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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
砂漠と極寒城の青の書

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60/90

彼は今、どこでなにをしているのか

 水の国シュトルーデルカは、周りを砂と岩で囲まれた砂漠の中にある大国である。一年中を通して日が照って気温が非常に高く、至極厳しいこの環境で生き抜くために進化した魔物達は狂暴で乱暴。湧き出る水で涼しい環境を作り上げ、さらに魔物達から守る結界を張るという、人間が砂漠でも暮らせるためにここに生まれたとも言われているこの水の大魔石のおかげで、人々はこの地で暮らしてこれた。

 そんなシュトルーデルカで発達したビジネス……その1つが「闘技場」。


 奴隷達は自身の命を賭けて戦い、観客は他人の命を賭けてお金を払う。

 常に誰かが勝って負けて、お金が動き、そして命が消えゆく……それが「闘技場」。


「レディース・エェンド・ジェェェントルメェェェェン! 皆様、本日もたいへぇぇん長らくお待たせ致しましたぁぁぁぁ! 本日の対戦カードはこちらぁぁぁぁ!

 連戦連勝の灰色の人形、ミスタァァァァ・サビィィィィ! 相対しますは、あのドラゴンの首を斬り落としたとも言われている傭兵、ノット・メギツゥゥゥゥ!」


 甲高い司会者の声、それが聞こえると共に裏では俺の身体を押す騎士。騎士、と表現してはみたが、下卑た顔と口元から垂れている涎、そして"鍛えている"という言葉とは程遠い締まりのない身体つきから見ても、騎士には見えない。


「ほら、さっさといけ! 呼ばれてるぜ、人気者」


「…………」


 俺は何も答えず、いつものように会場へ向かって足を運ぶ。

 ここで何を言っても、「ただの強い魔物」程度に思われている今の状況ではなにも変わらないと知っているから。

 俺が会場へと足を踏み入れると共に、響いて聞こえてくる大歓声! そして投げられる紙吹雪!


「良く来たな、ラスティー・ドールよ! 我と共に戦い合おうじゃないか!」


 相対するは――――長き黒い槍と全身を黒き鎧で身を包んだ、全身黒一色の騎士様。

 鎧越しでも分かるぶ厚い筋肉、槍から漂う龍の気配、そして全身から発せられる強者としての風格と品格。

 先程の騎士様よりもよっぽど騎士っぽい。まぁ、金と戦を求めて傭兵となった人間の生き方は、騎士とは程遠く、まるっきり逆ではあるが。


「魔物に説法とか無意味、喋りもしない相手に対して戦いに言葉は不要か。

 ――――1か月近くも全ての戦いに対して勝って来た謎の魔物、とは思えんことだろ? 龍と戦う時よりも楽しめそうだぜ!」


 そう言って槍を構え、クルクルと自分の頭上で回して余裕を見せる傭兵ノット・メギツ。


(気合十分だな……ならこちらも想いに応えなくてはならない)


 僕もまた剣を構え、戦闘態勢を整える。


「おぉぉぉぉぉぉ、どちらも戦う準備は万全という姿勢だぁぁぁぁ! 2人とも準備は万端で、観客達のボルテージも最高潮に達する勢いだぁぁぁぁ!

 果たしてどちらが勝つのか楽しみでしょうがなぃぃぃぃ!

 さぁ、時は満ちた! 勝つのは騎士のような戦いをする人形か! はたまた龍を殺した傭兵か!

 運命の対決は今! 幕を開けるぅぅぅぅ!」


 審判の指示に従い、俺とメギツの2人は互いに戦いの姿勢を見せる。


「さぁぁぁぁ! レディぃぃぃぃぃぃぃぃ、ゴォぉぉぉぉぉぉ!」



「うぅっ……な、なぜ私がこんな目に……」


 ううっ、ダメ……。船での長い旅で吐きそう……。

 こういう時は、あの良く分からないスライムさんから手に入れたアスなんとかっていう所に吐いておきましょう。


 自分汚れない。

 船も汚さないから怒られない。

 アスなんとか、最高! ……ま、まぁ、こんな事でも思わないとやっていけない訳でして――――。


「……それもこれも、ジェラルドさんが悪いんです」


 ジェラルドさん……騎士の人形の方は王都で《蒼炎》さんを倒してどこかへと消えてしまいました。

 インヴィディアさんはなんらかの魔術的な効果によって、この国……砂漠と岩しかないようなこんな国のどこかに飛ばされたみたいです。そのどこかは分かりませんが、なんで私1人でジェラルドさんを探しにいかなくてはならないんでしょう……。


「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」


「あ、あぁ……うん。大丈夫です」


 身体から見える龍の鱗、普通の人間ではない事を悟らせる物をフードの下へと隠して、私はとぼとぼと船から降りるために歩みを進める。

 断じて、後ろの人からの「早く降りろよ」という視線にビビった訳じゃ……はい、そうです。ビビったんです。嘘ついてすいませんでした。ごめんなさい。


「だ、だいじょうぶかい、お嬢さん? いきなり地面に頭を打ち付けたりして、本当に大丈夫なのかい?」


「……あ、はい。か、身体は丈夫な方ですので、お気になさらず……えぇ、私なんか小物になんか気を留めないで大丈夫ですので! むしろ考えて貰う方がおこがましいと言いますか!」


「だ、だいじょうぶ……なら、良いんだけど……」


「え、えぇ! はい! 大丈夫ですので!」


 この場から一刻も早く立ち去りたい!

 そんな気持ちの、考えの下、私は早足でその場を後にする。


「うぅ……ど、どこにいるんだか……」


 あの人(・・・)は、この国に居るのならば彼はきっと自分だと分かる痕跡を残しているはずと言っていた。

 だけれども、本当に手がかりなんてあるんだろうか? むしろもう始末されている可能性の高いだろうし、探すだけ無茶……いえ、無意味な事になるのかもしれませんし……。


「お嬢ちゃん、水の国シュトルーデルカへようこそ! 今、シュトルーデルカでは闘技場が熱いよ! 見て良し、賭けて良し、熱くなって良しの三つの「良し」が揃った「闘技場」をどうぞよろしくぅ!」


「あっ……ありがとうございます。い、いただきます」


 暑くて悪し。

 目に砂や岩が入って悪し。

 人が多すぎて悪し。


 ……私にとって、今の所この国はその三つの「悪し」が合わさった、いや探せばもっと「悪し」が揃ったような国です。

 ううん。むしろこれから良い所なんて見つからないだろうし、この印象をずーっと続けるんだろうなって事は予測できますが……。


「えっと、あの人の言った通りになっちゃいました……」


 私が貰ったその新聞、そこには「闘技場」の事が事細かに載っていて……そこには「騎士人形」というジェラルドさんを彷彿とさせる闘技者の事が書かれていました。


「うぅ……これはいかないといけませんよね――――」


 と、私はこの国まで行く事を決めた今の私の主の事を思い出す。



「どうしろって言うんですか……マルティナ姫様(・・・・・・・)



 奇形児で奴隷でもある私の、今の私の身の安全を保障してくれているマルティナ姫様の事を思い出して憂鬱な気持ちになるのでした。

第2部、開始です。

これからも拙作を、どうかよろしくお願い致します。

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