妖精とはどのような存在なのか
王都にはマルティナ姫が居て、俺の身体を奪って国家滅亡を企んでいる《蒼炎》が居る。
マルティナ姫には王家直伝の魔物を払いのける力があるから、今や錆びた人形という魔物の身体である俺はマルティナ姫の力によって滅せられる危険がある。もし、マルティナ姫の魔法が"人間以外を全て滅する魔法"出会った場合、俺の今の協力者であるアケディア、ラース、インヴィディアまでやられるかもしれない。
事は一刻も争う、いつ《蒼炎》がその本性を表すかは分からない。
もしかしたら今晩にでも行動に移すのかも分からず、そう考えれば一刻も早く王国の騎士としての使命を果たすために王の元に馳せ参じたい。
だが、ただ単に向かってはマルティナ姫に間違えて殺されてしまう……。
(そうなってはならない! 俺が――――俺が死んでしまえば、誰が王を助けると言うんだ……)
だから……事は慎重にすべきだ。
まずはどうすれば王城の中に入る事が出来るかの手順、そしてそれぞれの役割と責務を割り振っておかなければなるまい。
誰を囮にして、誰が入り込むための工作するか、そして誰が《蒼炎》と立ち向かうのか。そう言った、細かい割り振りをきちんとしておかねば、姫様や王様達を救えない。
「と言う訳で、インヴィディアさん。あなたの能力を教えて欲しいのだ」
策を考えるために一晩時間を借りた俺は、インヴィディアに話を得るための時間を手に入れた。
錆人形は痛みや苦しみと言った物がない、それは即ち眠気などとも無縁だと言う事である。いくら友人にべったりな者ととて流石に眠気には勝てはせず、ラースが眠ったところでインヴィディアに話を聞けば良いのだ。
まぁ……弱点としては翌日に告げ口をされたらバレてしまうと言う事なのだけれども、今はそんな後のことはどうだって良い。
大切なのは今この時、そう姫様を救うためならばそれで良い。
「ほぅ~♪ それはそれは♪ で、そこのお子様は私になんの用なのかな~?」
――――まぁ、このノリノリなインヴィディアの様子を見ていれば、ラースに言う事はなさそうだが。
夜中、ラースに気付かれないようにインヴィディアを起こしたのだが、こちらを見ながら何故か微笑んでいる彼女を見ていれば告げ口は心配なさそうだけれども。
「と言うより、"お子様"ってなんだよ? これでも普通に成人はしてるんだが」
「錆人形の成人とはなんの事だか分からないのですけれども……いや、普通にラースのように騎士気取りの人形とからかっている訳ではなく、ただ単純に興味で聞いているのですけれども。
それでも、優に100歳を越えている私にとってはみ~んな、こ ど も♪」
「ひゃ、ひゃく!?」
て、てっきり10代後半から20代前半くらいだと思っているのだが……いや、妖精と人間とでは歳の取り方が違うのかもしれない……。
そう思って思い悩んでいると、インヴィディアはうふふと笑っていた。
「なーにか勘違いしているみたいだけれども、妖精族ってのは人間と歳の取り方は一緒よ。10年経てば10歳分歳を取るし、私だってこの身体では10数年くらいしか生きてないわよ?」
「どう言う事……だ。妖精……とは?」
「妖精とは、少し特殊な生き方をする種族なのよ。
妖精は花が咲くように世界に生まれ出でるのであって、人間と同じように世界に生きる。けれどもその身体が滅びようとも魂が消える事はなく……そう、私達妖精の魂は身体が消えると同時に新しい身体が作られる。そしてその新しい身体を使って第二、第三の人生を歩む、世界という人生の流浪の民のようなものよ♪
だからこそ地位や名誉など個人そのものに強く感化されることのない、その人物の善悪で事を決める種族ではありますがね♪」
その人物の善悪で事を決める種族……。
味方になるのも、敵になるのも、その人物の気の向くままであり、死んだとしても魂が入るための新たな身体が作られる妖精族は独特の感性と価値観を持っている、という事か。
「まぁ、お前らの死生観についてとやかく言うつもりはない。今必要なのはただ1つ……お前がどのような力を持っているのか、ただそれだけだ。――――そう、姫や王を助けるために」
「……ふ~ん、確かマルティナ姫、だったかしら?」
「あぁ、我が忠義を誓えしこの国の姫様だ」
ある者は我が王国に差し込んだ光、またある者は国宝にも等しき女性などとも言って彼女を賛辞していた。他にも彼女を称える美辞麗句は多岐に渡る。
確かにマルティナ姫には、そうと言って相応しいほどの美貌とカリスマ性を持ち合わせているのであり、その言葉は確かに正しいものである。けれどもその言葉は本質は捉えてはいない。
マルティナ姫には、王達からの多大なる期待とそれを跳ね除けるほどの明るく子供らしい性格の持ち主であった。
多大なる期待と言うのはどこまでもマルティナ姫を追い詰め、さらに王族であるが故の期待が、彼女を真に追い詰めて行った。
そんな中でも俺と一緒に居る時だけは、その苦労と悲しみをまるで駄々をこねる子供のようにその苦しみを吐露されていた。
「つらい」「苦しい」「もう止めたい」など、それがどう言った悩みから来るものなのかは教えてはくれなかったが、その気持ちは俺に伝えられた。
「俺は……そんなマルティナ姫の気持ちを和らげたいのだ。
そう、俺が持てる全てを使ってでも、マルティナ姫から不安と呼ばれる全てを取り除きたいのだ。そう、それこそが俺の存在理由だと言えよう」
「ふ~ん、なるほどねぇ~♪」
なんか含みのある視線で、こちらを見るインヴィディアさん。
誤解しているようだが、俺は確かに好意を抱いているが、それは恋とかそう言ったものではなく、単純に仕える者として主の憂いを払いたいだけだ。
「まぁ、良いけれどもね~♡ 私の能力は~そうだな~♪ 分かりやすく言うと、回復魔法かな?」
「回復魔法……か。普通なら重宝するのだが……」
攻撃は最大の防御、そして回復は最大の攻撃である。
これは我が騎士団に伝わる格言であり、「相手が攻撃する暇を与えずにやる"攻撃"こそ相手を倒す最大の防御であり、"回復"を使う事で相手の攻撃を弱める事が出来る」という言葉である。
つまり回復とは最大の攻撃手段として、我が騎士団としては重宝していた。
だが、今大事なのは《蒼炎》が居る王都の城へと至る道をどうするかだ。
正直、回復能力は今現在は必要とはしていない。
「確かに《蒼炎》の元に向かうのには~、この回復能力は役に立たないわ~。人の怪我を癒すこの力を、どうすればあなたの言う、マルティナ姫探しに応用出来る術があるのか、自分でも分からなかったもの♪
私、これでもちゃーんと、ラースちゃんと一緒に協力する方法を模索したもの。だったけど、1つ妙案が思いついたのよ♪」
可愛い笑顔を浮かべながら、インヴィディアさんは指を1本立ててこちらに笑みを浮かべていた。
「妙案……?」
「そーう♪ これを見て~♪」
彼女が着ている白く裾の長い服のポケットから、1枚の羽を取り出していた。
「これは……なんだ?」
そう聞くと、インヴィディアさんはこう答えていた。
「うふふふふふふふ♪
――――これが、王都に行くためにあなたの力になるはずよ♪」
【妖精】
…自然に生まれて発生する種族であり、そのために人間のような生殖機能は存在しない。身体が失われると共に新たな身体が作られる、実質的な不死の存在。ただし新たな身体が作られるのには数年の時間がかかり、また魂が失われると二度と復活する事はない。自然と調和する種族で、多くの妖精が回復魔法を得意とする。
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