良い戦いというものは、人に良い影響を与えるものだと心の底から思ったほどだ。
(まぁ、それがこんなふうな形で邪魔をされるまでだが)
槍と剣との火花が散るような激しい戦い。それによって心が揺さぶられて、戦いの中で高揚感を感じる事が出来た。
――――そんな最高の気分の中で入って来た、無粋な兵士達。
彼らの手には剣や槍なんかではなく、全員がハンマーを手に取っていた。ただ俺たちの戦いを止めに来たというよりかは、俺という鉄の人形を壊すために来た布陣である。
(こういう時のために備えておいた……いや、初めから壊す感じだった、と考えるべきか)
このノット・メギツとの戦い。勝者こそ決まっていなかったが、その代わり脱落者は決まっていたようだ。
――――この俺がこの闘技場から、このような無粋な形での幕引きは望まぬ。
それにこの場には俺以外に、俺の最高の技を見せたい相手が居る。
先程、俺との戦いに対して、最高の一撃を見せてくれたノット・メギツに……俺は応えなければならない。
俺は意思疎通の能力を持って、ノット・メギツに意思を伝える。
『敬意を持って戦ってくれた貴方に感謝しよう。
その敬意に報いるためにも、こちらも今出来る最高の技をお見せしよう』
ノット・メギツの反応の返しを待つまでもなく、俺は最高の瞬間のための準備を始める。
俺が集めて来た、多数の魔物達の部品。
一つ一つが使い所さえ誤らなければ使える優秀な魔物の身体の一部であるが、その全てが必ずしもすべての状況に対処出来るという事はない。ただ一点のみに対して使えるかもしれない、という形である。
陸を速く走る魔物、海を猛スピードで泳ぐ魔物、空を我がもの顔で飛ぶ魔物、常に全身が真っ赤な炎に包まれている魔物、そしてどう説明するかが妥当かが分からない魔物……。
そういった魔物達は種族も違えば、住む場所、それに主食とする餌も違う。
――――けれどもたった1つ、全ての魔物には共通項が存在する。「魔物」は「魔力を持つ生物」の略称であり、全ての魔物には多かれ少なかれ魔力が存在するのだ。
(普通の人間が扱えるのは体内の魔力のみ、生前は魔法で戦う事が出来なかった俺が高度な魔力操作は出来ない。けれども……誰かの助けがあれば別だ)
俺の身体の中には、インヴィディアから貰った1枚の羽がある。
この羽にはいくつかの効果があり、その効果として『高度な魔力操作』である。
(俺が持っている全ての身体の一部を一度、魔力へと変換する。そして、新たな身体の一部へと再構築させる。
――――この妖精の羽の力を使って)
身体の上に布として、オーラとして、俺の身体の上に魔力を作り直す。俺だけではなく、妖精の羽の力も借りて。
再構築されて、赤く光るオーラの身体。
そして手で強く握りしめる剣からは、黄金に光り輝くエネルギーがそこに纏われていた。
(これが今出来る、最高の一撃――――『銀の人形の鍛冶作業』)
全てのエネルギーを戦いのために使って、新たなる鎧として作り直す。
そして繰り出すのは先程見た、あの華麗なる一撃の踏襲。
(槍の螺旋はあの槍の特性である刺突を一番引き出した戦い方だ。けれども剣の一番の特性は斬撃、物を斬る事だ。ならば同じ螺旋であったとしても、武器に応じた技であるべきだ)
周囲を囲むようにして、逃げ場を失くすように立ち塞がる闘技場の粗っぽい兵士達。
じりじりと逃げ場を失くすように、こちらへ向かってきているが俺からして見れば好都合だ。
(さぁ! 舞台も、道具も、どちらも準備が完了している!
――――初披露だ、螺旋の剣戟!)
俺はクルリと回転するように、舞うかのように剣を振るう。俺の身体の中に入っていた全ての魔物の身体を再調整して生み出した魔力のオーラを用いて、剣を小刻みに振るいながら回転させる。
クルリと回転するかのようにして、俺の身体の周りに生まれた剣による剣戟の渦。その渦はどんどん大きく、広がっていきながら兵士達を巻き込んでいく。
「ぐっ、ぐわぁぁぁぁ!」
「な、なんだ! この剣戟の渦はぁぁ!」
「ひっ、ひぃ! こ、これはぁぁ!」
『お、おい! ちゃんと殺しに……いや、壊しに迎えぇぇぇぇ! そのガラクタはこの闘技場をこれ以上盛り上げる事はない、故にもうそいつに用はない! さっさと、やれぇぇぇぇ!』
司会の人の、本性を剥き出したかのような声。
その声からは先程までの人を楽しませるための声なんかじゃなくて、この闘技場に不必要な物を問答無用で排除しようとする意地汚い声に聞こえた。
(これがあの意地汚い奴の、本当の本性……いや、この国の真の姿と言うべきだろうか)
司会の意地汚い声に対して観客が本来取るべき姿は落胆とか、そう言ったイメージや印象とは違うからこその答えになるはずだ。
それなのに観客の人達の反応は興奮、先程までの俺とノット・メギツとの戦いなどと同じ……いや、それ以上に闘いに対して異常なまでに興奮している。
……お国柄によって、人々の興奮のポイントは変わって来る。
けれども、こんな状況下で興奮するのは人間としては変わっている、いや変だと言うべきだろう。
(――――さて、兵士は既に倒したか)
小さな風が時間と周りの風を巻き込んで大きな台風となるように、俺が起こした斬撃の渦は周囲の兵士達を巻き込んで切り刻んだ。もう二度と戦えないってほどではないだろうが、しばらくはそこでゆっくりおねんねしてもらおう。
(さて、この場所とももうおさらばだな)
迷子になった場合はその場から動かないのが得策である、故にこの場所に止まり続けた訳だが……こうやって排除されかねない状況になってまで、この場に居続けるのはあまり賢い選択とは言えん。
「それに……お迎えも来たようだ」
『お、おっと!? わ、わたしの聞き間違いなのでしょうか……!? 先程、錆人形が喋ったような……』
おおっと、今は喋ってはいけなかったな。今のこのタイミングでは、"喋る魔物"という点は受け入れられていないのだから。
最も喋る魔物程度なら、これから起きる異常事態に比べれば些細な事態である。
「うふふ……。なんだか面白い気配がしたから来てみましたが、本当に面白い状況よね」
ふらっとお店に買い物に来たかのような口調で、そのお姫様は現れる。
彼女の背後には付き従う臣下のように、まるで犬のように付いていく家臣のように、彼女の背後では大量の雪が塊となってこちらに来ている。
「――――人の歴史というのは、基本的に戦いと誤解で出来ていますわ。欲しい物があるから戦い、そして些細なすれ違いや勘違いによって生まれる誤解による戦い……それが新たな戦いになるとも知らずに。
それによって新たな文化が、美しい物が生まれると考えると、この状況も悪くはないわね?」
青いドレスを優雅に着こなす彼女は、《氷姫》。
ラースと一緒にインヴィディアを助けに向かった《埃神官》の居城、古代文献研究施設に居た、全てを凍てつかせる氷の姫君は、「うふふっ……」と色気に満ちた笑みを浮かべていた。
――――砂漠の国に、雪を伴って現れた《氷姫》。
果たしてこの国にどんな影響を与えるのか? そして俺に対しては?
その答えは《氷姫》の背後に現れた、雪を伴う雲のように黒く、深い場所にあって見えなかった。
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次回はちょっとした、今作作成に関する裏話になる予定です。




