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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
王都と《蒼炎》の銀の書

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54/90

宿敵はいつ見つかったのか

 騎士人形こと俺、ジェラルド・カレッジは王城の中を散策していた。

 一緒に居たはずのアケディアがいきなり消えたのは少し気にはなったのだが、彼女を探すよりも一刻も早く《蒼炎》を探すべきであると考えて彼女の捜索は諦めた。


 《蒼炎》は今は親衛隊長ジェラルド・カレッジとしてこの城の中を歩き回っているはずであるため、居るとすれば姫様達が居る王家の間、もしくは(ジェラルド)の自室だろう。


「出来れば自室の方に居て欲しい物だが……」


 今、この城には姫様が居る。

 魔物を払いのけると言うその特殊な王家に伝わる力を持つ姫様には、出来れば何も知らずに事を終わらせたい。

 ――――そう、俺がこんな姿になっていると言う事は知られずに、だ。


 "親衛隊長ジェラルド・カレッジが死んだ"、そして実は危機も去っていた。

 それが俺の望む一番の理想的な形だ。


「そのために、この辺りで見つかって欲しい物だぜ……」


 と、俺は自室の扉に手をかける。

 ……鍵は開いているみたいだな。


 扉を開けると、そこには懐かしい我が部屋がそこにあった。

 服を入れるための備え付けのクローゼットと物を書く時に使う木の机、そして騎士団の皆と撮った想い出のアルバム……相も変わらず、この綺麗に整った自室を見ると落ち着く。

 ……《蒼炎》はこの部屋はあまり弄らなかったみたいだな、俺としては少し嬉しい。

 生前の自分が感じられるこの部屋が、何も変わらずに残っているのを見ると嬉しい限りだ。


「……いや、少しは弄っているみたいだな」


 他のところには埃が積もっているが、この机の上には埃はない。

 ――――生前はほとんど掃除していなかった机の上が埃がなく掃除されて、さらに見た事もないノートまである。このノートの中身については非常に気になるところではあるが、今はそれよりも《蒼炎》を探すのが先決である。


「とりあえずこのノートは後で確認しよう」


 俺はそう言って自分の人形の身体の胸の真ん中のパーツを開けて、身体の真ん中に机の上にあったノートを入れる。


 ……しっかし《蒼炎》はどこに居るのだろう。


「……自室ではないとすると、裏で怪しい作業をしていても何も問題がない場所と言う事になるな。とすると、どこだ?」


 迷っていても、考えていても、仕方がない。

 元々、頭で何かを考えると言うタイプでないんだから、足で探さないとな。


「よし、じゃあ次は訓練場の方でも――――」


『ガゥゥゥゥ!』


 ぐふっ、といきなり俺はなにかによって吹っ飛ばされる。


「ここは……外か?」


 どうやらクローゼット辺りにかくれていた何者かによって、俺は自室から外の中庭へと飛び出されてしまったようである。


「――――いったい、誰に……」


「おいおーい、自分の部下の姿も忘れてしまったのかい? なんとも薄情な、親衛隊長さんじゃあーりませんか?」


 なんとも久方振りに聞く自分の声、そしてそれと同時に人をイラつかせる口調……これは……。


「《蒼炎》!!」


 俺の目の前に居るのは、俺の姿を奪った俺……《蒼炎》の姿。

 俺の顔でへらへらと笑みを浮かべながら、満足げな様子でほくそ笑んでいた。


「やぁやぁ、隊長さ~ん。まさかそんな、情けないような姿になってまで、城に乗り込んで来るだなんて思っても見なかったよ。うちの国の姫様は魔物を払いのける力を持っているって言うのにさぁ、精神はなんらかの形で生き残っているかもしれないって言うのは思ったけど、そ~んな魔物の姿で来るだなんて笑えて来るぜ~」


 う~ぷすぷす、とこちらに向かって笑っている《蒼炎》。そして彼はパチンと指を鳴らす。

 すると、いきなり彼の横に立っている木々の葉が揺れ動き、そこから1つの影が現れる。いや、1体の化け物と言うのが正解か。


 どす黒い巨大で歪な腕、闇を思わせる身体の倍はあろうかと言う足からはうじゃうじゃと黒い触手がうねっている。

 大きく開いた口、ぎょろぎょろと動く緑色の不気味な瞳。細長い緑色の顔に、額で蠢く蟲を思わせる複眼。


 おおよそ人間とはかけ離れた、人型の化け物。

 その化け物は見覚えのある騎士団の制服を着ており、その胸には団員個人を指し示す団員章が付けられていた。


「その団員章は……まさか、ルルゲイルの!?」


「そうそう。それは彼女の元の名前、だな。今の彼女は違うがな。

 マルティナ姫の力は魔物を払いのけるらしく、俺様の配下の魔物の大半がこの城に入って来れねぇんだ。だから俺様の力を使って中から魔物を用意した。そのために彼女を化け物へと変えたのだが、お気に召してくれたかい? 」


 化け物……いや、槍の名手であった女騎士は悲しげに雄叫びをあげる。

 かつての面影を失くした彼女は、俺の姿を奪った男に「うるさい!」と理不尽に殴られていた。


「やっぱ、ダメだなぁ。元が人間なだけあって、下手に知恵があるせいでうるさくてしょうがねぇ。でもまぁ、仕方がないか……これくらいで良いだろう? 俺の目的は――――この国の滅亡なんだから。こーんな出来損ないの出来不出来なんかはどーでも良いんだからよぉ。なっ、ルルゲイル? ほら、遊んでやれ(・・・・・)


『ガゥ! ガゥ! ガゥガゥ!』


 そして怪物は地面を蹴ってこちらへと跳び上がり、その異様に長い爪によって引っ掻いて来る。

 俺はその攻撃に対し、剣を持って爪を防ぐ。


『ガルルルルゥゥゥゥ……』


「ルルゲイル……」


 ルルゲイルとの交流は非常に少ない。

 槍などの長物が得意な、非常に熱心に活動する騎士であった事くらいしか印象がないが、それでも化け物になって欲しい・なっても不思議ではないくらいの嫌味な奴だと言う事はない。

 むしろ、どうしてそうしたのかと思っているくらいだと感じている。


「……《蒼炎》、お前は――――どうして、ルルゲイルを……」


「理由なんてないよ~、どんな事にも原因と理由があるだなんて言う事はないだろう。

 理由なき暴力、理由なき戦い、理由なき行動など、理由がなくて行う行為だってあるだろう? それでも敢えて言葉にするとしたら、たまたまだぜ~。そう、たまたま選ばれたっていうな~」


 げへへ、と下卑た目で俺の身体を睨む《蒼炎》。


「腕、脚、胸、顔……どこもかしこもびみょーな人形にしか見えないけれども、それでもその中に隊長の意識があると考えるだけでもワクワクが止まんないよ~。

 さっ、始めようじゃないか。人を捨てた怪物のルルゲイルと、人の身体を捨ててしまったジェラルド隊長という……人を捨てた者同士の戦いが今幕を上げるって、ね!

 げへへ、ルルゲイル~♪ ジェラルド隊長をバッタバッタ、とや~っつけてしまいなさいな」


 そして《蒼炎》の言う通り、化け物となったルルゲイルはこちらに向かって来る。


 ……くそっ、やっぱりやるしかない。


(こうなったら仕方がない、彼女には悪いが彼女を倒すしかない。いや、倒す事で開放する事が彼女にとって一番良いのかも知れない。

 彼女の精神を救うのはそれが一番なのだから)


 俺はそう考えて、ルルゲイルを止めるために剣を構える。


 今の俺にあるのは1つの気持ち。

 そう……彼女を化け物になってしまったのを救うために、彼女を倒す事に決めたのだ。


 人を助けると言う想いを持って、その人を倒す。

 何だかひどく矛盾しているようだが、根幹である「その人を助ける」と言う想いに変わりはない。


 なにはともあれ、遂に見つけたのだ。

 俺の身体を奪い、大恩あるこの国を自身の勝手な欲望なんかのためだけに滅亡を企む、既に生きていない身勝手な死人――――《蒼炎》を。



「さぁ、《蒼炎》。すぐさま消えて貰うぞ、この国から」



「あぁ、滅亡したら出ていくさ。また新たな国を探しにねぇ」



 ――――さぁ、ここが正念場だ。

よろしければご意見、ご感想をくれると嬉しいです。


【追記】

5月24日にジャンル再編されましたので、この小説のジャンルを「ハイファンタジー」にさせていただきました。

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