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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
王都と《蒼炎》の銀の書

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57/90

その戦いをなんと呼ぶのか

 朝起きたら眠気が一切襲って来ない、むしろ絶好調なくらいの朝を迎えられた。

 朝ご飯は特に美味しかったし、今日の身体は絶好調に良く回った。


 朝から快調、絶好調!

 これはあれだ、最高にテンションMAXって奴だぁ!!


 物凄く絶好調な、国家滅亡を起こすには丁度良い日であった。


 こういう時はなにをしても上手くいく、最高にハッピーという奴である!






 蒼い火炎を纏った、熊を思わせるような巨大な脚と腕。

 そして鋭利に尖った大量の剣を背中に背負い、それをうねうねと触手のように動かしながら剣を地面や壁に突き刺していた。

 化け物と化した《蒼炎》は狂乱の舞を踊り、国を滅ぼさんとばかりに暴れ狂う。


『ひゃひゃひゃひゃひゃっ! 狂う、狂わば、狂い踊れぇ!』


 そこに口はなく、だけれども意思だけははっきりとその暴れ狂う様から強く、そして痛いほど伝わっていた。

 ――――こんなに良い国をたかが一時の欲望のためだけに壊そうとしている。


「……分かりやすくて良いな。頭を使うのはあまり好かない」


 俺は両手に持った2つの剣に蒼い火炎を纏わせ、その上で奇形な緑色の巨大な左腕と左手に持った剣の方はさらに火炎を獣のように形作っていた。


「お前を倒せば良い、お前を倒せばこの国は幸せになる。簡単な話だ」


『こっちからしても容易な話だ! あんたさえ倒せればこの国の崩壊は決定事項だからなぁ!』


 ギャハハッ、と笑いながら走ってこちらまで来る《蒼炎》の化け物。


(アン)(ドゥ)(トロワ)! (アン)(ドゥ)(トロワ)! (アン)(ドゥ)(トロワ)!』


 複数の尻尾と繋がった剣を振るわせながら、リズムに合わせて楽しそうに笑いながら突き刺して来る。

 俺は双剣にて2本の剣を弾き防ぎ、そして3本目の剣は避けて魔物に向かって斬りつけていた。


「くっ、らえ!」


 《蒼炎》の身体を剣で斬り、俺の蒼い火炎が《蒼炎》の左腕を燃やし尽くしていた。


『この左腕は燃え死んでいるから要らねぇな! 斬り落とす!』


 背中の剣で自身の左腕を斬り落とした《蒼炎》は、大量の剣のうちの1本を斬りおとした左手首に巻きつけて新たな腕として再構築していた。

 《蒼炎》はその再構築した左腕で床を叩きつけて、亀裂を生み出していた。


「身体を再生ではなく、別の腕として付ける……。なら、再生能力はないと考えて良さそうだ」


『ハハハッ! 俺様にとって死は意味はないと言っただろう!

 再生とは命に限りがある愚か者が取るべき手段であり、俺様のように死から離れた者には再生など必要ない!

 ――――ダメなら別の身体に乗り移れば良いからな! キャハ、キャハ、キャハハハハ!』


 怪物は大きな怒号と共に両脚で跳ぶと共に、剣で代わりに作った左手と尻尾の複数の剣も同時にこちらに向ける。


「――――そうか、回復能力はないのか」


 俺はそう冷たく言い放ち、持っている2本の剣をしまうと右手で尻尾のうちの1本を掴む。


『お、降りやがれ! 降りやがれぇぇぇぇ!』


「そんなに油断してくれているならば、こうすればどうだ!」


 《蒼炎》は掴んでいない残りの剣によって俺を刺し殺そうとしているが、剣と無駄に長い紐で攻撃範囲こそ長い。けれどもそんなに長い紐では遠い所はすぐに攻撃出来ても、近い所には攻撃し辛いだろう。


「そんなに(のろ)かったら、俺を倒せないぞ!」


 俺は腰から剣を引き抜いて化け物の尻尾の剣を全て斬り、そのまま化け物の左腕の剣を斬る。


『グワァァァァ!? き、貴様ぁ~!』


 ボゥッと、蒼い炎が身体全体を覆うように燃え上がって、俺を燃やすように炎が襲い掛かる。

 炎は俺の身体へと向かって来て、俺はその炎に右腕を突っ込ませる。右腕は《蒼炎》の、意思を持って丸焦げにして塵へと変えるために飲み込まれていった。


『キャハハ! 俺の尻尾の剣と、左腕はやられた!

 認めてやるよ、俺は調子に乗っていた! だけれどもこういう時は正確にやるべきだったんだ、計画が本当に実行された時にこそ高笑いすべきで、今は一番気を引き締めるべきだったんだ! だけれどもどうだって良い、お前は既に俺の炎の手に落ちたんだ! キャハハ!』


 俺の鉄の右腕は燃え上がり、その炎は身体にも引火しようとしている。

 この勢いだとすぐにでも俺の身体はこの青い炎によって燃え尽きてしまうだろう。


「……あぁ、再生能力がない俺にとってはお前の攻撃は致死性の攻撃に等しいだろう」


『そうだ! お前も俺様と一緒だ! たった1つの目的に執着する者、そして再生能力はない! 1つだけ違うとすれば、俺様はまだこの蒼い炎で身体を作る事が出来る!』


 化け物の身体の炎が一層青々と燃え上がり、その蒼い炎は左腕を包み込んで新たな焔の腕として再構築されていく。


『だがお前にここまでの精密さが出来るか!? ユーリ・フェンリーのような、俺達(・・)ではないお前が、そんな高度な事は出来ないだろう? キャハハ!』


「……あぁ、そんな高度な事は出来ない。しなくて良いからな」


 俺は右腕と身体とのネジを取る。ネジを取ると、蒼い焔によって燃え上がる右腕がぽとりと落ちる。


「この身体に再生能力など必要ない。別の腕を代わりに使う能力さえあれば十分だ」


 俺はそう言って腰の2本の剣のうちの1本を右手首に付ける。

 右手首につけると、先程の右腕を動かすのと同じように剣が自分の腕のように自由自在に動く。


「――――これで元通りだ」


『どこがだ? その身体は騎士ではないな、まるっきり化け物にしか見えないな、元隊長さんよぉ』


「そうだな、《蒼炎》」


 鉄の身体に右腕は剣、左腕は奇形に歪んだ巨大な緑色の腕。

 ……人には見えないし、騎士にも見えないだろう。


「だけれどもどうでも良い、お前を倒せるならそれで良い。

 お前のような化け物になる気はないが、お前を倒す剣にでもなれば良い」


『そうだよなぁ~。どれだけ身体を別の物に入れ替えようが、人間にはなれないだろう? 化け物にはなれるかも知れないがな』


 先程と同じように、『キャハハ!』と気色の悪い笑い声をあげる《蒼炎》。


『良いぜ、一部を焦がしても燃え移る前に切り離せると言うのなら、全身を燃やし尽くしてやるよ。切り離せないくらい、燃やし尽くして黒焦げにしてやるよ!』


 そうやってゴゥゴゥと燃え上がる蒼い焔。

 それは俺を、いや俺の身体全身を燃え上がらせようとじわじわと迫って来る。それは意地汚い、あいつの性格が見え隠れしていた。


『燃えろ! 燃えろ! 燃えろ!

 全てを燃やしつくし、あいつの身体を火の海に変えてやる! バラバラの塵へと変えてやる!

 泣いて許しを請え、うざったらしい隊長さんがよぉ! キャハ、キャハ、キャハハハハハハ!』






「話はそれで終わりか」


 ポトリ、とまるで花が枯れ落ちるかのように《蒼炎》の顔が首から離れる。


「お前が何者だったのかを聞きだそうと思って、ここまで粘ったが意味はなかったな。

 お前には何もない、俺はお前が元は俺の隊の誰だったのかを聞きだそうとしていた。けれどもお前のような、貧弱で、脆弱で、言葉足らずの人間など俺の隊には居ない。いや、居たとしても覚えていないほど空虚な奴だったんだろうな」


 人形の瞳は何もうつさず、ただ冷ややかな印象を与える顔面が《蒼炎》をじっと見つめている。


「お前は国を落としたいと喚いていたが、お前なんかが落とせる国なんかはない。

 そう、絶対にだ」


 そこにあるのは騎士と、それに討伐される魔物の姿ではなかった。

 英雄譚のようなカッコいい、絵になる光景(すがた)ではなかった。


 ただ単に2体の化け物が戦い合っただけの、おぞましい惨状のなれの果てがあった。

 怪異譚のようなおぞましい、化け物同士が戦い合った惨劇(こうけい)がそこにはあった。

よろしければご意見、ご感想をくれると嬉しいです。

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