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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
王都と《蒼炎》の銀の書

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《蒼炎》はどのような存在なのか

「さぁ、第2ラウンド開始と行こうじゃないか?」


 自分の頭に手持ちのナイフを深々と頭に刺した《蒼炎》は、死に際とは思えないような世迷言をのたまいながら、そのまま命を失って絶命した。

 たらたらと地面に沿って、元々が俺の身体であったそれから大量の血液が流れ出でて、そのまま顔色が悪い青白い顔となって倒れていた。


「しんだ、のか……?」


 しかしなんだか、元凶となった人が死んだはずなのに物事が終わった感じがしない。

 化け物となったルルゲイルも無力にした後は彼女を殺して(助けて)、どこかに別れて消えてしまったアケディアと合流して帰れば終わりだろう。


 さて、後は姫様にばれないように帰れば……。


「……ッ!?」


 しかし、そんな俺の背後にゾッとするような恐怖の感覚。

 ……これはあれだ。戦場で強者同士の命のやり取りをしている時の、剣と剣との激しいやり取りをしている時の感覚である。


 1発1発、1回1回の剣の斬り合い、その最中に訪れる戦いへの高揚感と共に訪れる死の感覚。

 全ての生物が持つ、死ぬ事を脳が、心の奥底の魂に刻み込まれた感覚。

 得体の知れない、悪意の塊が近くにあるような、人間の獣としての本能が教える恐怖の感覚。


「一体何が……」


 人間は未知を恐れる。

 

 なにが入っているか分からない箱。

 どんな物が塗られているか分からない極彩色の物体。

 どんな食物が使われているか分からない食べ物。

 得体の知れない化け物。


 なにが自分に襲い掛かろうとしているのか、なにが自分を脅かそうとしているのか、それが何か分からない内は必要以上に恐れてしまう。

 だから人間は怖くても確認するのだ、自分を恐れているのはなにかと。


 俺は振り返る。


「な、なんだぁ、あれは?」


 振り返ったと共に、俺の目に映り込んだのは蒼。

 真っ青な、たぎるように燃え上がる、蒼炎(・・)であった。


 その蒼炎は俺の身体の死体、そしてルルゲイルの身体を覆っていた。


『グッアアアアアアアアアアアアアアアアっ!』


「ルルゲイル! 彼女ごと燃やして俺を燃やす気か、放火魔が!」


 大きな声で言い切るように言うと、あの忌々しい声が空間に響き渡る。


『放火だなんて、ちゃちな犯罪なんかには興味はない。俺が興味あるのはただ一つ、国を滅ぼすと言う崇高な国滅ぼし物語だけさ』


 それは《蒼炎》の、悪意に満ちた声であった。


「そ、《蒼炎》!? バ、バカな……お前は自殺したはず!」


『さっきも言ったはずだ、俺様に死と言うものはない。先程の自殺に見えるような行動も、俺様にとっては単なる過程に過ぎない』


「過程……?」


 『ひゃひゃひゃっ……!』と、笑いながら青白い炎が揺れ動いていた。

 どうやらあの青白い炎から、《蒼炎》の声は発せられているようだな。


『人は命を、身体を粗末にしやがる。いつの時代だって自殺する人間は後を絶たねぇし、自らの行動で破滅をもたらしてしまったバカはいつの時代にも存在する。奴らはひどく身勝手で、そしてどこまで言っても自分なんてどうだって良いと思ってやがる。


 「俺はもう……死ぬのか?」と、生きる可能性を諦めて自らの死を受け入れる戦士。

 「自分はもうダメです」と、たかが一時のスランプのために絶望を感じる芸術家。

 「そんな……事は……」と、一回の失敗で死を覚悟した騎士。


 俺様からしたらそんな事はどうだって良い。そう、本当に心底どうでも良い!

 だが感情によって死に近い絶望を感じる者には、魂と身体の間に隙間が生まれる。

 生命と言うのは一度きりが通常であり、常であり、そんな奴らが大事な、大事な、生命を無意味に無駄に仕様としている様を見ていると、無性に奪い取りたくなってしまうんだよなぁ?


 そのために、俺様は身体と魂の間を開ける魔法を開発した。それによって俺様は死に瀕して、自身の命が要らないと思った相手の身体を横取りする事が出来るようになったのさ』


「命が要らない……そうか、俺はあの時……」


 錆人形(ラスティードール)の討伐に行った際の、蒼い炎を纏った男によって胸を貫かれたあの時、俺は確かに死を覚悟していた。

 《蒼炎》はあの時の、死を覚悟していたあの時に空いた隙間を広げて身体を奪ったのか……。


『要は再循環(リサイクル)、だな。生命が要らないと言う者から、俺様はその身体を奪って生き永らえていた。

 死ぬのが嫌なら生きれば良い、身体が滅ぼされるのならば新たな身体を用意すれば良い。

 幸い死にたい人間は大勢居る、身体はそいつらから調達すれば良い。ただそれだけの話に過ぎない』


 使いたい物は、使えば良い。

 貰いたい物は、貰えば良い。

 勝手に捨てたのはあちらであり、拾うのは拾い主の自由である。

 いまさら欲しい。返して欲しいと言われても知る由はない。既にもう、これは自分の物となったのだから。


 それが《蒼炎》の言い分であった。

 国を弄ぶ、身体を奪う強奪犯の言い分であった。


『まぁ、自分自身も一度死に近い状況にならないといけないと言う制約こそあれども、他人の魂を追い出して他所の身体を奪い取る。それが俺様の力なのだ』


 ゆらゆらと揺れ動きながら、蒼い炎は化け物の身体を覆って行く。


『お前は良い障害となってくれたよ。そう、本当に良い障害となったくれた。

 あそこまでの人のみを捨て堕ちた身ではあったが、あの頑固な女騎士は未だに死を覚悟してなかった。強情に、自分が意思を強く持つ事によってこの世界が救われるだなどと言う、そのような妄執を抱いていた。

 けれどもお前が、お前と言う騎士の魂が入った鉄錆の人形が、勇敢に戦う姿を見て、何故だか知らないがあいつは今まで繋いできた生への欲望を捨てた。

 ――――そう、俺様が身体を奪い取る条件が揃ったのだ! なにかは分からないが、俺様は嬉しいぜぇ!』


 化け物に蒼い火炎が纏わりつつ、その身体が変化していく。

 先程両腕と両脚が斬りおとされた場所から蒼い火炎が纏われると共に、熊を思わせる毛深い蒼い腕と脚が生まれていた。

 背中に大量の剣が現れ出でると、それは全身に突き刺さって黒く毒々しい邪気を纏っていた。


『お前には感謝しているぜ、ジェラルド隊長さんよ~! 俺様に新しい、しかもこんなに優秀な身体を与えてくれたことに関しては感謝してもしたりないくないだ。だからよぉ、せめてもの感謝の礼としてこれを送ろうじゃないか、そう安寧たる本当の死と言う物を!』


 ドンドンと、大きく地面を踏みつけると共にその力を誇示する《蒼炎》。

 その様はまるで、自分の力を誇示したいだけの子供の駄々をこねる様に似ていた。


(いや、まさしくそうなのだろう……こいつが行っている事は子供そのものだ)


 子供と大人の違いはなにか、それに対して多くの答えが出るとは思う。しかし今回の場合に限って言えば、それは『妥協』である。

 どんな人間でも完璧に全てを達成する事は出来ない、なのである程度の妥協点を見つけている。

 それは自分の身に限りがあるからこそ、そうであると分かる。

 壁を見つけると、その壁を乗り越える術をどうにかして見つけ出そうとする。


 しかし《蒼炎》にはそれ(・・)がない。

 妥協点を見つける事など知らずに、自分の目的のために邁進する。

 壁が生まれ出でたとしても、別の人間の身体を奪い取る。いわば別の人間を奪い取って、壁を避けて生きて来たのだろう。


 そんな《蒼炎》には、人の気持ちなぞ分かるまい。

 ルルゲイルが、どうして生きるのを諦めたのか。


 それは恐らく、俺に後を任せたんだ。


(――――この怪物を倒す事を任せて)


 その想いに答えなければならない。

 それが俺の、俺なりの想いを繋げると言う事だ。


「さぁ、化け物退治と行こうか。

 お前のような化け物をこれ以上、この城にのさばらせる訳にはいかないという事だ!」


『何を言おうが、無駄な事。

 確かにジェラルド隊長の身体は立場的にも嬉しい限りではあるが、この身体は戦闘に特化していて嬉しい限りだ。だけれども、国家滅亡は果たさせて貰いましょうじゃないか。

 この風の国ヴォルテックシアの滅亡はすぐそこだ! ブーワッハハハハハハハハ!』


 そうはさせない。

 俺の、騎士としての名誉と誇りにかけて。

【《蒼炎》の能力】

…自分の生を諦めている相手を対象とした、身体を奪い取る盗難の能力。相手の魂を押し出し、無理矢理自分の魂と身体とを繋げる事が出来る。それを利用して長き時を生き永らえて来た。

この能力には自身も身体と魂との繋がりを離れさせる必要があるため、自身も自殺をしないとならない制約がある。

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