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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
研究者と妖精の緑の書

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39/90

その男はどんな物語を描くのか

 先程までとは明らかに違う、ユーリが身に纏う魔力。それはまるで湧き上がる水のようにユーリの身体から溢れ出ていた。


「ボクを怒らせたことを、後悔すると良い!

 禁術的破滅による汚れた怪物(カウムプルス)――――『再生と払拭の灰の書』最終章最終節参照」


 ラースの呪文が唱え終わると共に、その彼の背中から赤く光り輝く弓を持つ狩人が現れる。

 狩人は黒いローブを羽織って顔が見えないが、その手は所々怪我で見るも無残な姿になっており、そしてその手が強く握りしめられるのを見て、その人物の異様な執念のような物を感じるのであった。


 "少なくともあれは、ただの魔法で呼び出したものではない"。

 俺がそのフードを被った狩人を見て抱いた印象とは、そう言ったものだった。


「やれ、《ハンター》!」


 ユーリの掛け声と共に、《狩人(ハンター)》と呼ばれたフードを被ったそいつは弓を放っていた。

 狩人が赤黒い弓矢をまっすぐラースに向かって放っており、ラースはそれを弓矢で必死になって撃ち落とそうとしていた。


「――――ッ!」


 ラースは赤黒い弓矢に対して、自らの弓矢を引いてそれに当たるようにして放っていた。

 そして弓矢は放った本人(ラース)の狙い通りに、赤黒い弓矢にぶつかった。しかし、一つだけ誤算があるとすれば……。


「なっ――――!?」


 《狩人》の赤黒い弓矢はラースの弓矢にぶつかると共に、恐ろしい現象が起きた。

 《狩人》の赤黒い弓矢がいきなり怪物のような状態に変わると、目の前のラースが放った弓矢を食べたのだ(・・・・・)

 そのまま、ラースは赤黒い弓矢に撃たれた。


「……ラース!?」


 俺の目の前で撃たれたラース。

 ラースはまるで糸が切れたかのように、その場にゆっくりと倒れる。

 ――――それはユーリ・フェンリーの言葉で語るのならば、まるで劇中の1つの山場(シーン)であった。



「さぁ、踊り狂え怒り謳え!

 ――――我が哀れで愚かな操り人形(マリオネット)憤怒(ラース)よ!」



 ユーリが高らかに宣言すると共に、ラースがゆっくり立ち上がっていた。

 そんなラースの瞳はだれかに操られたかのように赤く染まりきっており、ラースは弓矢をこちらに向けていた。


「…………」


「ひぃっ! あ、あの……こ、ここ、怖いので止めてくださいですです……」


 アケディアはラースに弓矢を向けられ、尋常じゃなく震えていた。その様子を見て、ユーリは嬉しそうな顔を向けていた。


「ふむふむ、怠惰(アケディア)は良い感じに役目を果たしてくれているようだね。

 ただ怯えるだけでは普通の人間(キャスト)だったら即舞台落ちだけれども、アケディアというそのキャラクターならばやるから良いよね~。

 凄く良いね、これを書籍化する際は楽しみでしょうがないね」


 ワクワクした瞳で見つめながら、ユーリは笑っていた。


「さぁ、騎士人形(ジェラルド)よ! やる事があるのならば見せつけて見せろ! その、我が操りし憤怒のキャラクターを倒して!」


「言われるまでもねぇよ……」


 俺はそう言って、剣を持ってラースの元へ向かっていた。

 「それでこそ主人公というものだ!」とユーリが狂ったように言葉を紡ぎ、ラースが弓を大きく引いていた。


「放て、弓矢の凶弾を! そう、『狂い姫の演劇』という書物にあるように、弓矢で敵を穿て!」


「……ハイ、マスター」


 そう言いながらラースはユーリに命じられるがまま、弓矢を放つ。

 弓矢はまっすぐ俺の胸へと向かって放たれている。その狙いはどこまでも正確であり、操られていたとしてもラースの弓の腕は正確無比らしい。


(だが付け入るとすれば……そこが弱点だ!)


 俺はそのまま弓矢を真正面から位に行く形で向かっていった。それに対して俺はその弓矢を受ける形にて、身体を突っ込んでいた。


 弓矢は俺の胸を貫く。

 だが、俺の歩みは止まらない。

 元から錆人形となった時から痛みなどの感覚が無くなっていたのであるため、このくらいなんの障害にもなりはしない。


 そのまま剣を抜いて、次の弓矢を放とうとするラースの元へと向かっていた。


「良いぞ、良いぞ! 良い感じに場が盛り上がりを見せて来たじゃないか!

 この『再生と払拭の灰の書』は全ての生物……いや、全ての物体に対して狂化させる!

 全ての物を狂わせて、脚本として一番面白い作品にしようじゃないですか! そのためにさらに派手に、そしてさらに劇的な物語にしましょう!

 狩人よ、敵をさらに狂わせろ!」


 そして、ユーリの命令によって背後の《狩人》はさらに次の弓矢を構えていた。そして目の前に居るラースはこちらに向かって、弓矢を構えていた。


「同時に放て!」


「ハイ、マスター」

『YESAAAAAAAAAA!』


 ラースと《狩人》は同時に弓矢を放つ。


 ラースが放ったのは正確無比で、さらに回転をかけて攻撃力を増した弓矢。

 《狩人》が放ったのは人を狂わせ、さらにえぐるような勢いでこちらに向かって来る複数本の弓矢。

 それがこちらへと向かって来る。


(先程のラースの弓矢は威力がなかったから良かったが、今回の場合だとそう楽観視して受ける事も出来ない。それに距離から言えば、ラースの方が近い。

 ここはラースの弓矢をなんとかするのが先決だ)


 冷静に、ただどれを相手にするのかを迷わないように、俺はそう思いながら次に叩き落とすべき弓矢を選択した。


「セイッ!」


 そして弓矢を落とすと、俺はそのままラースの元へと向かっていた。そして次の弓矢を放つ前に、俺はラースの首に向かって腕を下す。


「くっ……!」


 そのままぐったりとした形でその場に倒れるラースを、俺は両手で受け止めていた。


「ただの当身だ。これで少なくとも1時間は目を覚まさない。

 相手を狂わせる力だと言ったが、狂うとは意識があるものが現象だ。意識がないものは狂わない」


「……大した判断力。侍や剣士は自分の勘と経験で物事を判断するが、騎士はそこに戦いの優先順位も考慮する。まさしく守る物がある、なにかを守るべき人を重点視した戦い方だね。

 ボクは嬉しいよ! まさか騎士気取りではなく、本当に騎士そのものの戦い方を見せてくれるだなんて!」


 騎士気取りではなく、騎士団の、それも親衛隊長になった俺だ。

 こんなのは序のく……


「だけれども、君らしくないね(・・・・・・・)


 ユーリ・フェンリーは、初対面であろう俺の技を見てそう断言した。



「君の剣の握り方、それに攻撃に対する姿勢。そこから見ても、君は直情的なタイプであると判断できる。少なくとも多くの小説を読み、多くのキャラクターを知り得て来たボクにとって、一つの所作から人の感情を理解すると言うのは簡単な行為だよ。なにせ、本と言うのはたった1行からでも、その伏線や登場人物の心情を理解する時があるのだから。

 そんな、全ての本を読んでその感情をしっかりと理解したボクだからこそ理解出来るのだ。


 君は、少なくとも本来はそんな感情で戦うキャラクターではないはずだ。

 ――――君は誰だ?」



 ――――ユーリ・フェンリーのその言葉は身体を失って、さらになにかを失いつつある『俺』に対してその言葉はと言うと、すぐに答える事も、そしてどうしても答えは出なかった。


「……まぁ、ね。そして登場人物としては良いよね。

 けれどもなにかを失いつつある物語や、なにかを失った物語と言うのは少なからずもある物語だし、人気も安定している。だからこそ、君のキャラクターも面白いね。

 ――――さぁ、もっと面白い物語にさせていただきましょうかね?」


 ユーリは不気味な笑顔を浮かばせながら、《狩人》の不気味さが彼の怖さをさらに際立たせていた。

よろしければご意見、ご感想をくれると嬉しいです。

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