化け物はどのような命令にて戦うのか
『ガゥオッ!』
と、化け物になってしまったルルゲイルは地面へ前足を強く踏みつけていた。
強く踏みつけると共に地面から大量の血がついた槍が大量に突き出され、俺の方へと向かって迫って来ていた。
「地面から槍か……軌道も見づらいし、対処もしにくいだろうな」
けれどもまぁ、戦えないって訳ではない。
俺はそのまま化け物となったルルゲイルの元へと走り出す。
「ははっ! おいおい、積極的なお誘いですな! けれどもこの状況で向かうのは驚きだなぁ~?
一気に向かって来るのは、無策で向かうのは正しい選択と言う事ではないと思うけどぉ? 人形になった影響で頭でも壊れちゃったのかぁい?」
「いや。だが壊れた腕は変えないとな」
俺は人形の右腕を取り外すと共に、ウルフヘズナルの右腕を取り付けると共に、蒼い火炎が左腕の剣を覆っていた。
「……!? まさか、お前も青の炎を?! ど、どうしてその炎を!?」
「お前の無意味な、遊びの結果だと言っておこう」
俺はそう言って脚に青い炎を纏わせると、その勢いで横に跳ぶ。そして横に跳んだ瞬間、俺が先程まで居た足元から血塗りの槍が地面から出る。
「なっ……!? よ、避けられた?」
なんで、と《蒼炎》は訳が分からないと頭を抱えているが、俺としては通常通りの想定内の事である。
(いや、多分こいつには分からないんだろう。見るからにこいつには戦いに対する熱意が欠如している)
ルルゲイルとは少なからず戦ったり、訓練したりなど打ち合いを続けていた。
その際にどう言う攻撃を行い、どう言う場所を狙うのが多いのか――――そう言った相手の癖と言うのは分かる物だ。今の、化け物になってしまった彼女は本能に身を任せているから、より一層癖が分かりやすくなっていた。
――――それ故に俺はこの攻撃を避けられる。
地面から、見えない位置から槍が突き刺すように来るこの攻撃も、それは化け物となってしまったルルゲイルの本能によって動いている。
ならばルルゲイルがどう攻撃するのか――――それを知って良ければいい。
――――例え、ルルゲイルが人として終わって化け物となっているとしても、それでも身体に染みついた癖はそうそう変わらない。
「えぇい、クソッ! せーっかく、強大な力を与えてやったと言うのに、それを活かせてねぇじゃねぇか! 観客として楽しみたかったが、仕方ないな!」
《蒼炎》はそう言って、片手に1本ずつ手に取って2本の長刀を構えると、その長刀にそれぞれ蒼い炎を纏わせていた。
「二刀流、か?」
「いーや? 俺様には二刀流に対するこだわりや心持ちなんかはアリはしない。ただただ、1本よりも2本の方が戦いやすいってだけの話だ。
戦いなんて、国を滅ぼすためのただの通過点にしか過ぎない。
例え一騎当千の力を持つ人物が居たとしても、全ての人間に尊敬されるような英雄が居たとしても、この世の悪の全てを担う極悪人が居たとしても、たった一度の敗北によってその全てがなかったことにされる。どんなに強い力をその身に宿していようとも、どんなに輝かしい栄光を見せつけようとも、どんなに広い伝手を持ち合わせていようとも、たった一度のミスがその全てを台無しにする」
《蒼炎》は蒼い炎を纏わせた剣を1本、ルルゲイルと言う化け物の背中に突き刺していた。
化け物はギャアアァと言う大きな悲鳴を上げながら、その力が強まっていた。身体中に大量の剣が現れ、その両脚には蒼い火炎が纏われていた。
「戦いの中で勝ち負けは関係ないとは言うが、負けるのが好きって言う事じゃないんだけどね! だから、パワーを与えてやろうじゃないか、この戦いで邪魔者を倒して本来の目的である国家滅亡を成し遂げて見せましょう!
――――だからさっさと倒しやがれ、このグズが!」
『ガゥオ!』
先程よりもよっぽどひどくおびえた様子で、化け物のルルゲイルはこちらに手を振り上げていた。
そして振り上げれた手には大量の蒼い火炎が纏わりつつ、その大きな手は大きく尖った槍のような炎として新たに作り変えられていた。
「大丈夫だ、今すぐ助けてやるよ。ルルゲイル」
『ガゥッ! ガウガウッ!』
化物はそのまま蒼い炎の槍と化した腕を振り落とそうとするが、先程の地面からの見えない攻撃と比べれば見えるだけでもこんなのは雲泥の差である。
ただ強くするだけではなにもならない。大切なのはその強さにきちんと実力が身に付いてないといけないのだから、ただ強くて暴走するだけなら誰にだって出来るのだから。
「俺にとっては先程までの方がよっぽど強力だ。力負けするのは怖いが、これなら大丈夫だからな」
俺は今度は左腕を取り外すと、そこに別の魔物の左腕を取り付ける。取り付けると共に左腕が奇妙な緑色に変わり、大きく膨らむと共に、両腕が巨大な形へと膨らんで行く。
「両腕を巨大化ぁ? 単なる見かけ倒しだろぅ? やれぇ、ルルゲイル!」
《蒼炎》は笑いながら、ルルゲイルに命令を下していた。
「そっちの、ただ巨大にした赤い槍と化したルルゲイルの手を見てそれを言えるとはな。
ただこちらは違うぞ、ちゃんとこちらには実感と実力を伴っている。きちんと練習済みだ」
俺が魔力を溜め、腕に力を込めて力こぶを作る。
そして片腕で持っていた剣を両腕で握りしめると共に、ルルゲイルの赤い槍を防いでいた。いや、どちらかと言うとこちらの方が押している形である。
「――――せぇい!」
そしてそのまま赤い槍を地面へと深く突き刺すと、剣を縦に振る事によって腕を胴体と切り離す。
蒼い炎の槍と化した腕を切り離すと同時に、もう片方の腕も同時に切り離していた。
「両腕が使えなくなったとしても、まだまだ化け物となったこいつには攻撃手段が存在する! さぁ、やれ、ルルゲイル!」
すると後ろ足を自ら地面へと突き刺すと、そのまま大きく口を開ける。
「波動砲か、なにかを撃とうとしているのか? けれども無駄だ」
俺はそう言って剣をしまって、両腕の拳を強く握りしめて両足に力を込める。そして地面を蹴ると、脚から出ている蒼い炎が加速となって後押ししていた。
そのまま俺は拳を強く握りしめると、ルルゲイルの顎を握りしめた拳によって殴る。殴ると共に顎が勢いと共に閉じ、波動砲を止められなかったルルゲイルの口が暴発する。
『キャインッ!』
そしてそのまま黒い煙を持って、彼女はその場に意識を失ったように倒れ伏していた。
「……あぁ、もうクソゥ! まさかこの辺り一帯を焼き尽くす破滅の咆哮が破れるとは!?」
……なに、物騒な力を使おうとしてるんだよ。本当に。
「お前の目的は国家滅亡なんだろう? 今の化け物の咆哮だと自分も死んでたんじゃないか?」
そう聞き返すと、「ケラケラ……」と《蒼炎》は笑っていた。
「いーや、俺様は死ぬ事はない。俺様には死は訪れないし、終焉と言う言葉は似合わない。だからそう言う事も出来る。
俺様は倒す事など出来ないんだよ~!」
「ギャハハハ!」と下品に笑いながら、《蒼炎》は笑っていた。
「……まっ、だからと言ってもこのまま国家滅亡と言う俺様の超・絶楽しい願いを叶えるためには、お前の存在が厄介極まりないのは確かなようだ。
ならば今度は、今度こそは、お前を本当に邪魔な存在として認識して、お前をぶち殺して見せようじゃないか! まぁ、それはともかくとしてやっぱりお前を倒すためには、色々とやらないといけないよな?」
《蒼炎》はそう言いながら、剣を取り出す。
そして――――
「なっ……!?」
俺は驚く。《蒼炎》はなにをとち狂ったのか――――
"自分の頭にナイフを深く、深く突き刺していた"。
「さぁ、第2ラウンド開始と行こうじゃないか?」
死ぬ間際の人間が言うとは思えない、不穏な言葉を言い残して。
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