妖精と黒妖精は誰と出会うのか
アケディアが擬態魔物のドン・ジュールと謎の空間で戦っていた頃、ラースとインヴィディアの2人は城の前にて囮役に徹していた。
「喰らいなさいなの、『困惑の矢』」
ラースが弓を構えて弓矢にどす黒いオーラを纏わせて、対処しに来た兵士達のうちの1人に弓矢を放っていた。
弓矢に射られた兵士は瞳に星が入り、周囲に居た仲間の兵士達を攻撃していく。
「――――呆れたなの、ここの兵士達は毒に対する訓練を受けてないなのか。ダークエルフの民達ならば、こんなふがいない結果を出したら一晩中木に吊るされていますなの……」
植物毒を操って狩りを行うダークエルフ達にとって、『困惑の弓』と言う先端にほんの少し毒を付けただけであそこまで毒に翻弄されていたら容赦なく、お仕置きをされているだろう。
まぁ、王城に勤務する兵士達が毒に対する訓練を受けるかどうかと言われれば、どうかと思うが。
「そうね~、ちょっと弱いわねぇ~♪」
インヴィディアは白い球を作り出すと、その球がラースが射抜いた兵士とは違う兵士に当たる。
白い球が当たった兵士は全身が真っ白に光り輝いて、彼の身体全身を神々しい雰囲気が纏っていた。そしてその白い兵士に向かって傍にいた兵士達がその兵士に向かって兵士が攻撃を開始し、その白い光が攻撃した兵士達に伝わって行く。
「……相変わらずインヴィディアの白光は凄いなの。攻撃を誘発させるその魔法は」
「あら♪ ただ私は、人の注目を集めると言う魔法を与えただけよ♪」
(それが凄いと言う事なの……)
人と言うのは、どのような行動に対しても狙いを付ける生き物である。
歩く際は歩く方向に目を向け、攻撃する際は攻撃する方向に多少なりとも視線を向け、考え事をする際でもどう言った結果になると良いのかをあらかじめ決めて考える、狙いの方向性を決めて生きていると言っても過言ではない。
そんな狙いを付けて行動する人に、どうしても目が離せない者が目の前に現れた場合、どうするか?
例えるなら、目の前にうっとうしくて溜まらないハエが現れた場合、我慢してやり過ごすか、潰しにかかるかどちらかだろう。
インヴィディアの魔法は受けた相手を見ている者にとって注目せざるを得ない標的に変え、そして人々がその人物を潰しにかかるように誘発する魔法なのだ。
この魔法をくらった者は周りに居る人物から本能的に襲われ、襲った人達も今度は襲われる側に回る。
「延々と続く狙われる人物の連鎖……同士討ちを狙うのにこれ以上即した魔法はないなの。私の『困惑の矢』は相手を混乱させるだけの魔法だから……」
「でも、どっちも素晴らしい、囮役と言う周囲の目を惹きつけるのには即した技だと思うわ♪ そしてこれを計画したあの人も、ね♪」
そうやってニコッと笑ったインヴィディアを、ムッとした表情で睨むラース。
「……インヴィディア、それは違うなの。あいつが勝手に巻き込んだだけなの。
私達は確かにあいつの作戦に協力しているなのが、それはあいつが気になる事を言っていたからなの。この国が《あおいほのお》を操る人物に狙われていると……」
《あおいほのお》。
それはラースとインヴィディアに対して刻印を押し付け、インヴィディアに至ってはこの間まで監禁をしてきたユーリ・フェンリーを思い浮かべるワードである。
妖精とダークエルフの知識の中で、歴史の中で青い炎を使った人物と言うのは存在しない。
炎と言うのは赤いもの、そう決められている中で青い炎を操ると言うのはとても気味が悪く、奇妙な事なのである。
この人物が何者で、そして青い炎をどうして使えるようになったのかは2人とも気になっている。
これがただの偶然や勘違いならそれでも良い。
だが、世界が崩壊してしまう予兆なのかもしれないのだ。
今までに例のない者が現れると言う事は、今までになかった事が起きると言う事。
その起きる事がなんなのかが分からないから、2人は焦っているのである。
「……まぁ、確かに青い炎がなんなのかは私も気になるわ♪ 炎の妖精さんに聞いても、赤い炎しか知らないって言うし♡ 正直、怖いわ……」
「大丈夫なの……インヴィディアは私が守るなの……」
「えぇ、そうね~♪」
そう言ってお互いに触れ合いながら自分の存在を確認し合う2人。
「いやはや、なんとも良い友情……と言うか、恋愛ですなぁ~♡ ごっちそうさまですぅ、グヘヘヘ……」
と、そうやって兵士達を困惑している2人の前に1人の人物が現れる。
その人物は今まで2人が相対していた格好をきっちりと揃えた兵士達とは違い、明らかに別種の雰囲気を漂わせる女であった。
顔は白い肌地に、目元と頬に赤いメイクが施されたピエロを思わせる彼女は刃渡りが欠けた剣を両手に備えている。全身は原色のみを使った派手なデザインの洋服であり、身体全身で陽気さを表したような彼女の格好とは裏腹に、ラースとインヴィディアの2人はその彼女に強烈な敵意を持っていた。
2人は確かに雑談をしていたが、それはあくまでも周囲を警戒出来るレベルでの雑談である。
本当に強い者が現れた場合はすぐさま雑談を止めて、戦闘態勢に映るだけの準備はして喋っていたのである。
そんな警戒している最中で現れた彼女は、2人にとって警戒に値する人物であった。
「貴方は一体……何者かしら? 良ければ教えて欲しいわね♪」
「……私も同意するなの」
警戒しつつ、相手にそう質問すると、ピエロ風のその女性は、悲しそうなメイクが施された顔とは裏腹に楽しそうに笑っていた。
「――――私の名前はケルヴィン。百合百合しい女の子同士の関わりが大大大、大好きな~、今のジェラルド・カレッジ様の部下ですわよぉ♡」
『今の』、と言う所を強調して言うピエロ風の女性、ケルヴィン。
つまり今までのジェラルド・カレッジとは違うと言う意味から、2人は確信した。
――――こいつは《蒼炎》の《仲間》であり、自分達の《敵》である、と。
よろしければご意見、ご感想をくれると嬉しいです。




