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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
王都と《蒼炎》の銀の書

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53/90

エルフの編み出した武芸とはどのような物か

 ケルヴィンはラースが迫って来るのを感じると、嬉しくて口元から涎が垂れていた。


 ケルヴィンは刺激が大好きだ。何故、好きかと言われれば、自分が生きていると言う事を実感するからだ。

 ケルヴィンは生まれつき異常なまでに身体が硬く、それ故にあまりダメージを受けると言う感覚がなく、感情が薄い子供だった。


 人の感情と言う物は、なにかの刺激によって変わる。

 嬉しさも、悲しみもも、怒りも、楽しさも。感情と言う物は何かを受けた事に対して起こる反応だからである。


 人に褒められたから喜ぶ。

 人に嫌な事をされたから悲しむ。

 人に貶されたから怒る。

 人と共有して楽しい。

 そう言った、何かを受けた反応があるからこそ、それを受けた反応を積み重ねる事によって、人は感情が豊かになるのである。 

 ダメージ、つまりは刺激を受けにくい身体であるケルヴィンはその刺激が少なかった。


 人に褒められても、褒められるとは思えず。

 嫌な事をされても、そう言う行為だと考えず。

 貶されても、平気な顔をして。

 共有しようとしても、他人と同じ感覚を持たない彼女はなにかを共有すると言う事が出来なかった。

 人と違う感覚を持つ彼女は、普通の人と同じように出来なかったのである。


 そんな時に出会ったのが、《蒼炎》である。


「あぁん♡ 良いわぁ、どんな攻撃をしようとも、ガチガチの防御で防ぎきって見せるわぁ♪」


 《蒼炎》は彼女に対して、魔法を施した。

 《蒼炎》の青い炎の一部を身体に埋め込まれる事によって、彼女は仮初の感情を得た。


「どんな事になるのか、ドッキドキで楽しみだわぁ☆」


 《蒼炎》がケルヴィンの身体に入れた炎は、《蒼炎》が望むように感情を操作する。

 《蒼炎》が喜ぶ事をする事で、自分が喜ぶ。

 《蒼炎》が侮辱される事で、自分も怒る。

 《蒼炎》が悲しむ事で、自分も悲しむ。

 《蒼炎》が楽しむ事で、自分も楽しむ。

 ――――《蒼炎》が嬉しいと思われる行動をする事によって、自身も嬉しいと感じるように改造されているのだ。


「――――あぁ♡ 本当にあなた達と戦うと、胸がドキドキとして感情が高ぶるわぁ♡ もっと、もっとあなた達の愛を私に感じさせてぇぇぇぇ♡」


 彼女は盛大に勘違いしているが、《蒼炎》のために混乱を起こす。

 その事に興奮している事は確かである。


 ラースはケルヴィンの元へと辿り着くと中腰姿勢で、弓を張って矢を構える。


「いっくわよぉ♡ この青々しくてゴウゴゥと燃え上がる炎を受けてみなさぁい☆」


 ケルヴィンは両手に青い火炎を構え、それを2本の巨大な青い炎の大剣を模してそのままラースに向かって斬りかかる。

 対してラースはケルヴィンの攻撃を見ると、弓を構えてその弓矢を放つ。


 弓矢を放つとその弓矢でケルヴィンの右手を射抜くとケルヴィンは右手から大剣を手放し、それを見た後に彼女は弓から片方の手を離して拳を強く握りしめる。

 拳を強く握りしめて、その拳に大量の魔力を込めて力を込める。


「そのまま殴っちゃうの? ズキズキと痛そうで快感が来そうで、だけどその攻撃は御免こうむるわぁ!」


 ケルヴィンはラースの方に左手の(てのひら)を向けて火炎を出そうと向けるも、ラースはそんなケルヴィンの左腕を弓を木刀のようにして叩く。

 叩くと掌は地面の方へと向かれ、そのまま掌から蒼い火炎が放出されて地面を黒く焼け焦がす。


 その蒼い炎によって地面が焼け焦げて視界が煙に支配され、出来た一瞬の隙のうちにラースはケルヴィンの身体にその拳を叩き込む。


「あはぁ♡ 良いし・げ・き♪」


 《蒼炎》によって埋め込まれた蒼い火炎の力によって痛みなどで相手から逃げる事が無いように、痛みを快感へと変えられている彼女はラースの攻撃を受けても痛みで退く事なく向かって来ていた。


近弓武芸(マーシャルアーク)、魔拳連打拳!」


 そして退く事なく向かって来るケルヴィンに、ラースは魔力を込めた拳を複数叩き込みつつ、弓を木刀のように使って相手の距離を取る事も忘れない。


「あぁん♡ い、いったぁい♡ でもゾクゾクするわぁ♡」


 攻撃を受ける度に嬉しそうな表情を浮かべるケルヴィン。

 ――――しかし、その表情がラースの魔力を込めた拳を受ける度に、徐々に苦悶の表情へと変わって行く。


「……あ、あれ? こ、ここ、攻撃がブルブルと震えて快感に変わらない……わ。ど、どど、どうして……?

 い、いやっ。だ、だめ……やめっ……」


 ラースはそのまま無心に、相手の身体へと拳を叩き込む。


「こんなワクワクできない快感(痛み)は……ノーサンキュー、よ☆ 兵士達、戻りなさ~い☆」


 ケルヴィンが慌てて自分の元へ兵士を戻そうとするも、前衛の8人の兵士達は復活した兵士も含めてインヴィディアの手によって洗脳されて元へ戻らない。

 残りの復活した後衛の5人の兵士達が向かって来るが、ラースは後衛の5人に対して弓で叩いてその場に叩き伏せる。


「弓を木刀のように使って叩き、拳に魔力を込めて相手の懐に叩き込む独自の近接格闘術、近弓武芸(マーシャルアーク)! インヴィディアと2人で開発したこの武芸が、そこら辺の変態なんかに負ける訳がないなの!」


「バカな……私は刺激を受けてゾクゾクするように、《蒼炎》様に改造されたはずなのにぃぃぃぃ!」


「残念ながらこの近弓武芸に、相手の相性なんてのは関係ないなの!

 真の武芸とはどんな状況であろうとも、どんな相手であろうとも、きちんと対処できる事こそが真の武芸なの!」


 一発、一発、魔力を込めた重い一撃を与えながら、ラースは魔力を右手に集約させた以上の魔力をその右脚に溜めていく。

 ラースが右手で叩き込むと共にケルヴィンの顔が曇り、右脚に途方もない魔力を秘めている様子を見てケルヴィンの顔が苦悩に満ちる。


「全ての生物は魔力を持っており、その体内にある魔力を操る事さえできれば誰にも負ける事はないなの」


「グフッ……ま、まさか……」


 水の国シュトルーデルカには最強の対人戦武芸として、相手の体内の水分を操作して相手を自分の意のままに操る拳法が存在する。

 この拳法が最強と呼ばれる由縁は、どんな人間であろうとも水分を持っているため、どんな相手であろうとも自分の持ち味が活かせる、故に強いのだ。


 しかし、魔物の場合に限っては水分を持たない魔物も存在する。

 そんな水分を持たない魔物であろうとも、持っている物――――それが魔力。


「あなたはどうやら体内にあるあなたではない、別の人間の魔力によって刺激を受けても大丈夫な、普通の人とは少し違う精神構造をしているのだと理解したなの。

 そんなあなたであろうとも、相手の体内の魔力を操って戦闘不能に陥れるこの近弓武芸の力からは、逃れられないなの」


 そう言いながら一発、一発、魔力を加えられた拳によってケルヴィンの負けは近付いて行く。

 本来の、《蒼炎》に魔力を加えられる前ならば彼女はその痛みをもろともせずに戦う事が出来ただろう。


 ――――しかし、彼女は知ってしまったのだ。

 自分が知らない、感情と呼ばれる物を。

 それが彼女の敗因になったと言えるだろう。


「――――い、いや……ゴッソリとう、奪わないで……私から感情を……」


「奪ってない、なの。ただ魔力を操作して元通りに直しているだけ、なの!

 これで止め、なの! 近弓武芸、意識剥奪脚!」


 弓で殴って強制的に地面へと顔を向けさせたラースは、その顎に対して遠慮なく蹴りを叩き込む。


「ぐはっ……ば、バカな……わ、私のドキで、ムネムネするはずが……こんな事になるだなんて……」


 そのまま意識を失うようにして倒れるケルヴィン。


「やったわね~♡ ラースちゃん♪」


「……うん、まぁ、倒せて良かったなの……。

 さぁ、囮役を続けましょうなの。こんな青い炎を使う、あのユーリ・フェンリーを彷彿とさせるような変態女の上司を騎士人形が倒すのを」


 そう言いながらラースは弓を構えて、次に向かって来る敵を見据える。


 彼女達の前には青い炎を纏った、沢山の狼魔物の姿があった。


「どうやら敵さんはまだ……襲い掛かってくるようなのから」


「そうみたいね~♡ ……もう、こんなに多いと大変♪ けれども、こっちにはさっき手に入れたこの子達が居るわ♪」


 インヴィディアの周りには先程戦った際に洗脳した、8人の青い炎の兵士が控えていた。


「そいつらは……良いアイデア、なの」


「えぇ♪ どれだけ役に立つか、楽しみね♡」


 2人の戦いはまだ続く。

 ――――騎士人形が目的を果たすまで。

近弓武芸(マーシャルアーク)

…ラースがインヴィディアと編み出した、弓を用いた近接格闘術。弓を木刀のように用いつつ、弓に宿る木々の精霊の力を借りて相手の体内の魔力を直接乱すと言う、ある意味恐ろしい格闘術。相手が離れた場合は弓を放ち、近すぎた場合は拳でけん制するなど効果範囲が幅広い。


【ケルヴィン】

…元々異常に硬い。《蒼炎》の手によって感情を得て、不気味なピエロを演じていたが、感情を得た事で脆さも得る。


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