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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
人形と怠惰の白き書
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人形はどうやって魔物を倒すのか

 奇形児の奴隷を運んでいた運び屋の俺達2人は馬車を捨て、ひぃひぃ言いながら林の中を進んでいた。


「お、おい、聞いてないぞ、こんな依頼だなんてよぉ! 騎士様は我々人々の味方だったんじゃないのか? 積み荷の中にあんなのが付いているだなんて聞いてないぞ!」


「言い訳をしてる場合じゃないぞ、ガヤ! 逃げねぇと! 奴に、騎士団長にはめられた!」


 あの騎士団長は元々俺らに金を払う気なんてなかったんだ。

 依頼人の騎士団長様は俺らに大量の奇形児と、奇形児を大人しくするための箱が積まれていたのだが、その積み荷こそが問題だったのだ。

 その積み荷の中身は魔物をおびき寄せる集魔草(しゅうまそう)と呼ばれる草であり、そんな集魔草が箱いっぱいに敷き詰められていたのだ。つまり俺らは魔物が出やすい地域で魔物が好む臭いを漂わせつつ、走っていたということなのだ。


 集魔草に呼び寄せられた魔物に襲われた奇形児の馬車。

 俺達は積み荷を放り出して、そのまま逃げだしたのである。なにせ、命以上に価値のある積み荷はそこにはなかったのだから。


「ガッ、ァァァァ!」


「「ひ、ひぃっ!?」」


 荷馬車や集魔草の積み荷もどちらも捨てて、必要最低限の荷物だけ持って逃げ出したのだが、ソードタイガー達は鋭い剣のような爪を振るいながらこちらに迫って来ていた。


「――――――おいおい、どうして迫って来るんだよ!」


「ガッ、ガヤ! そう言えばあの騎士様が……」


 俺達は騎士団隊長の、仕事を頼ませてもらった時の行動を思い返していた。

 あの時彼は王様に渡すための水が入った桶を運んでおり、ちょっと手伝ってくれと言われて……うっかり手が滑って――――


「「あぁっ!?」」


 水を被った俺達はその後、しばらく特徴的な臭いが取れなくて、集魔草の積み荷を放ってでもこちらに向かって来る魔物を見るともしやあの水は……集魔草を溶かした水か!


「や、やべぇぞ! ガヤ! 俺達にあいつを倒す力はないんだから!」

「お、俺に振られても困るんだが!」


 俺達は所詮は積み荷を運ぶために雇われた下っ端達だけであり、普通に戦ってお金を稼ぐことが出来ないからこそ奇形児達を運ぶと言う事を引き受けたくらいなのだから。


「ガォォォォン!」


「「ヒィィィィ!」」


 ――――それ以降、彼ら2人の姿を見た者は居なかったという。



「おいおい、なんだよ。こりゃあよ」


 俺、ジェラルド・カレッジは目の前に広がる光景を、馬車に襲い掛かる魔物達を見ていた。

 指の1つ1つが尖った剣のような獣の魔物であるソードタイガー、背中が燃え盛っているコロナバード、そして俺と同じ錆びた鉄人形のラスティードール。襲い掛かる彼らは馬車をまるで好物でも見つけたかのように襲い掛かっている。

 確かに良い匂いは、ここからでも香って来るが……。


「この香り、まさか集魔草か?」


「……えぇ、魔物を惹きつける草の香りでしょう。こんなに強いのは初めて、ですが」


 魔力を蓄えて育つこの集魔草の独特の香りは、人間には醜悪な臭いであるが、魔物にとってはどんな好物よりも飛び付きたいほどの匂いなのであり、魔物をおびき寄せるために使われるのだが……


「(人間の時は鼻が曲がるかもと思っていたあの臭いが、今では自分から近付きたいとさえ思っている。これもまた、魔物の人形という姿になったということを実感するな)

 今はあの馬車のピンチを救うのが先だ。どうやら馬も持ち主も居ないようだ」


 恐らくは魔物に襲われた事に怯えて、商人が馬と共に逃げ出したと見える。もしかしたら馬を見捨てて逃げたのかもしれないが、今は荷馬車の中を確認するのが必要だ。

 どうやらまだ馬車の中には何人か居るらしく、悲鳴が馬車の中から響いていた。


「……まだ中に人が! 行くぞ!」


 俺は剣を構えてソードタイガーへと向かっていた。その際、後ろから女死神の制止を求める声が聞こえていたが、構いはしないだろう。


「クォォォォ……」


 目の前で唸り声を上げているのは、ソードタイガー。いつも訓練の想定相手として考えている魔物の一体だ。

 鉄のように硬い毛皮と刀鍛冶に作られた名刀のような爪。しなやかに伸びて多才に動かす筋肉と、どう猛な殺戮に長けた獣。


「……硬そう、だな」


 人間だった頃は毛皮と肉の間に剣の刃先を入れて力と技術の両方で斬っていたのが、今の錆人形の身体は錆びているから人間の時と同じようなテクニックは出来ない。


「なら、これならばどうだ!」


 俺は剣を縦に鋭く斬りかかり、ソードタイガーへと斬りかかる。

 錆びている身体だから速度がない分、ソードタイガーの毛皮は貫けない……貫けないなら、貫けないなりに方法があるというものだ。


「ていやぁ!」


「キャンッ!」


 どんな生物にも弱点と呼ばれる場所は存在する。そしてこのソードタイガーに限らず、多くの魔物の弱点、それは――――"目"だ。

 俺はソードタイガーの目に剣を突き刺して抜けないように奥に押し込んで、ソードタイガーから離れる。痛みに苦しむソードタイガーはそのまま頭を大きく振るって暴れまくる。


(痛いだろう、だが自分の爪で抜く事は出来ないよな……ソードタイガーの爪は相手を傷付けるために存在するのであって、物を引き抜くのには適していないからだ)


 ソードタイガーの爪は刃の鋭い刀剣の形になっており、なにかを切り裂くなど獲物を襲うのには適しているが、なにかを取るという細かい作業には適していない。

 狩りに大切な目を狙うのは、やはり効くようだ。


「大丈夫……戦える!」


「ジェラルドさん!」


 俺が戦闘の実感を確かめていると、女死神の焦ったような声。


「ピェェェェ!」


「コロナバードか!」


 火炎をまとった鳥型の魔物、コロナバード。

 上空から灼熱の炎で相手を焼き殺す鳥の魔物、人の時だったら戦い辛い事この上ないのだが……


「今、この場合においては……嬉しい限りだ!」


 コロナバードが俺に向かって放たれた火炎。俺は身体を捻ってそれを避け、炎は俺の下に居たソードタイガーを焼いていた。


「グワァァァァ!」


 ソードタイガーはコロナバードの炎で焼き焦げていき、炎の熱さに耐え切れなくなったのだろうかソードタイガーが訳も分からずに暴れまくる。そしてそのまま自分から木に突っ込んで自滅していた。


「やった!」


「後ろ!」


 そして死神の慌てたような声と共に、後ろからコロナバードが迫って来る。

 コロナバードはというとその両翼に赤い炎をまとわせて「キェェェェ!」と奮い立たせるように大きな奇声を発しているが、自分の攻撃でソードタイガーが倒れたから怒っているとかではなく、生存本能として俺に勝てそうにないから無理矢理迫って来たとかの感じである。


「まだま……だ……」


 やれる、そう思っていたら急に身体がガクンと重くなる。


 可笑しい、攻撃もくらっていないからまだ戦えるはずだと思っていたのだが、何故か身体が重くて……いや、身体が動かない……。


(しまった……この身体はラスティードール。人間の時とは違ってる)


 女死神の鎌がコロナバードを狩って、俺が庇われている事を知った時に、俺は自分が少し油断し過ぎてしまった事に気付いた。


 俺は殺されて、身体を奪われて、3日間動けなかった。

 そして女死神にこのラスティードールという身体を新しく貰って、さらにソードタイガーをある程度自分の思っている通りに攻撃できたのに嬉しくなって……それで……


(いや、それにしてもちょっと乗り過ぎてなかったか?)


 まぁ、今後はもう少し自制するべきなのだろう。

 俺はもう死んでいたのかも知れないのだから、そう思ってやるべきなのだろう。


「……とりあえず魔物は一掃……できたようですね」


「だな。少々危なかったが、倒せて良かったな」


 俺と女死神はそう言い合いつつ、周りに魔物が居ない事を再度確認した後、馬車へと乗り込む。

 そう、最初の目的通り、馬車の中に取り残されている人を助けるためだ。今はもう悲鳴が聞こえないが、さっきの様子だとまだ中に居る可能性は高い。


 俺と女死神は中に入る、するとそこには――――




「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 ずっと泣きながらその場に座り込んで謝っている、小さな少女の姿があり、


 彼女の体格に似合わない巨大で、ドラゴンを思わせるような深緑色の鱗で覆われた両腕には――――


 ぺしゃんこな肉塊と化している魔物の赤い血が、べっとりとねたつくようにして付着していた。

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